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元公安の忠告と世界の裏側:令嬢の絶望と決意

旧ダム施設からの脱出は、陸斗にとって新たな「遊び」の始まりだった。


デバイスを握った陸斗の視界は、もはや以前のそれではない。壁の材質、空気の湿度、水滴の落下速度、全てが**情報データ**として処理される。ポポの電子音声が彼の意識の中で静かに響く。


「デバイス認証継続。周辺のシンクウェア社ドローンは三機。全てを回避する最適なルートを算出します。」


「頼むぞ、ポポ」


陸斗はポポの**『最適化(OPTIMIZE)』**に従い、ドローンが検知できないわずかな『ノイズ空間』を縫うように移動した。まるでゲームのRTAリアルタイムアタックのように、彼の動きには一切の迷いがない。


彼を置き去りにしたテツヤたちは、すでにドローンに追い立てられてダムから逃げ出していた。そのパニック状態をデバイス越しに解析するだけで、陸斗は彼らが今後、自分に対して二度と偉そうな口を叩けないだろうことを確信した。


(ざまぁってのは、こういうことか)


陸斗は静かにカタルシスを感じながら、都市の郊外へと出た。


指定された接触場所は、寂れた地方都市の駅前にある時代錯誤な純喫茶だった。


陸斗が隅の席に着き、コーヒーを一口飲んだ直後、店のドアが開き、一人の男が入ってきた。男は四十代前後、整った顔立ちだが、目つきは鋭く、全身から訓練されたプロフェッショナルの雰囲気が滲み出ている。彼こそが、父のメモに残されていた協力者、元公安の**久遠巌くおんいわお**だった。


「天堂陸斗君だな。座りたまえ」


久遠は陸斗の対面に座ると、周囲に注意を払いながら静かに言った。


「そのキー型デバイスは、君の父親が最後に開発したものだ。エクスカリバー・デバイス、と彼は呼んでいた」


「……あんたが、久遠巌か。父さんの仲間だったって」


「正確には、監視役だ。私は、君の父が研究していた超古代テクノロジーの監視と保全を行う国際的な秘密組織に属していた」


久遠は陸斗のデバイスから発生する微弱な量子ノイズを感知し、陸斗がすでにデバイスを起動させたことを悟った。


「君は、そのデバイスを使って何を感知した?」


陸斗はカップを置き、冷静に答えた。


「ドローンのシステム。奴らのエネルギーの流れ、プログラムの脆弱性。まるで、世界全体が透明なプログラムになったみたいだ」


久遠の目がわずかに見開いた。


「やはりそうか。それは、**量子情報コア(QIC)**の力だ。君の父親は、QICを制御するために、あらゆる情報に干渉できる『鍵』としてあのデバイスを設計した。君が覚醒させたのは、QICのデータハッキング能力だ」


久遠は一枚のタブレットを取り出し、一枚の写真を見せた。それは、巨大な複合企業のロゴだった。


『SYNCWARE GROUP (シンクウェア・グループ)』


「君が今、追われている理由だ。シンクウェア・グループは、QICの力を利用し、世界のエネルギーとIT産業を独占しようと画策している。彼らにとって、QICの真の制御権を持つ君と、エクスカリバー・デバイスは最大の脅威だ」


久遠はさらに、シンクウェアの若きCEO**東雲凱しののめがいが、QICを動力源とする浮遊要塞『アメノトリフネ』の開発を進めていること、そしてその目的が「世界支配のための兵器開発」**にあることを説明した。


「つまり、俺はただの不良から、世界の命運を握る**『チートの継承者』**になっちまったってわけか」陸斗は自嘲気味に笑った。


「その通りだ。そして、君が次に目指すべき場所は、シンクウェアがQICモジュールを密かに研究している深海エネルギー研究施設だ。奴らがモジュールを完全に回収すれば、世界の危機は現実になる」


陸斗が立ち上がろうとした、その時だった。


ピンポーン。喫茶店のドアが開き、眩いばかりの光を纏った一人の女性が入ってきた。


二宮怜央にのみやれお


巨大企業シンクウェア・グループの総帥一族の令嬢であり、この地方都市の不良である陸斗とは住む世界が違いすぎる、美貌の女性だ。彼女は、店内を鋭い眼差しで一瞥した後、陸斗のいるテーブルに向かって、まっすぐ歩み寄ってきた。


陸斗は驚きを隠せない。彼女は、テツヤたちが逃げ惑う電車の中で一度会ったきりだ。


「……天堂陸斗さん、ですよね?」


怜央は美しい顔に微かな緊張を浮かべながら、陸斗に問いかけた。


「貴方が、私の兄、**二宮伶にのみやれい**の失踪に関わっているかもしれない人物だと聞いています」


彼女の兄・伶は、シンクウェアの元研究者であり、怜央の元婚約者でもあった。怜央は、行方不明となった兄の痕跡を追って、この地方都市にまで来ていたのだ。


久遠が口を開こうとするより早く、怜央は陸斗を真っ直ぐに見つめた。


「私は、貴方が私の兄を追うための、唯一の『鍵』だと確信しています。あの時の、規格外の力……」


怜央は、強く唇を噛み締め、その時の記憶を頭の中で再生させた。


【怜央の記憶:あの日の電車内】


私は、兄の痕跡を辿るために、シンクウェアの護衛をつけて電車で移動していた。しかし、陸斗さん、貴方が乗車した途端、異変が起きた。


貴方が座席に座り、古い端末に触れた瞬間、私を警護していたエージェントたちの強化スーツが、一瞬で**『強制シャットダウン』**した。


彼らのスーツは、シンクウェアの最高技術で守られた、最新鋭のシステムよ。通常のハッキングでは、一秒たりとも持ちこたえられないはずがない。


なのに、貴方は微動だにせず、ただデバイスを操作しただけ。


あの時、私は悟ったわ。貴方の力は、私が知る全ての技術、シンクウェアのテクノロジーの『ルール』の外側にある、と。


兄の伶は、シンクウェアのルールの中で抗い、利用され、消された。 **この腐りきった世界を変えるには、この『ルール』そのものを書き換えられる存在、**つまり、貴方しかいないのだと。


「あの時、貴方がエージェントを一瞬で退けた規格外の力……チートを持っていることは知っています」


彼女は、陸斗の汚れた服装も、久遠という謎の男の存在も、一切気にしない様子だった。ただひたすらに、陸斗の持つ**『唯一無二の価値』**を渇望していた。


「私は、兄の失踪の真実を追うため、シンクウェアという腐敗した秩序と戦います。ですが、私一人の力では、この巨大な権力には勝てない」


怜央は、テーブルに手を置き、わずかに身を乗り出した。その瞳は、陸斗への無条件の信頼と、すでに芽生え始めている強烈な『溺愛』、いや、『信仰』****の光を帯びていた。


「どうか、私を連れて行ってください。私の全財産、私の知識、そして私の命、全て貴方のもの。貴方が私を**『最適化オプティマイズ』**してくれるのなら」


陸斗は戸惑った。久遠とのシリアスな世界の危機論から一転、目の前に現れたのは、**自己の全てを捧げる『献身的な協力者』**という、なろう系テンプレの王道展開。


(なんだこの展開……俺を無能だと見下した連中が、外道と戦うための最強のチートを手に入れたら、今度は世界一の美女が**『無条件で付いてくる』**だと?)


陸斗は口元に笑みを浮かべた。悪くない。この退屈な世界が、一変した。かつて自分を追放した秩序の象徴である令嬢が、今、自分を唯一無二の『英雄』として崇めている。これ以上のざまぁのカタルシスはない。


「いいぜ、二宮さん。アンタの力、俺の**『再起動リブート』**のために使わせてもらう」


陸斗はそう言い、ポポに次のルートを解析させた。深海にあるシンクウェアの巨大施設へ。


追放された凡人は、最強のチートデバイスと、運命の再構築を願う溺愛ヒロインを伴い、世界を牛耳る巨大企業への逆襲を今、開始する。

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