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魔人の塔 前編

 ガラスにまみれたファオウルは折れた左腕を修復し立ちあがると、

「ファオウルよ、誰が来た。」

赤銅のファオウルの背へシャイン・ガイザーが立つ。ファオウルの問いかけに対する応答を待たずシャイン・ガイザーは黒い鎧を揺らし二階、三階へ跳躍し割れた天井を通り抜け屋上へ飛び出した。

「大食らいのカリメギスだ。凄まじい回復速度だったが、それなりにエネルギーを消耗したはず。緑青の鎧で音を立てて人間を求めているだろう。」

屋上床へヒビを走らせ着地したファオウルがしゃがみ込みカリメギスの踏み割った床を触るシャイン・ガイザーへ答えた。シャイン・ガイザーは立ちあがり黒い指を真っ直ぐに大きなビルへ向ける。

「駅だ。行きがけに確認したが、付属する大きな塔へ人が群魚のように集まっていた。あいつはエネルギーの管理へ神経質が過るからな。」

シャイン・ガイザーの言を受けファオウルは左肩を回し魔剣を納めると階下へ跳躍する。シャイン・ガイザーも屋根を蹴り、赤い背の後を追う。


 盈浜駅は新幹線も停まるターミナル駅であり、地下鉄、在来線と走りその二フロア上がると新幹線が停まるターミナルへ続く。駅を貫くように駅ビルが建ち赤尾くんのお母さん達がその八階で買い物をしている。そして、手を引かれる僕が今歩いている場所は三階、つまり新幹線乗り場の一階上だ。幅広でレンガ風の道の両側を所狭しにお店が並ぶ。アイス屋、ファストフード店、紳士服中心の衣服店、その隣には婦人服専門店、香ばしいパン屋等々が広がる。

「結構遠いんだね。」

「もうちょい。あの牛丼屋を曲がれば弁当屋だよ。」

僕の呟きを赤尾くんが拾う。相変わらず鈴木くんはへそを曲げて僕とまともに会話をしない。オタオタと歩く僕たちの手を引く鈴木くんが突然立ち止まり、つんのめった僕の顔が袖をまくった立ち止まる彼の肩へ当たる。汗臭い。

「着いたぞ。」

相変わらず不機嫌に口を尖らせた鈴木くんが固い声で言う。お店には夏を意識した涼しげなパッケージが並ぶ。メインコーナーには幕の内弁当がやけに多いが。

「何にする。」

鈴木くんの指差す奥の方にはグミやキャンディの一画が設けられている。

「俺は無難に。」

赤尾くんは既にブドウ味のグミの袋を持っている。僕はイチゴ味のキャンディをつかみ取り、隣を見ると鈴木くんはまだ悩んでいた。

「おい早くしろよ。」

お弁当を抱えた赤尾くんの言葉に押され色んな味が入ったグミを選んでいた。僕たちは少し歩きベンチへ座ると買いもの袋から買ったお菓子を取り出す。キャンディを一粒取り出そうとすると、

「やるよ。」

鈴木くんの手が僕の手のひらへ緑色のグミを落とす。僕は鈴木くんを飛び越して赤尾くんへイチゴキャンディを渡す。

「ありがとう。じゃあ僕は赤尾君かな。」

頷く赤尾くんはキャンディを受け取るとブドウのグミを鈴木くんへ渡す。顔を見合わせた僕たちは一斉に貰ったグミとキャンディを食べる。

「子供って特別じゃ無いよな?」

俯く鈴木くんがグミを飲み込んで弱々しく僕たちへ尋ねてくる。黙る僕らへ顔をあげた鈴木くんが続けた。

「朝やってるテレビじゃ子供は死なないじゃん。でも、今はテレビで俺達子供も死んで文字になって流れている。」

シャイン・ガイザーやファオウルと出会っていなかったら、きっと僕も同じ気持ちだっただろう。

「俺はどうでも良い奴にグミを上げたりしないよ。」

赤尾くんが鈴木くんの膝を叩き立ちあがる。

「さあ行こう。もう集合しないと。」

僕たちが立ちあがると、突然あちこちから走り回る音が聞こえる。皆どこに行っているのだろう。気になって耳を澄ませると、下の階から罵声と絶叫が聞こえる。まさか。

「トイレに行こう漏れそうなんだ。」

尋常ではない空気感に怯えた二人は眉をあげるが僕は無理やり二人を引いてトイレに隠れるため向かうが、既にトイレに隠れようとする人でいっぱいだった。

「クソッ。」

床なのか硬い何かが砕ける音と恐怖に駆られた泣き声が階下から響いてくる。不味い直ぐに上がってくるぞ。生き残るには上に上がるしか無いが階段は人でいっぱいで、体が浮くほどすし詰めになった人だかりには入り込む余地が無い。後ろの二人は血の臭いで更に縮こまる。強引に二人の手を引っ張り、通りを駆け抜ける。下の魔人はきっとシャイン・ガイザーかファオウルと戦うはずだ。だったら効率の悪い場所を考えろ。フロアマップは階段の近くで寄りたく無い。

「マップは持ってる?」

二人は頭を縦に振る。鈴木くんがクシャクシャのポップな絵柄の描かれた地図を出すと、当たりの明かりが消え辺りが真っ暗になった。下からの悲鳴が消える。恐怖に心臓が鳩のように激しく暴れる。もう上がってくる、こうなったら。既に何人か逃げ込んだファストフード店の中へ入った僕は二人へ向き直る。

「この階で悲鳴が上がったら悲鳴に向かって走ろう。」

魔人の速さなら入れ違いになれるかも。でも、二人とも首を振る。「ここに居よう」と声を潜め口々に言う。階段から悲鳴が上がり数秒で悲鳴の音がぴったりと止んだ、皆唇を噛んで声と息を押し殺す。僕へ二人はしがみつき立たせまいとする。諦めて座り込むと店内のポテトの匂いが鼻をつたってくる。フロアだけではなく建物が静まり、厨房の蛇口から滴る水滴の音が聞こえてきた。すると、店の外を重い足音が鳴る。一歩、二歩と薄い壁が床の振動によって震え通り過ぎていった。音を立てず店内の皆は胸をなで下ろした。向に隠れた親子ずれの僕より二回り小さい女の子が鼻を啜って涙を流し始める。慌てる親は鼻をハンカチで覆うと、今度は鼻をかみ始めた。ブヒブヒと鳴る音がフロアへ響き、重苦しい足音がぴったりと止まった。半狂乱に叫んだおばさんが扉を開けて走り出る。駆ける音が小さくなっていくと絶叫が聞こえた。殺していない?

「逃げるぞ。聞き出してる。」

僕は腰を上げて店を出て息遣いが聞こえる幾つかのお店を通り抜け。反対側のカフェテラスの扉をゆっくり開けると。

「うっ。」

吹き抜けのテラスには絶叫する生首が白目を剥いて転がり、僕のスニーカーを血で濡らす。二人の目を瞑らせてテラスへ引っ張る。階下からは遙か遠くからなのかパトカーのサイレンが薄ら聞こえて来ている、僕は生臭い空気を吸って呼吸を整え吐き気を堪える。破壊音と絶叫、そして重機のように地を揺らして駆ける音が背後から聞こえる。

「絶対目を開けるなよ。人が死んでる。」

震える僕の小声に二人はしきりに頷く。シャイン・ガイザー早く来てくれ。そう、僕は願わずにいられなかった。


 地下の送電ケーブルを剛力でパンのように引きちぎったシャイン・ガイザーは地下鉄のマンホールを通って地上へ出ると、ファオウルが隣接する背の低いビルから壁を蹴って最上階の13階へ飛び込む様子を確認した。石畳を歩むシャイン・ガイザーはデモン・セイバーと呟き刀身を失った魔剣を握りしめ、カリメギスが入ったビルへ風を切って駆けていった。具足の硬い音と共に血みどろの一階へ足を踏み入れたシャイン・ガイザーは生首を避け歩き、エスカレーター側のフロアマップを確認し耳を澄ませる。真っ暗な空間からカリメギスの重い足音とすすり泣く声が聞こえてくる。

「カリメギス!」

シャイン・ガイザーの轟く声はビルを駆け抜けた。その轟く猛々しい声は最上階のファオウルの耳へも届く。思わず赤い魔人はそれでこそと、音を立てず苦笑し銀の魔剣を構えカリメギスを探し始める。

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