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僕の戦い

 ドアを閉じる音が聞こえコートの固い衣擦れ音消えた。涙をこらえ僕は瞼を握りしめるように閉じる。暗闇を見つめていると湯だった頭が冷めていき、お父さんが僕を案ずる気持ちや黙々と食事の支度を進めるお母さんの白湯が喉に染み渡るような気遣いが僕の心を温めると、僕の思考に余裕がうまれた。僅かに滲んだ視界には、エプロンを着てパタパタと油揚げを叩くお母さんが映る。僕にはやるべき事があるんだ。シャイン・ガイザーのように。

「言わなくとも。」

裸足でリビングを駆け抜けキッチンへ飛び込むと、僕の目の前にしらす干しと冷えた米が山と置かれた。

「その二つをよく混ぜて油揚げの中に詰めて。欲張って入れすぎないこと。」

お母さん注意がしゃもじで米櫃をかき混ぜる僕の頭上から降る。食器用スプーンでしらすと混ざった米を一杯すくい切り開かれた油揚げへそっと入れた。スプーンについた米を油揚げの切り口で拭いまな板へ載せると、お母さんは竹串で器用に口を閉じてキッチンに置かれたバットへ詰める。


 一つ二つと懸命に僕は油揚げの中に米を詰める。僕にはスプーンに乗る米の一粒、一粒が光っているように見えた。無我夢中で米をすくい上げていたスプーンが米櫃の底を突くとお母さんにハケを渡された。

「次はこの壺に入っている醤油ダレを油揚げの表面に塗ってちょうだい。」

黄色い山が出来上がるバットへ向かう。積み上がった油揚げを取り丁寧にタレを塗る。カラメル色のタレが油揚げを塗りあげ焼き上げ用のまな板へ載せる。タレによって彩られた白甲色の油揚げは次々に焼き上げられ、焦げた醤油の香りがキッチンを漂い出す。僕はその匂いを嗅ぎながらコーンスープを焦げ付かないようにお玉を持ってかき混ぜている。スープの具合を見たお母さんが火を止める、食卓にご飯を並べ終えると、玄関が開く音が聞こえた。お父さんが帰ってきた。大急ぎでコンロの確認をした僕はお母さんの静止を振り切って玄関へ走り、リビングの戸を開け放った。勢いよく空いた戸から玄関を覗くと手ぶらのお父さんがいた。

「ただいま!」

僕に気がついたお父さんが声を張り上げて靴下の音を立てて僕に駆け寄った。

「お帰り。どうだった?」

お父さんはにやりと笑うと僕へ親指を立てた。

「靖弥が運んでくれた剣、凄く役に立っていたよ。あっと今にシャイン・ガイザーの勝ちさ。会いに行く?」

僕は前が見えない程の勢いで頷いた。お父さんは僕の目をじっと見る。大きな手が僕の肩を包み込む。肩がじんわりと熱くなる。お父さんの唇が凍えるように震え、僕へ言い聞かせるように言う。

「一人で行くか?」

答えは決まっていた。


 僕が漕ぐ自転車には黒い保温バッグが納められ、青い自転車は丘を登る。逸る気持ちはペダルを軽くし、僕の顔は風を割って髪をかき上げて疲れ知らずに無我夢中で自転車を漕ぐ。息を切らせて丘を登り切ると。遂に公園の通りへ出た。僕は先刻そこに居たというのに多くのことが起こりすぎて、目の前の風景に懐かしさすら覚えた。滑らかなブレーキで公園の入り口に自転車を止めると、シャイン・ガイザーは既に公園にいた。彼の背中には僕が運んだ魔剣が鞘から伸びる紐を広げて貝型に結ばれ上側から一本の紐が胸の前にたれており、左手にはお父さんの持って行ったバッグがさげられる。シャイン・ガイザーは僕を認め軽く右手をあげて大きな手のひらを僕へ向けてくる。僕もつられて片手をあげると、自転車から保温バッグを手早く拾い上げてシャイン・ガイザーのもとへ向かった。

「ササキ・セイヤよ、星の魔剣コントラ・ブレードは非常に助かった。今回の戦いでは助けられてばかりだな。」

そう言うと白磁の鎧をかがめシャイン・ガイザーはその場であぐらをかいた。五指を揃えた小手が向かい合う地面を指す。僕は。シャイン・ガイザーを真似して砂利の上であぐらをかいた。

「僕の方こそ戦ってくれてありがとう。これはごちそうだよ。焼き飯とスープに鶏肉の炒め物、それから胡麻煎餅だよ。」

僕はバッグのボタンを外して僕たちの前に食べ物を広げるとシャイン・ガイザーは身を乗り出して興味深そうに中身を見る。固い音を立てて兜が大きくうなずくと真っ先に白い指が黒胡麻溢れる煎餅を拾い上げると、シャイン・ガイザーはほのかに笑いながら煎餅を乾いた音を立てて真二つに割る。僕はお箸でお米が詰まった油揚げを拾い上げて口いっぱいに頬張った。疲れて身体に醤油の香ばしさが行き渡り、心が安らいだ。

「一先ずはなんとかなった。だが、油断は出来ない。魔界の頭目ヴァザーゴが有する魔界知識は油断ならない。」

シャイン・ガイザーの兜が僕を見据える。僕は急いで咀嚼し口の米をコーンスープで喉へ押し流しずっと気になっていた事を彼に質問した。

「魔人はどうやって地球を攻撃するの?」

シャイン・ガイザーの胸鎧が折り畳まれ、中があらわになる。赤黒く落ちくぼんだ胸に一本の鍵のような物が鎮座し細い管が左右を繋ぎ止めて固定している。

「これは私や他の魔人にとっての心臓と言える。破壊されればエネルギーを扱うことが出来なくなる。この性質を利用し、我々はこの弱点とも言える鍵を降下する前に予め設定された地点付近へ刺し対象世界へ魔界を召喚する。」

「刺し続けないといけないの?」

シャイン・ガイザーの鎧が広がり彼の鍵を覆い隠す。僕へ頷くシャイン・ガイザーは大きな手につまみ上げた油揚げを塵にすると、答える。

「鍵を指刺した際に光の柱が魔界へ向かって立ち上る。魔界を呼び込むため状態を保つ必要がある。当然の事ではあるが、時折勘の良い外敵に発見される事もあった、だがそのような者の多くは観察をする。そうする内に皆、魔界の力によって足元の世界諸共エネルギーになり魔界へ吸い込まれていった。」

また一枚シャイン・ガイザーの手から香ばしい油揚げが消えた。僕もまた一口油揚げを頬張る。


 咀嚼を続ける僕へシャイン・ガイザーは居住まいを正すと更に語りかけた。

「君に聞きたい事がある。」

僕は喉を膨らませてご飯を飲み込み、シャイン・ガイザーの言葉を待つ。チラリとめくれ上がった地面を見たシャイン・ガイザーは、

「紛れもなく君は今日、命を賭け私を助けた。倒れる私に聞こえたあの声は特別になりたかった君では無く、戦士の声だった。君の戦う理由を聞かせて欲しい。」

あの時は深く考えていなかった。下がる視線に僕の足とシャイン・ガイザーの足が映る。口をつぐんだ僕の視界を、時折彼の手が通り音も無く次々に鶏肉や油揚げを持って行く。唇が乾いたように動かない。けれども、考えはまとまってきた。意を決し顔をあげると、煎餅をつまみ上げていたシャイン・ガイザーと目が合う。

「僕は今日初めて君の戦いを見た。前は意識がもうろうとしていたから。」

シャイン・ガイザーは煎餅を容器に戻し僕を見つめる。手のひらに汗が滲み僕は心を落ち着けるためズボンで手を拭くと、じっとりと滲むズボンが気持ち悪い。

「僕は君を、命を懸ける友達を助けたかっただけなんだ。理由はまだ解らない。」


 シャイン・ガイザーが僅かに震えた気がする。既にコーンスープが冷めてコーンの甘い香りは無くなっていた。僕は周りの容器を倒さないように脚を組み替えて先程から石のように固まるシャイン・ガイザーを見た。よく見ると右手の人差し指が膝当ての縁を撫でている。

「私はここに来て良かった。ここで君と共に戦えて光栄だ。」

シャイン・ガイザーはそう言うと立ちあがり背に広がる街を眺める。遙か遠方からは微かにパトカーや救急車のサイレンが聞こえてくる。砂利を払って僕も立ち上がりシャイン・ガイザーの隣に立ち彼を見上げた。白い兜に月光が照り返し暗い影が彼の目元を覆う。僕は月光に負けない声で彼に言う。

「ここに来てくれてありがとう。」

頷く彼の目元は更に暗くなった。

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