表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

令嬢の誤解、無双の邂逅

「――それが、あなたのやり方?」


怜央の声は冷たかった。

その視線の先で、陸斗は無言で立っていた。

周囲には、学園の警備用ドローンが無残に転がっている。


「やりすぎだろ、陸斗。」久遠が苦笑混じりに呟いた。「これじゃ完全に敵扱いだ。」


「手加減したさ。」陸斗は肩をすくめた。「俺に銃を向けた時点で、自己責任だ。」


「自己責任……? あなた、本当に学生?」

怜央は険しい目をしたまま、一歩前に出る。

その瞳は、恐れと怒りと、ほんの僅かな興味を混ぜ合わせた複雑な色をしていた。


「天堂陸斗。あなた、何者?」


「ただの整備屋だ。」


「嘘ね。」


「まぁな。」


短い沈黙のあと、怜央の背後で風が鳴った。

――警備局の新型スーツ部隊。

その中には、彼女の婚約者と噂されるシンクウェア社の後継者・**神代かみしろ**の姿があった。


「怜央、下がっていろ。」神代の声は冷ややかだった。

「そいつは企業情報を盗もうとした不正アクセス者だ。拘束する。」


「違う!」怜央が反射的に叫んだ。

だが神代は、彼女の腕を掴む。

「君が関わるべき相手じゃない。これは大人の問題だ。」


その一言で、怜央の表情が凍った。


陸斗はそれを見て、淡々と息を吐いた。

「……久遠。」


「ああ。」


次の瞬間、二人の間に強烈なノイズが走った。

地面が揺れ、スーツ部隊のHUD(表示画面)が一斉にエラーを吐き出す。


「ポポ、同期開始。信号ノードの奪取を優先。」


「了解。システム侵入率、82%……93%……制御完了。」


神代が叫ぶ。「何を――!」


「“情報”は誰のものでもない。」陸斗の声は低く響いた。

「だが、“最適化”されないまま放っておくのは罪だ。」


瞬間、スーツ部隊の兵士たちが一斉に宙へと浮いた。

重力制御。否、情報重力――QICによる座標書き換え。


「これが……彼の力……?」怜央が呟く。


久遠は苦笑した。「俺も最初は信じられなかったさ。

あいつ、現実をプログラムの延長だと思ってやがる。」


兵士たちが次々に無力化されていく。

神代のスーツだけが抵抗を続けた。


「俺のスーツは企業製の最新型だ! お前ごときのハッキングで――」


「なら、デバッグしてやる。」陸斗が手をかざす。


【システム干渉:QIC制御回路上書き】

【対象:神代ユニット No.7 / 状態:強制停止】


ガキィィィィン――!

金属音とともに、神代のスーツがその場で硬直した。


「なっ……バカな……!」


陸斗は近づき、短く言った。

「企業の作る“神”は、いつだってバグだらけだ。」


そして、無造作に神代のヘルメットを外し、床に投げ捨てた。


怜央は呆然と立ち尽くしていた。

ただ、風が頬を撫でる。

彼女の中で、これまで信じていた“秩序”が音を立てて崩れていく。


「あなた……本当に何者なの?」


陸斗は一度だけ空を見上げ、答えた。

「昔、父さんが言ってた。世界は“設計ミス”だってな。」


怜央の唇が震える。

「それを……直せるの?」


「直すさ。」

その声には、怒りでも傲慢でもない、静かな確信だけがあった。


久遠が腕を組んで言う。

「怜央。お前の婚約者、神代は企業の駒だ。だが陸斗は違う。

――自分の手で“秩序”を書き換えようとしてる。」


怜央は、しばらく何も言えなかった。

ただ、目の前の男の背中を見ていた。

――壊すためでも、支配するためでもなく、“正しく動く世界”を作るために戦う人。


その夜、怜央の中で何かが静かに変わった。


翌朝。

学園の中庭で、怜央が陸斗を見つけた。


「昨日の件、ありがとう。……でも、あなたのやり方、危険すぎるわ。」


「そう言われるのは慣れてる。」陸斗は肩をすくめた。


怜央は小さく笑った。

「それでも、あなたを見ていると……どうしてか、安心するの。」


久遠がニヤリと笑う。

「惚れたな。」


「ち、違うっ!」怜央が真っ赤になって抗議する。

「私はただ、その……合理的に評価してるだけ!」


ポポがすかさず口を挟む。

「解析結果:怜央の心拍数、通常の1.7倍です。」


「ポポ、黙って!」


陸斗は苦笑しながら、デバイスを見つめた。

「……まぁいい。これから“地のエレメント”を探す。手伝うなら来い。」


怜央は息を整え、静かに頷いた。

「行くわ。――父の研究も、あなたの真実も、確かめたいから。」


久遠がぼそりと呟く。

「また面倒な女が増えたな。」


「うるさい。」陸斗と怜央が同時に返す。


そして三人は、沈みゆく夕日の中を歩き出した。

それぞれの胸に、異なる目的を抱きながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ