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魔界召喚 中編

 夕食を終えた僕は冷房が効いた二階の自室でベッドに座り、文庫本を開いてくつろいでいた。窓は薄いレース生地のカーテンが覆う。冷たい室内灯がカーテンから反射し、外の様子は窺えない。僕は目を閉じ今日戦っているシャイン・ガイザーを思い浮かべる。すっかり元気なシャイン・ガイザーへ僕が出来る事は無く時折会っては学校生活等の報告をちょっと盛って面白おかしく話し、彼は寡黙に話を聞いていたっけ。思えばシャイン・ガイザーのことは聞いたことが無かったか。悶々と彼との会話を思い出す僕は活字へ集中出来なくなり、本から目をあげるとカーテンの外から光がちらつき気になった。カーテンの隙間から外を覗くと空が明るく東向きの僕の部屋からは元が辿れないが、僕は赤い魔人が作り出した光の柱とシャイン・ガイザーの話を思い出す。きっとあの光は魔界召喚なんだ。だとすると。

「シャイン・ガイザーが負けた?」

いてもたってもいられない。傷ついたシャイン・ガイザーがあの高台へ逃げているかも知れない。そうであれば食事を持って行って回復させるべきだ。僕は部屋を飛び出してお母さんが用意してくれた食事と懐中電灯をリュックへ詰め「行ってきます」の声かけもせず家を飛び出した。暗い何時もの道を颯爽と軽いチェーンの音と共に車輪が回転し、覚束ない自転車のライトが道を照らす。自転車を走らせてから暫く経つと、足元から立つキリギスの声が徐々に強くなり、朽ちた白い車止めポールが並ぶ展望台入り口へ僕はたどり着いた。暑さのあまりリュックを背負いたくなかった僕は、懐中電灯を片手にリュックに備えられた二枚のショルダーパッドをまとめ肩へかけ坂を登る。丸くガタガタの木の根がはみ出し僕の靴に踏みしめられ、一際月明かりが強くなると遂に展望台の広場へたどり着いた。展望台にはブロンズ色の魔人が抜き身の剣を持って僕を見つめていた。赤銅の脛当てを威圧的に鳴らして魔人はデッキから降り僕へ歩み寄る。


 逃げなくちゃ。草音を立てて後退る僕へ、

「お前は確か、剣鋭きサオロスとシャイン・ガイザーとの戦いの場に居たな。」

魔人から通りの良い声がかけられ、するりと僕の耳へ染み込む。魔人の足跡には草が潰れ青臭い香りが寂しげな広場を漂う。唇がパサつき、心臓の拍動が解るほど速く胸を打ち鳴らす。僕はシャイン・ガイザーへ心の中で助けを求めた。

「シャイン・ガイザーはここに来ると思うか?」

間近に迫った魔人はシャイン・ガイザーよりも背が高く目立った傷も無い。だが、シャイン・ガイザーの纏う凄みがこの魔人からは感じられない。

「その前に、シャイン・ガイザーは負けたのかよ。」

シャイン・ガイザーの友達であるプライドが僕に虚勢を張らせた。

「負けた。あいつは背中を向けて逃げ出した。」

魔人の影が僕を威圧的に覆い、彼は更に続ける。

「お前は誰だったか?おまえ達は区別が付かなくてな。」

こいつは何を言ってるんだ。困惑する僕から一歩離れ荒々しく投げやりな動きであぐらをかいた。何か答えないと今、ここで殺される。

「僕の名前は佐々木、10歳、趣味は読書とスイーツ、好きな食べ物はハニーチュロス。」

魔人は「なるほど」と呟くとあちこちへ視線をやり考え込む。じっと彼の反応を伺う僕は自分の命が天秤に掛けられているように感じ脇から横腹へ冷や汗が一滴垂れ落ちシャツを濡らす。

「ササキよ、お前は何のために生まれた?」

わざわざこんな質問をする魔人はちょっとおかしい。目の前の魔人は座り込んで崩れたプレハブへあてどなく目線を向けている。

「僕が生まれたことに意味は無い。でも、今はシャイン・ガイザーと共に戦って皆を守る目的がある。」

この質問はシャイン・ガイザーと会う前の僕ならきっと答えられなかったはずだ。

「成る程。きっとこのまま生きていられたら、お前も生まれた意味を理解出ただろうに。私は今日、生まれた意味を見つけることが出来た。」

魔人はうれしそうに目の下から首元の鎧へ刻まれた傷を指差し、ゆっくりと人差し指で傷をなで下ろす。鳥肌が立つ。生理的嫌悪を感じて二歩僕は後ろへ下がった。魔人は立ち上がるとおもむろに腰を折り僕へ顔を近づけた。生臭いような、何か酸っぱさと鉄臭さが顔へ噴きかかり僕は咽せる。

「シャイン・ガイザーとの戦いの最中に目玉を潰された私は初めて死を恐れた。激痛と暗闇が私には彩られた世界こそ必要であり、エネルギー不足で荒涼とした魔界を再建する使命を背負っていることを教授した。仲間の死、程度で大仰に激怒する陳腐で古い魔人などこれからの魔界には必要ない。私は恵まれて楽しく生きるために生まれたのだ。」

大きな身振り手振りで大きく輪を作ったり指を振ったりと説明する目の前の魔人は完全に狂っていた。


 怯える僕と魔人の間に割って入るように青い鞘が魔人の兜目掛けて飛来し、魔人は軽やかに飛ぶ鞘をつかみ取るとその鞘へ抜き身の剣を納めた。

「ファオウルよ、お前は魔界と敵対するつもりか。」

黒炭のように真っ黒な鎧を纏ったシャイン・ガイザーが僕と魔人ファオウルとの間に立ち塞がり拳を握りしめている。ファオウルは未だに頼もしい黒い背へ隠れる僕の顔を凝視する。狂った彼の兜の覗き穴からは光の無い目玉が覗く。

「シャイン・ガイザーよ、お前は同胞のために生きるか、それとも己のために生きるか?」

シャイン・ガイザーへファオウルは問いかけるが、シャイン・ガイザーは答えず間合いを測り油断なく迫る。近寄るシャイン・ガイザーを意に介さずファオウルは月を見上げ言葉を続ける。

「私は魔界の王に成るつもりだ。邪魔なヴァザーゴやザラガスどもを共に打ち倒そう。あの二人と鍵の無い身体で戦い、勝利を収められるなどと思い上がっているのか?」

シャイン・ガイザーはファオウルの言葉に拳を下ろすことで答えたが、油断なく視線を送り続けている。ファオウルは雑草の葉を二本引きちぎり草相撲を始める。

「ファオウル。お前はどこかおかしいようだ。」

シャイン・ガイザーは僕へ背を向け遊び呆けるファオウルへ怪しがり言葉をかけた。

「私がおかしい?まさか、破滅的で異常なお前達と私は違う。正常であるのは私だ。」

草相撲を終えたファオウルは勝った草を塵へ変え、シャイン・ガイザーに指を突きつけそう宣言し、

「光を打ち上げたフロセスは私がその魂へ帳を降ろそう。あの老人には休憩が必要だ。」

とファオウルは溌剌と言葉を続け、僕から目を離した彼は飛び去っていった。


 飛び去るファオウルを見送ったシャイン・ガイザーは糸が切れたように膝を突いた。目の前の崩れ落ちる黒い背中へ僕は駆け寄り彼の肩を持つと手の平へ薄黄色の液体がべっとりと付く。どこを怪我したのだろうか不安になりシャイン・ガイザーのあちこちを見る僕へ、脱力した彼は振り返った、

「まだ必殺の一撃は打ち込める。」

と言うと力強く腰の黒鞘を撫でていた。そうだ、僕は強がるシャイン・ガイザーへ急ぎリュックを降ろし、中のご飯を差し出した。なかなかシャイン・ガイザーは受け取ろうとしてくれないので、僕はシートを敷きせっせと中身を広げ始めた。この時、視線を感じた僕はシャイン・ガイザーへ振り返ると彼は眩しげに僕を見つめていた。

視界が揺れる。シャイン・ガイザーが僕の肩を急に掴んだ。何事だろう。

「もう私は食べられない。」

彼は僕の目をみて静かに言った。胸が縮み上がる。つまり彼は。呆気にとられる僕へ黒い胴鎧が開くと中には以前見た鍵はどこにも無くがらんどうの窪みがあるのみだ。僕の彼と比べて細い指が空洞の胸を探るがやはり鍵などどこにもない、しかし中には小さな玉が一つ転がっている。

「この玉は?」

僕は玉を掴み上げシャイン・ガイザーへ見せると、黒い小手が玉を受け取り直ぐに胸へしまう。

「これは魔界エネルギーの塊だ。これを使って先程の奴を倒した後、もう一体の不意を打って鍵を破壊する予定だった。」

シャイン・ガイザーの返答はもう聞こえなかった、僕はシャツの裾を握りしめ、恐れていたことを、勇気を出して彼へ尋ねた。

「シャイン・ガイザー、もう僕は君の助けにはなれないのかな。」

「戦いの助けには、もうなれないかもしれない。」

悔しい。やけに穏やかな声で答えたシャイン・ガイザーに対する悔しさに僕は膝を折った。そんな僕をよそにシャイン・ガイザーの立ちあがる音が聞こえ、鎧の音が僕から離れる。それが、僕がもう彼の助けになれない事実を示すように感じる。急に鼻が熱くなり、目が潤む。僕はまた泣くのか。歯を食いしばり必死に涙を堪えるが耐えられず次々と涙が鼻を濡らす。

「ササキ・セイヤよ、友を見送ってくれないのか。」

覇気を感じる声が僕へ降りかかってくる。ここで顔を上げなければ仲間じゃ無い。震える手で濡れた頬を押して顔を無理矢理あげると、視界に僕を見下ろすシャイン・ガイザー映る。彼は僕へ頷くと背を向けて光の柱へ向かって颯爽と飛び去っていった。

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