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二人の戦士 後編

 アルトラリスの盾に殴打されたシャイン・ガイザーは明かりの灯る夜の街へ投げ出された。街路樹を投げ倒しもんどり返ったシャイン・ガイザーへ容赦なくエネルギーで作られた矢が迫る。うつ伏すシャイン・ガイザーは咄嗟に地面を蹴りあげ、左手の理髪店へ飛び込み、外れた矢は空を切って彼方の赤い消火栓を跳ね飛ばし水柱があがる。理髪店には部活や会社帰りの客で賑わい一同はガラス片にまみれたシャイン・ガイザーをぎょっと見つめた。シャイン・ガイザーは垂直に飛び上がり一階理髪店、二階空きテナント、三階ダンスクラブの天井をぶち破り屋上へ立ちアルトラリスを捜す。待合で雑誌を傾けていた老人がシャイン・ガイザーの開けた穴を恐る恐る覗き込むと三階のダンスクラブから覗く子供と目が合う。二人は会釈をし、子供はダンスを老人は雑誌の続きを読む。夜風を割るシャイン・ガイザーは目をこらしてアルトラリスを捜す。夜を見通す両目は遠方のビル群を器用に跳ねる人馬を捉えるが、彼の目玉へすかさず射られた二本の矢が闇に紛れ風を切って飛ぶ。シャイン・ガイザーが矢を撥ね除けると既にアルトラリスはビルから飛び降りて姿を街中に消していた。白磁の鎧は月明かりを反射し歩道へ木の葉のように降り、アルトラリスのいたビル目掛けて白い風が大通りを走り抜けた。

 

 駿足のアルトラリスは盾と同じ藍色の屈強な蹄で地面を粘土のように削り、ビル街を横切って海岸に向かって走っていた。藍色の身体を月光が般若の眼光のように照らし、光沢ある鎧から照り返る鋭い光は同胞を殺され憤怒するアルトラリスの心情を表していた。二人の魔人が追走する佐々木靖弥の住む盈浜市は、北側の丘と南側の浜の間に古い住宅街と商業地区が並び、大通りが二本東西を流れる。東西にはそれぞれマンション群とオフィス街が築かれている。土煙をあげるアルトラリスは海岸の中程から下半身を回転させて垂直に曲がり、大通りに向かってシャイン・ガイザーの背を追う。蹄は鉄の音を立て市街を走る。アルトラリスは暖簾を分けるように行く手を遮る民家を突っ切り、無慈悲な蹄は赤く染まる。家々を薙ぎ倒すアルトラリスは長屋の壁を破壊し、大渋滞が起きている大通りへ抜け出た。血塗れたアルトラリスから僅かに見える程先のオフィスビルが建ち並ぶ大きな交差点で、彼を待ち受けるように真っ白なシャイン・ガイザーが影を失うほどのヘッドライトに照らされ仁王立ちしていた。

「魔剣からは十分に離れたかな?」

首を傾け戯けたアルトラリスは身体に巻き付く血染みのついた洗濯物を乱暴に剥ぎ取り、両手に持つ弓と盾を引き寄せた。それらの武具は粘土のように歪み、一本の長い戦槌となってアルトラリスの手に収まる。アルトラリスは戦槌の鋭利な鉤爪を片手で軽々と振り上げ、怨嗟を纏う唸り声をあげるとシャイン・ガイザー目がけ堂々と走り出た。血に塗れた藍色の重厚な半馬から繰り出される足は車をボール紙のように踏みつけ、割れた窓からは潰れた饅頭の餡のように鮮血が零れる。


 シャイン・ガイザーは拳を握り締めていた。何故拳を握りしめているのか、アルトラリスを殴りつけるためか。彼は言いようの無い気持ち悪さと怒りを覚えていた。神経を痛められた訳でもなく震え具足が固い音を立てて鳴る。シャイン・ガイザーの脳裏に喜び走り回っていたササキ・セイヤの姿、息子のために命をかける母親、自分を信じた彼を信じる父親の姿が、そして荒廃した魔界と同胞達が浮かび上がる。

「私はシャイン・ガイザーだ。」

固められた拳が持ち上がり、シャイン・ガイザーは駆け出した。走るシャイン・ガイザーはヘッドライトに照らされ、目に留まらぬ速さで車を流水のように流れ抜けた。風を纏った鋭い戦槌を振りかぶるアルトラリスは、光を背負うシャイン・ガイザーの胴目掛け槌頭を薙いだ。魔界のために多くの身体をたたき割ってきた槌頭はシャイン・ガイザーの胴を掠め彼の右脇へ流れ、シャイン・ガイザーはアルトラリスの屈強な胴を蹴りつけるが人馬の僅か半歩下がらせるのみであった。唸りをあげて戦槌から伸びる鉤爪が白磁の頭部目がけて薙がれるが、迫る鉤爪は白い小手に掴まれる。シャイン・ガイザーはもう一方の腕で戦槌の柄を握り締めると鉤爪へ力を込め始めた。戦槌は削れるような異音を立てて柄が捻れ、槌頭が傾き始める。シャイン・ガイザーの力に瞠目したアルトラリスは戦槌から彼を引き剥がすため蹄を打ち鳴らし、戦槌を両手で持ちあげ何度も地へ叩きつけた。離れないシャイン・ガイザーをそのままに海岸へ向かってアルトラリスは蹄を鳴らし駆け出すが捻り引かれる戦槌に足を止める。シャイン・ガイザーの纏う白磁の鎧は地球に降りてから最も輝き出す。悲鳴をあげる戦槌を掴むアルトラリスの蹄が徐々に持ちあがり、アルトラリスは瞠目し戦槌の先を見つめた。人馬の身体を持ち上げられる者は魔界において黄金を纏うザラガスただ一人だった。

「お前は本当にウヌヴァルなのか。」

動揺するアルトラリスは真っ逆さまに無人の交差点へ叩きつけられた。爆発的衝突によってアスファルトは粉のように砕け土柱が上がりアルトラリスはへし折れた戦槌を握り締め大の字に力なく横たわる。


 佐々木靖弥は唖然として立ち尽くしていたが、シャイン・ガイザーを追う風が吹き抜けるとおろおろと荒れきった公園を見回す。彼の目には煌々と灯りを降らせる街灯や遠方で暖かい明かりを灯す家々が写った。精神的疲労からボンヤリとした彼の耳へシャイン・ガイザーとアルトラリスの履きならされた靴のマジックテープが剥がれていたことに気づいた靖弥はしゃがみ込んでテープを貼り付け直すと、視線の下がった目が転がるシャイン・ガイザーの剣デモン・セイバーと端に柄まで埋まった魔剣コントラ・ブレードを捉えた。足首を曲げ伸ばし靴の確認をした靖弥はデモン・セイバーへ走る。


 転がる剣をシャイン・ガイザーへ届けるため、彼の剣に近寄った僕は力一杯に剣の柄を握って持ちあげる。腕が真っ赤になり、足が振り子のように震える。擦れる手のひらはどんな転んだときよりも痛い。僕は汗が垂れる首を亀のように伸ばして更に力むが、それでも剣は持ち上がらなかった。僕は疲れ切って尻餅をつくと地面へ思わずついた真っ赤な手のひらへ尖った砂利が食い込んで痛み、僕は飛び上がる。僕はダメもとにもう一本の剣へ向かうとその剣はウソのように持ち上がった。銀色の刀身は触れるだけで砂利を切り裂き、僕は輝く刃に薄ら冷たささえ感じた。倒れる鞘へ慎重に剣を納めた僕は剣を抱えて無我夢中で公園から駆け出した。疲れた細い二本足は丘を駆け下り、体は滑るように橋を通り帰路へ急ぐ。今までに無い感覚に僕は驚いた。身体は軽く、吸い込む空気は冷たくも熱い、高揚と緊張感に僕は押され倒れ込むように曲がり角を走り家の門が眼前に現れると、僕の目の前にお父さんが飛び出してきた。

「靖弥!早く家に入りなさい!」

僕の抱える剣に驚くお父さんだったがドアを開けて僕を中へ引っ張る。玄関に座らされた僕にお父さんは、

「何が起きたんだ。その剣は何だ。」

と問いかける。僕はシャイン・ガイザーの戦いと更なる戦いへ剣を持って行く話しをすると。何度か瞬きをしたお父さんは意を決した表情で、

「それはお父さんがやる。靖弥は家で『ご馳走』をお母さんと作っていなさい。」

と言ってコートと剣を包むバッグを取りにリビングへ入って行った。僕はもぞもぞと靴を脱いで家に上がるとリビングのテレビにシャイン・ガイザーが映っていた。車を踏み潰す巨体を止める彼の背には多くの人があり、彼は全身から光る命のエネルギーを噴き出し自分よりも何倍も大きい魔人を投げ飛ばす。短い映像が何度も繰り返される。テレビのテロップやコメントは好き勝手に言っていたが、僕には全く聞こえなかった。エネルギーが切れた魔人がどうなるのか僕は見た。僕はシャイン・ガイザーがどうしてシャイン・ガイザーと名乗ったのか解った気がする。

「靖弥、行ってくるね。」

考え込む僕に支度を終えたお父さんが声をかけてきた。急に僕は猛烈に悔しくなり目がほのかに熱くなる。

「急いで届けてね。」

「勿論。」


佐々木靖弥の父、佐々木吉宗は渋滞を避けるため自転車へまたがり街を疾走していた。彼の自転車には携帯ラジオがガムテープでくくりつけられ必死に耳済ませシャイン・ガイザーの位置を目指す。ラジオからはケンタウロス?が商店街方面を向いて風のようにかき消えたとある。一部有名オフィスビルも洞窟のように穴が空いたとのことだ。

「岡部ビルがあの交差点でしかも商店街か。」

吉宗は思考をまとめるためわざと口に出す。彼は地図を思い浮かべる。

「海岸と野球場しかないじゃないか。何をするつもりなんだ。」

自転車は魔剣を運び、窓ガラスが割れた理髪店を通り過ぎ、夜に溶ける海を目指して


シャイン・ガイザーは倒れるアルトラリスの首をへし折るため駆け寄るが、バネのように跳ね上がった蹄に蹴飛ばされ赤色の乗用車のボンネットへ叩きつけられた。アルトラリスは折れた戦槌を弓と盾に変形させ商店街入口を一睨みすると、一際立派なガラス張りのビルへ駆け込むがその背にシャイン・ガイザーが飛びついた。二人はビルを突き破りロゴが書かれた硝子は粉々に飛び散り、センサーによる警報が響くと上階のテラスからカップ片手にスーツを着た幾人もの男女が何事かと覗き込む。人馬は藍色の風となってシャッターが降りる前にそのままビルをぶち抜く。シャイン・ガイザーはアルトラリスの背へ拳を叩きつけるが人馬の上半身がフクロウのように回転し拳を盾が受け止める。棍棒のように藍色の短い弓がシャイン・ガイザーへ叩きつけられ純白の肩当てが凹み彼の片足がアルトラリスの馬体から落ち、ぶら下がる足が花壇のチューリップへ激突し花弁をバラバラにした。アルトラリスは走ることに集中できず平地の川のように蛇行し、藍色の風が人間に近づく度シャイン・ガイザーがアルトラリスを殴りつけた。拳を盾で受けた馬体は柔い肉を避けるようによろめきノロノロと走る。アルトラリスの背に乗るシャイン・ガイザーは振り下ろされる弓を避けると右手が輝き出す。アルトラリスは空中に身を投げ出し、盾をシャイン・ガイザーの胸を殴打し彼を跳ね飛ばした。シャイン・ガイザーの輝く拳は空を切り、砂浜へ身を投げ出された。アルトラリスは砂に塗れたシャイン・ガイザーを中心に走り、弓を輝かせ矢を連射する。シャイン・ガイザーは必死に矢を避けるが、矢に紛れたアルトラリスは彼の背を駿足の蹄で蹴り飛ばす。


 街中でクラクションが鳴る中自転車で駆け抜けてきた吉宗は剣を包むバッグを抱えて海岸に着くと、そこではシャイン・ガイザーの周りをアルトラリスが走り回り引き絞った矢を次々に射る。吉宗はバッグから魔剣を取り出しシャイン・ガイザー渡そうと考えるが、シャイン・ガイザーの顔はこちらを向いていない。吉宗にとってはケンタウロス?であるアルトラリスに魔剣であることは気づかれてはいけない。這うように浜の階段を降りた吉宗は腕まくりをして魔剣をバッグへ戻し力一杯に声を張りあげる。

「せんべい!」

かけ声のように吉宗はバッグをシャイン・ガイザーへ放り投げた。シャイン・ガイザーはメンコのように飛び上がりバッグを受け取った。着々するシャイン・ガイザーの左足を飛来する矢が貫き、よろけた胸目がけてアルトラリスは一際力を込め必殺の矢を射る。槍のような矢はシャイン・ガイザーが掲げたバッグに弾かれ塵になった。白磁の鎧はやや暗くなり、穿たれた足が修復されたシャイン・ガイザーが立ちあがる。アルトラリスは距離を開けて更に駆けるが、シャイン・ガイザーは腰の鞘を下投げに投擲し歯車のように踏み変わる藍色の足へ鞘が挟まった。アルトラリスの足はもつれその場に崩れ落ち、シャイン・ガイザーはバッグから銀の魔剣を引き抜くと足を止めたアルトラリス目がけて土煙を立てて突撃する。青い残光が幾矢も打ち払いアルトラリスへ迫る。アルトラリスは盾と弓を交え再び戦槌を両手に握る。その月光を受けた戦槌にはアルトラリスの憤怒が反射する。魔剣の残光とアルトラリスの憤怒の光が激突する。アルトラリスの憤怒はシャイン・ガイザーの脇腹をえぐり、魔剣の残光はアルトラリスの首を跳ね飛ばした。空を舞う首は風に流れ胴体と共に塵になった。未だ月光を照り返す戦槌は主を追って崩れ落ち砂と共に波にさらわれていった。

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