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生産チート:工房の「伊達」の驚愕

深海施設での戦闘から三日。

陸斗たちは、ポポの解析で発見した地下通路を抜け、都市外れの廃工場地帯にたどり着いていた。


「この先に、QIC関連のノイズ反応。構造物は稼働中。」

ホログラムのポポが、青白い光を放ちながら報告する。


久遠が眉をひそめる。「企業のラボか?」


「違う。」陸斗はデバイスを構え、周波数を読み取った。「ノイズの性質が違う。人工的だけど……“個人”が出してる信号だ。」


怜央が首を傾げた。「個人が、これほどの出力を?」


ポポが補足する。「推定稼働体:一名。周囲の防衛システムはQIC由来。……彼は、シンクウェア以外でQICを扱える唯一の人間かもしれません。」


久遠が短く息を呑む。「まさか……」


彼らが錆びついた鉄扉を押し開けた瞬間、

内部から凄まじい閃光が走った。


「おい、そこに誰だッ!」


金属音とともに現れたのは、油に汚れた黒いツナギを着た小柄な男。

手には高温レーザー溶接機、腰には古代文明の刻印が入った工具箱。

その鋭い眼光は、まるで生きた分析装置のように陸斗を射抜いた。


「なんだお前ら……勝手に入ってきて、ノイズを撒き散らすとはどういう了見だ?」


「落ち着け。」久遠が両手を上げた。「俺たちは敵じゃない。」


「敵じゃない奴ほど厄介なんだよ!」

男は吐き捨てるように言い放った。


――彼の名は、伊達だて

古代技術オタクであり、超一級のエンジニア。

シンクウェアにも政府にも属さない“放浪の技術屋”だった。


伊達は陸斗のデバイスを睨みつけた。

「その鍵、どこで拾った?」


陸斗が少しだけ口角を上げる。「拾ったんじゃねぇ。継承したんだ。」


「ほぉ……“継承者”ねぇ。」伊達は鼻で笑う。「どいつもこいつもそう言うんだ。だがな、QICを扱える奴なんざ、この世に二人といねぇ。俺と、もう一人――」


彼は、ふと表情を曇らせた。

「……天堂一成いっせい。お前の父親だ。」


怜央が息を呑む。「父さんを……知ってるの?」


伊達は黙って工具台に肘をついた。

「知ってるさ。狂ってたが、真っ直ぐな奴だった。

“世界は壊れてる。なら、情報の根幹から修復しなきゃいけねぇ”――そう言って、QICの研究に人生を賭けた。」


陸斗は静かに目を伏せた。

「父さんの研究が、俺を孤立させた。けど……それが今の俺を作った。」


「そうか。」伊達は腕を組む。「なら見せてみろよ。お前が本当に“継承者”ならな。」


工房の奥には、巨大な装置が鎮座していた。

中心に、青白く輝く炉心――超純度QICリアクター。


「俺はこれを十年かけて組み上げてる。」伊達が語る。

「古代文明が使っていた“情報変換炉”だ。だが、あと一歩で完成しねぇ。原因は素材の純度だ。」


陸斗が目を細めた。「レアアースか?」


「そうだ。」伊達は苦笑する。「この時代の精製技術じゃ限界がある。炉の安定化率が99.7%止まりだ。」


「0.3%の誤差で止まるなら、最適化すりゃいい。」陸斗はデバイスを取り出した。

「ポポ、周囲の土壌と金属残渣をスキャン。レアアースの元素分布を解析。」


「了解。解析開始――成功率、98%。」


伊達は鼻で笑った。「そんな即席解析で素材を作れるわけ――」


「――テクノロジー構築(TECH-CONSTRUCT)、開始。」


デバイスが光を放つ。

床の鉄粉が浮かび、空気中の水素・酸素・炭素が再構成されていく。

無数の分子が結合し、金属光沢を帯びた結晶が形成された。


やがて、青白い煙の中から、完璧な形状の超純度レアアース合金が姿を現した。


「……嘘だろ。」


伊達が震える手でパーツを持ち上げた。

「原子配列誤差、ゼロ……。こんな精度、ありえねぇ。

――お前、情報から物質を創ったのか!?」


陸斗は笑った。「“創った”んじゃねぇ。“最適化”しただけだ。」


怜央は感嘆の声を上げた。「陸斗さん、すごい! 父の技術を……超えたのね!」


久遠は静かに呟いた。「こいつは、人類の常識を一段飛ばしたな……。」


伊達はしばらく黙り込み、やがて吹き出した。

「ハッハッハ! 面白ぇ! 気に入った! お前、俺の弟子になれ!」


「弟子?」陸斗が目を瞬かせる。


「そうだ。俺は“生産”のチートを極めたい。お前は“戦闘”のチートを極めろ。

――二人で世界を“再構築リビルド”するんだ!」


怜央が慌てて口を挟む。「ちょ、ちょっと待って! 陸斗さんは私と――」


「うるせぇ! 今は技術の話だ!」

伊達が叫ぶと、怜央は頬を膨らませ、久遠は苦笑した。


「陸斗。こいつ、シンクウェアの元主任技術者だ。」久遠が低く言う。

「企業が古代技術を悪用しようとしたとき、独自の理念で離反した。……だが、それ以来、QIC関連者を一切信用しない。」


「へぇ、だから俺たちを試したのか。」


「そういうこった。」伊達は肩をすくめた。「だが、お前は“結果”を出した。なら協力する価値がある。」


陸斗と伊達は、夜を徹して作業を始めた。

ポポが炉の出力を監視し、伊達が配線を繋ぎ、陸斗がデバイスで素材を補う。

やがて――


「完成だ!」


巨大リアクターが轟音を立てて起動する。

光の渦が吹き上がり、天井を揺らす。


【エクスカリバー・デバイス Lv.1 → Lv.2】

【新スキル解放:高速修復(SPEEDY-REPAIR)】

――機械および構造物を即座に再構築・修復可能。


「……これで、シンクウェアの兵器を壊しても、即座に再利用できるな。」


陸斗の呟きに、伊達が笑う。

「それが“生産チート”の真髄だ。破壊も再生も、すべて情報の流れ次第。」


怜央は感極まったように両手を握った。

「陸斗さん……貴方、本当に“世界を作り変える人”なのね!」


久遠は冷静に言う。

「だが、気を抜くな。シンクウェアがこの場所を放っておくはずがない。

――奴らが動く前に、“地のエレメント”を確保するぞ。」


陸斗はデバイスを腰に装着し、振り返った。

「ポポ、ルートを最適化。都市下層のノイズ源を追う。」


「了解。ターゲット、“地のエレメント”。」


伊達が煙草をくわえ、ニヤリと笑った。

「行けよ、ガキ。壊すだけがチートじゃねぇ。創るチートも見せつけてやれ。」


「覚えとくよ。」陸斗は笑い返す。

「俺が世界を“最適化”したとき、あんたの名前も刻んでおく。」


そして、仲間たちは再び歩き出した。

――都市を支配する“地のエレメント”を求めて。

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