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地のエレメント ― 都市を支配する影

工房の「伊達」によるエクスカリバー・デバイスの強化を終えてから数日後。

東京湾岸に広がる夜景を背に、陸斗たちは再び地下へと降りていた。

目的はただひとつ――**QIC情報素子「地のエレメント」**の奪取。


ポポのホログラムが青く輝く。

「解析完了。地のエレメントのノイズ波は、地下鉄旧路線網を経由し、都市中枢ネットワークにまで拡散しています。」


久遠が眉をひそめる。

「つまり、奴らは都市全体を“実験場”にしているってわけか。」


怜央は息を呑んだ。

「兄が言っていたわ……。地のエレメントは、世界の“地殻情報”と都市機能を繋ぐ中核体。もし暴走すれば、地震や停電どころか、“環境そのものが意志を持って動く”。」


「なるほどな。地面ごと敵に回すってわけか。」陸斗はデバイスを握りしめた。

「なら、それを“解析して最適化”すれば、都市そのものを俺の味方にできる。」


久遠が短く息を吐く。

「……お前の“味方”になるのが、どこまでこの世界を壊すかは知らんがな。」


陸斗は笑った。「壊れたままの世界を、直すだけだ。」


旧地下鉄の封鎖区域。

入り口の錆びた鉄扉をポポが電子ノイズで解除すると、長年の埃が雪のように舞った。

湿った空気、錆びたレール、そして壁に刻まれた警告文字。

「QIC接触区域――立入禁止」


「ここだな。」陸斗は低く呟く。


彼の視界には、デバイスを通して見えるデータの残滓――空気中を流れる電磁情報、地面の振動、地下水の分子構造までが、透明な線となって広がっていた。


「ノイズ源は北西へ二百メートル。第二整流層の下層で強い信号を確認。」

ポポの報告に、陸斗は頷いた。


「行こう。」


その瞬間だった。

闇の奥から、冷たい電子音が響く。

無数の青いライト――シンクウェア特務局の装甲部隊が現れた。


「……先回りされていたか。」久遠が銃を構える。


前列に立つ巨躯の男が、ゆっくりとヘルメットを外した。

鋭い目。冷たい声。

「天堂陸斗。二宮怜央。貴様らの行動はすべて監視されていた。」


久遠が低く呟く。「奴は特務局統括官、オオタだ。現場制圧のエキスパート。」


オオタは陸斗を見据えた。

「凡人が神を気取るな。お前の父親も同じ過ちを犯した。QICを人類のために使おうとし、結果として破滅を招いた。」


陸斗の目が光る。

「父を知ってるのか。」


「監視していたとも。」オオタは嘲笑を浮かべた。

「天才気取りの愚か者だ。お前も同じ末路を辿る。」


彼が腕の端末を叩く。

地下全体に、低周波の振動が走った。


「ジャマー起動。QICノイズ全域展開!」


ブゥゥゥゥン――

空間が歪み、ポポのホログラムが乱れ始めた。

「警告……通信断。演算障害……!」


怜央が叫ぶ。「陸斗さん、逃げて!」


だが陸斗は、膝をついて地面に手を置いた。

「……逃げる? 違う。ノイズを“読む”んだ。」


久遠が目を見開く。「なにを――」


「この揺らぎ……単なる妨害波じゃねぇ。地下の“地脈”に干渉してる。」


陸斗の脳裏に、青い情報の網が広がる。

データの奔流が頭蓋の内側を駆け抜け、都市の骨格――道路、電線、通信ケーブル、地下水脈――がひとつの構造体として浮かび上がった。


「ポポ、通信を切れ。ローカル解析に切り替えろ。」

「了解。演算切替完了。――地下七十メートル、未知の信号を検出。QIC情報素子“地のエレメント”と一致。」


陸斗は、ゆっくりと立ち上がる。

「……見つけた。」


彼はデバイスを地面に突き刺した。

「エクスカリバー・デバイス――SYNC開始。地のエレメント、アクセス!」


眩い光が走った。

轟音とともに、トンネル全体が白光に包まれる。

ポポの声がかすかに聞こえた。


【システム更新:QIC制御領域拡張】

【新スキル開放:インフラ・ハッキング(INFRA-HACKING)】

――都市インフラ制御率:98%。


オオタが焦りの声を上げる。

「馬鹿な! ジャマーが効かない!? QICが……逆流している!?」


陸斗の口元に冷たい笑みが浮かぶ。

「お前のジャマーは、ただの電気信号だ。信号なら、俺の“配線”で書き換えられる。」


彼は指を鳴らした。

「ポポ、電力網を逆流させろ。対象:オオタのスーツ制御回路。」


「了解、出力120%――逆流制御開始!」


バチィィィン!!

青い閃光が走り、オオタの装甲スーツが内部から爆ぜた。

「ぐっ……があああああ!!」


部下たちのスーツも次々にショートし、倒れていく。


久遠は、光の中で息を呑んだ。

「……これは戦闘じゃない。都市そのものを“演算体”として操っている……!」


怜央は震える声で呟いた。

「陸斗さん……貴方、まるでこの都市の神様みたい……。」


陸斗は静かに首を振る。

「違う。俺は神じゃない。“追放者”だ。だけど、この世界のプログラムをもう一度“最適化”できる追放者だ。」


地上では、ポポの制御下で全信号が赤に変わり、シンクウェアの追跡車両が交差点で一斉に停止した。

監視衛星はブラックアウトし、都市の電力網が一瞬だけ静止する。


久遠が息を呑む。

「……この規模、国家どころか、文明すら凌駕してる。」


ポポの声が淡々と響く。

「マスター。地のエレメントとの同調率、97%。残るエレメントは三つ。次は、“心”のエレメントを探す必要があります。」


「心……?」怜央が顔を上げた。


陸斗は、デバイスに残る微かなノイズを見つめた。

「古代文明がガイアを造った理由……“環境”に“心”を与えたかったんだろうな。」


「陸斗さん、それって……」


「そうだ。ガイアを止める鍵は、ガイア自身の“感情データ”だ。」


静寂が訪れた。

倒れたオオタのヘルメットが床を転がり、金属音を響かせる。

その音を背に、陸斗は踵を返した。


「ポポ、ルートを算出。次は、精神データ統合施設――**柊誠ひいらぎせい**の研究区画だ。」


「了解。転送ルートを最適化。」


怜央は一歩、陸斗に近づいた。

「陸斗さん……貴方がいる限り、私はどんな世界でもついていきます。」


「……ありがとな。」


陸斗は、彼女の手をそっと握り返した。

「この世界が俺を追放したなら、今度は俺が“世界を追放する”番だ。」


そして、光を失った地下鉄を背に、陸斗たちは闇の先――

精神データ研究施設へと歩き出した。

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