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勇者の剣 前編

 光の柱は立ち消え、再び夜の暗闇が辺りを覆う。

「待て。お前が拾い上げた煌めく鍵を渡せ。」

背を向けるシャイン・ガイザーをフロセスの盾を装着したファオウルが呼び止めた。ファオウルの言に憤然とシャイン・ガイザーは振り返る。

「愚か者め。私がこの鍵の効能を知らんと思うか。お前には鍵のかわりに魔界のエネルギーを秘めたこの玉をくれてやる。その魔剣でフロセスを討ち取った礼だ。」

放られた玉をファオウルの盾腕が受け取ると、身体をシャイン・ガイザーから背けて玉を胸へ格納する。破裂音を聞き、直ぐさま振り返るファオウルの視界からはシャイン・ガイザーは既に消えており、ひび割れた地面が後に残る。救急車とパトカーのサイレン音が聞こえる中、ファオウルもその場を悠々と後にする。戦いの後には無人のマンションが残された。魔界の空は再び暗黒に染まり魔人達は鏡を見上げていた。

「やはり、負けたか。しかしながら良いことが解った。フロセスの回復力からもわかるように、此処の生物から得られるエネルギー量は非常に多い。600匹程度で傷を癒やしきったのだ。他の原生生物とは比べ物にならない。疲弊した魔界では最早一人ずつ地球へ降下する他ないが、シャイン・ガイザーの鍵を壊す事にも成功した。いくら気丈に振る舞おうが奴は死にかけだ。約束通りカリメギスから地球へ降下しろ。限界を越えエネルギーを貯蓄する事が出来るカリメギスの能力を十分に発揮できるだろう。」

ヴァザーゴは声色明朗に背後の二人へ語りかけた。カリメギスは既に地球への道へ立ち光を失った道を睨み闘気を立ち上らせていた。槍を担いだザラガスはあぐらをかき沈黙する。

「皆、成すべき事は理解したようだな。では。」

ヴァザーゴは切り離した魔界のエネルギーを取り込む。空っぽの彼の胸の中に新たな鍵が生成され始める。切り離した魔界のエネルギーだけでは回復には至らず魔界のエネルギーがヴァザーゴへ吸い込まれ軋みを立てて魔界が歪む。ヴァザーゴの艶の無い白い鎧は盛り上がり徐々に艶を取り戻し、鎧の縁から銀の装飾が生える。萎れた肉体は膨らみ、四肢は全盛の力を取り戻す。威風堂々たるヴァザーゴの佇まいは闘気溢れる二人の魔人を恐れさせ、厚みを増した重たげな鎧を揺らし歩む音へザラガスは居ずまいを正す。

「カリメギスよ、地球では真っ先にエネルギーを蓄え、シャイン・ガイザーの抹殺を優先しろ。魔界の召喚はザラガスの到着後に行え。ザラガス、お前はカリメギスの応援に備えろ。万全を持って挑むのだ。」

魔界を揺らし鏡へ向かい歩むヴァザーゴが一人ずつ指差し命令を下す。二人の魔人は頭を垂れる。具足を鳴らしヴァザーゴは鏡へ向かい合うと鏡は展望台で倒れ伏すシャイン・ガイザーを捉えていた。


 展望台の麓から五分ほど自転車を走らせるといつも品薄なコンビニが一軒建っている。そこで要を足した僕は空を仰ぎ見ると光の柱が消えていた。シャイン・ガイザーが勝ったんだ。急ぎ自転車へ跨がり、ペダルへ足をかけるがふとペダルへ乗せる足が停まる。僕が行ってどうなる。自転車の籠には荷物を詰め込んだリュックが入っており展望台にはもう荷物は残っていない。僕は所詮、特別な力なんて持ち合わせちゃいない唯の人間で何も出来ない。体は勝手にハンドルを切り逃げるように帰路へ着いた。胸の中がモヤモヤする。心臓をつかまれて展望台へ引っ張られるみたいだ。楽になるため、がむしゃらに気持ちを声に出す。

「しょうが無いじゃないか!見てただけじゃ誰も救えないじゃないか!そんなことだったら僕は戦う事をやめる!」

無力な僕が嫌いだ。こんな僕が傷ついたシャイン・ガイザーを労うなんて出来ない。

言い訳を振り払うように顔を左右に振る。

違う。僕は辛いだけだ。痛々しいシャイン・ガイザーを見るのが怖くなったんだ。気がつくと自転車は橋を越え家の門に来ていた。気怠げに自転車を止めるとリュックを担いで家に入る。「お帰り」とお母さんの声がかかる。

「シャイン・ガイザーは帰ってこなかったよ。」

リュックを置いて僕はお風呂へ直行しその後、直ぐに寝た。


 真っ暗な展望台は既に片付けられており人の気配は無い。シャイン・ガイザーは短剣で切られた足を引きずりながら辺りを見回し靖弥を探すが、彼の姿は展望台のどこにもない。安心したシャイン・ガイザーは両膝を折る。跳ねる土が股の鎧を汚す。シャイン・ガイザーの視界へ霞がかかったようにぼやけ鋭い頭痛が苛む。猛烈な脱力感の波へ押し流され黄色の血液滴る両手を付き、呻き声を立てうつ伏せに倒れ伏す。シャイン・ガイザーの身体は限界を迎えていた。力という力が体から抜け、残り僅かなエネルギーがくたびれた鎧に囲われた命を辛うじてつないでいる。鎧の表面はひび割れ所々へこむ。シャイン・ガイザーは土にまみれた身体を震える腕に力を込めて倒し、息も絶え絶えに空を見上げる。空には美しい星々が浮かび、ゆっくりと瞼を閉じる。瞼の裏側には街が映りそこには11人の魔人達と靖弥の姿を見る。皆楽しそうに過ごし、懐かしい剣の師である魔人ヴァザーゴの声が頼もしく響く。

「ササキ・セイヤ、私は勝ったぞ。君は・・・。」

シャイン・ガイザーの輝く鍵入る胸部が開き、喘鳴のような息遣いが更に弱まる。胸にかけられた腕が脱力して滑り落ち、横たわる土まみれの体が日の出に照らされる頃には、既に呼吸は止まっていた。


 朝、目をこすり1階へ降りるとお母さんが血相を変えていた。また学校は休校になったらしい。

「えっ、500以上行方不明で200人以上死亡。」

お母さんからはマンションの虐殺が語られた。700人も・・・。シャイン・ガイザーは確か二体と言っていた。だったら、たった二人で一夜も満たない時間でそんな虐殺をしたのか。顔をうつむかせる僕へお母さんは続けた。僕のクラスでも行方不明者が出ているそうだ。担任の先生も行方不明らしい。お父さんは有給をとって近所の人達とパトロールをしているそうだ。

「それから、お友達の鈴木くんから電話が来てるよ。メールを見て欲しいらしいから後で返信をしておきなさい。」

頷く僕は歯を磨きに洗面台へ向かうが、

「シャイン・ガイザーに後で良いから会いに行きなさい。」

「今日、昼に行くよ。」

お母さんは「じゃあお弁作っとく」というと台所へ引っ込んだ。

歯を磨いていると今からニュースの音が聞こえる。

『ですからあの光柱でバーッとね』『バーッと何ですか』『アブダクションですよ未来人の仕業かもしれないし宇宙人の仕業かも、直ちに宇宙軍の結成を』『あーはいはい』『ちょっと水を投げないで』『だったらあのトリックを説明してもらいたいものですな、500人を消したトリックを』『少なくとも宇宙人じゃ無いでしょ』

宇宙人学者がアブダクションだと叫び会場の興奮したコメンテーターに絡まれている。

水を投げていない分、学者の方がよっぽどましだ。ソファーの肘掛けに充電しっぱなしの携帯を開きメールボックスを確認する。昨日から33件来てる。大半は鈴木くん体が他の皆からも何通か安否確認が来ている。全員に返信を送り冷蔵庫のオレンジジュースを飲んでいると携帯電話が鳴る。鈴木くんからだ。

『おはよう。鈴木です。』

「おはよう。電話あってるよ。」

テレビと同じ事を話す電話の彼は相も変わらず興奮していた。鼻息も時折聞こえ、僕は僅かに頭を引いて聞いていた。彼の声が小さい事に気がついた。

「あれっ聞こえない。どうした。」

『死んだ。死んだよ前田が。体は見つからないけど、な生首がマンションの部屋に詰め込まれていてその中にあったって。さっき居間の電話に父さんが連絡してきたみたいで母さんから聞いた。俺、返しちゃったよ。こんなことになるなんて知らなかったんだよ。』

「そんな。」

理解できなかった。遅れて寒気がつむじからへそのかけて走る。震える鈴木くんは途切れ途切れに聞こえて全く聞き取れない。手の力が抜けて携帯がソファーのクッションに跳ねる。僕の脳裏に前田くんの顔が浮かぶ。これから中学、高校、大学それからスーツの袖へ腕を通すと思っていた。でも、彼はここからもう進めない。これまでの思い出が僕にとって彼の全てなんだ。

「許せないよ。塵にもしないでゴミみたいに部屋へ押し込んで。」

携帯を抱えて耳へ寄せると鈴木くんは号泣していた。思えば一番、鈴木くんの部屋に通ったか。拳をソファーへ叩きつける。空しく拳はクッションの上に転がり僕の無力感を象徴するようで悔しかった。

「鈴木君切るよ。また学校でね。」

「うん」と答えた彼の涙声を最後に、通話を終了しメッセージボックスを見るとメールをたどると赤尾くんからの安否メールへの返信メッセージが届いた。


件名:今解っていること。

本文

青木

柿沼

佐久間

和田

以上死亡確認。

佐々木の名前を書かなくて良かったよ。


だった。どうやら死んでいたのは前田くんだけじゃ無いらしい。柿沼かあの日僕へ名乗った彼女を思い出した。きっと彼女は前田くんと同じマンションだったのだろう。

「一度も名前呼べなかったか。」

僕は彼らの冥福を祈り黙祷した。無力な僕に出来ることは祈ることしか出来ない。目を瞑る僕の背がふと暖かくなる。硬い手が僕の手を握る。目を開けるとお父さんがぼくの背を抱きしめていた。

「もう大丈夫だよ。」

お父さんが立ち去り、台所からベーコンの焼ける匂いがたってくる。おいしそうな匂いにつられて僕が台所へ入るとエプロンを着たお父さんが僕へ聞いてきた。

「スクランブルそれとも片焼き?」

「スクランブルでチーズ入りをお願い。」

お父さんは「承知」と言ってフライパンへ向かう。食器戸棚から皿と箸を取り出して机に並べていると、

「お父さんはシャイン・ガイザーの戦いを見ていないからわからないけど。でも、彼が戦っていなかったらきっともっと悲惨だったと思う。だから責めるなよ。」

そんなこと。言われなくても解っている。

「僕は弱い自分が嫌いなだけだよ。」

僕の言葉にお父さんが止まる。

「そうか。でもお前は強いよ。お父さん今回の一件で魔人にびびったよ。でも靖弥は戦うつもりだろ。弱いことを気にしていることはそういうことだろう。だったら少なくとも人間の中じゃお前は本当に強いよ。ほら出来た。」

更においしそうなチーズスクランブルエッグとベーコンが盛られ隣にはトーストが二枚重なる。「いただきます。」と声を出し、スクランブルエッグをトーストへ乗せて齧り付く。濃厚な卵とチーズがカリカリのトーストをおどり、咀嚼の後嚥下する。前田くんを思い出し涙がせり上がるが、堪え僕は必死にトーストへ齧り付く。僕はみんなの分生きなきゃいけないと思うと少し昨日の赤銅のような色の魔人の想いが少し理解できた気がする。

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