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魔人の塔 後編

 落下する二人の魔人はもつれ合い、遙か階下の二階改札口前の広間を飾るガラス床を打ち破り一階の石畳へ硬質な体が叩きつけられた。茶褐色の石畳はもろく砕け割れたガラス片が二人へ注ぐ。シャイン・ガイザーとカリメギスは立ち上がり、シャイン・ガイザーは黒い小手を捻り、両腕を貫く鋭利な魔剣を緑青の胴鎧へ更に埋め込む。カリメギスの大斧が頑強な小手を離れ刃先を埋め大地へ突き立った。カリメギスの胴鎧が裂け、地響きを立てて緑青の鎧が片膝を着いたその時、魔剣へ込められたエネルギーは限界を迎え、輝く刃がカリメギスの鍵を目前に再び塵となって四散した。刃を失ったシャイン・ガイザーはカリメギスの胸部を蹴り、胴鎧をへこませたカリメギスへ魔剣を振り上げた。艶やかな緑青色の鎧が色あせ、カリメギスの胴と両腕の裂傷が修復し、両拳が必殺の輝きを湛える。シャイン・ガイザーは回避を諦め、満身の力を込めて魔剣のガードを緑青の兜の脳天へ振り下ろす。叩きつけられた魔剣は脳天を砕くが輝く拳もシャイン・ガイザーの胸を痛打した。唸る拳が黒く薄い胴鎧を打ち破り、跳ね上げられたシャイン・ガイザーは一階天井を突き破り改札口に建材の欠片に塗れて倒れた。胸の鎧は千切られたように破損し、小さな鍵が覗く胸の穴へ陽光が差し込む。


 カリメギスの鎧は更に艶を欠き、気怠げに大斧を引き抜くと二階へ跳躍する。陽光当たる二階へ飛び上がったカリメギスは飛来する黒鞘を斧刃先で打ち流し、勢いのまま床のタイルをめくり上げ、力無く崩れるシャイン・ガイザーへ歩を進めた。ファオウルを警戒したカリメギスはヒビ割れた兜をもたげ、吹き抜けをゆっくりと歩む。シャイン・ガイザーの割れた兜からは向かい合うビルの様子が見えた。上階の吹き抜けからは大勢の人々が覗き、その中には佐々木靖弥と友人達もいた。無慈悲なカリメギスの足音が近づく中、シャイン・ガイザーは起き上がろうと割れた小手を打ち立て上体を持ち上げ、震える足が足場を探す。カリメギスはふと足を止め大斧を二本の鉞へ切り替え、一本の鉞で急所を守り、油断なく辺りを見回す。魔人の聴力が硬質に地を蹴る音を捉えたのだ。弾ける轟音と共にカリメギスの巨体が揺れ跳び上がる。カリメギスの足元を銀の魔剣が切り裂きファオウルが飛び出したのだ。着地するカリメギス目がけ銀の魔剣が首を刎ねるように横凪に振られ、二本の鉞が打ち返す。己の膂力によって更に打ち上がったカリメギス目掛けひしゃげたファオウルの盾が突き出された。ひしゃげた盾はファオウル腕と一体化し、強大な拳となって強かにカリメギスの胴を打つ。手玉のように再び空へ打ち飛ばされるカリメギスの左腕が痙攣し足が震える。カリメギスは鉞を取り落とし力無く落下した。ファオウルは青い残光を走らせ風を纏う。銀の魔剣の一閃がカリメギスの股から頭頂部にかけて断ち切った。カリメギスはファオウルの背へ打ち当たると真二つに別れ、重い胴体が地へ触れる前に塵となり空へ溶けた。


 ファオウルは満身創痍のシャイン・ガイザーへ駆け寄り担ぎ上げ駅を後に走り去った。展望台へ着いたファオウルはシャイン・ガイザーをプレハブへ寝転がし、横たわる色の無い目を向けるシャイン・ガイザーへ膝を折って語りかけた。

「シャイン・ガイザーよ、何故戦う。何を守る。非常階段口には人間に殺された人間がいた。助かりたいがために生贄にする者共が魔人に勝るだろうか。」

横たわるシャイン・ガイザーがファオウルの問へ答えるには、

「カリメギスを討ち取ったファオウルよ、そもそも私はそれらを人間として見ていない。以前ササキ・セイヤは私を人間と認識した。」

言葉を切ったシャイン・ガイザーへファオウルは頷き続きを促す。

「つまり人間とは認識によって決定される物になり、私も常々そう思う。脚の生えた獣の世話はしたくない。そうだろう。そして、私にとっての人間には先がある。幸せ、強さ、愛がある。私はそれらを守るのだ。」

「では、その前にお前が死んだらどうなる。」

ファオウルはシャイン・ガイザーの垂れる腕を彼の胸へ軽く立てかけ更に問う。シャイン・ガイザーのもう一方の腕が震えて持ち上がり側に屈むファオウルの腕へ指をかけ、

「お前がいる。私と共に戦ったもう一人の人間であるお前が。」

指はファオウルの腕を滑り落ち、シャイン・ガイザーは休眠状態へ入った。ファオウルは己の腕を見つめゆっくりと立ち上がりプレハブを出る。草を踏みつけ展望デッキへ上り街を眺めた。

「私が人間か。シャイン・ガイザーよ、私はお前の強さに憧れていた。であれば、人間のお前に近づき過ぎたのかもしれない。」

魔界の光が消えていく。街の方々でサイレンが鳴り響き、魔人達の戦いの区切りを知らせる。デッキへ仁王立ちに思案するファオウルは、魔界にはヴァザーゴとザラガスのみが残ること、次なる魔人が黄金を纏うザラガスであることが解っていた。具足を立てシャイン・ガイザーの倒れるプレハブへ目をやったファオウルは己の力不足を痛感する。ファオウルはカリメギスを一人で打倒する腹積もりであったが、力及ばずシャイン・ガイザーと共に戦ったのだ。結果として、シャイン・ガイザーは最早まともに戦える状態に無く、ザラガスへの切り札が失われてしまった。ザラガスは魔界きっての勇士、角力において他の魔人を圧倒し、万を超える世界をエネルギーへ変換してきた歴戦の魔人である。武器を交わし戦える者は万全なシャイン・ガイザー、あるいは魔剣士サオロスくらいだろう。だが、拳を握るファオウルには勝利の秘策が一つあった。秘策を胸に秘めたファオウルは手を下ろし腰の魔剣を握りしめ、隠れ家へ駆け戻る。


 魔人がシャイン・ガイザーとファオウルに倒された後、僕たちは駅から救出された。幸い赤尾くんと鈴木くんの両方の親は無事でタクシーで家まで送ってもらった僕は一息をついた。でも、ファストフード店のあの子は生きていたのだろうか。それともあの子も前田くんのように・・・。考え込む僕はお母さんに出迎えられニュースの流れるリビングでソファーにも座らずボーッと立っていた。千人を超えるニュースで凄まじい惨殺事件について仕切に想像を膨らませて語り、不安を煽っていた。口元を手で軽く抑える。本当に、あの短時間でこんなに殺せるなんて。次々と死者数の推定が増え遂に三千人を突破した。次の戦いまで後どれくらいなのだろうか。この戦いは何人を犠牲にするのだろうか。

「今回も大変だったね。」

「本当に大変だった。これじゃ人型の災害だね。」

僕の答えに「確かに」と言ったお母さんは台所へ引っ込んでいった。液晶に映る駅やショッピングモールで広がるあまりの凄惨な様相に僕は何か出来なかったかと今一度自問自答するが、答えは出ない。理性では何もないことは解るが、それでもなんとかしたくなる。ファストフード店から逃げた僕は彼らを見捨てたのでは無いのか。

「あの子の目は当分忘れられないな。」

ポケットの携帯電話を充電器へ繋ぎ、柔らかいソファーへ身体を預け天井へ溜息をつく。大きく伸びをする僕へ、

「ほら、ジュースでも飲んで。今日は頑張ったね。」

お母さんがオレンジジュースの注がれたコップを手渡し、僕を労う。僕は一気にジュースを飲み干し、

「全くだよ。今日は頑張った。兎に角、鈴木くんと赤尾くん達が無事で良かったよ。ファオウルへご飯を持っていかなくちゃ。」

そう言うと疲れがソファーにもたれこむ僕の瞼を引き下ろした。

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