第73話(渚視点)何度やり直しても
「誓いのキスを」
神父の言葉に促され、一歩前に出る。ウェディングドレスを纏った桃華は女神様みたいに綺麗で、まるで夢を見ているみたいだ。
私たちが選んだのは、プリンセスラインの豪華なウエディングドレス。お互いに一番似合う物を選び合わない? という桃華の提案を押し切って、お揃いがいいと私がごねた。
私、本当に桃華と結婚するんだ。
1年前の今日、桃華にプロポーズされた。正直そんな予感はしていたけれど、でも、指輪を見た時の喜びは忘れていない。
同棲していたから、桃華の大体の給料は把握していた。だからこそ、私のために頑張って買ってくれた指輪が嬉しかった。
桃華がほんの少し屈む。目が合うと、ゆっくり唇を近づけてきた。目は閉じない。待っているだけじゃなくて、私だってちゃんと桃華にキスしたいから。
タイミングを合わせて唇を近づける。人前でキスをするのは初めてじゃないけれど、それでも今日は特別だ。
「渚」
離れる寸前、桃華が私の耳元で囁いた。
「今日も、世界で一番可愛い」
特別な今日なのに、今日「も」と桃華は言ってくれる。こういうところにいつも桃華からの愛情を感じるのだ。
幼馴染から恋人になって、変わったところも変わっていないところもある。
はっきりと分かるのは、今こうして隣にいるのが桃華でよかったということだ。
私たちが完全に離れると、会場内を盛大な拍手が包んだ。
家族と少数の友人だけを招いた小規模な式だけれど、私と桃華のこだわりをふんだんに詰め込んだ式でもある。
BGMを二人で考えた時間も、会場の花やケーキについて考えた時間も、全部宝物だ。
♡
「わ、どうしよう、意外と時間ない……?」
「大丈夫。急がなくてもいいから」
桃華はそう言うけれど、つい慌ててしまう。私たち二人がお色直しで退室している間、式場には主役がいないのだから。
ウェディングドレスはお揃いのデザインを採用したけれど、お色直しのカラードレスはお互いのドレスを選び合った。
私が桃華に選んだのは、深紅のマーメイドドレス。やっぱり桃華には赤が似合うと思ったし、足が長くてスタイルのいい桃華にマーメイドドレスを着せたかったから。
ウェディングドレス姿は女神って感じだけど、こっちは情熱的な吟遊詩人みたい。
「渚、やっぱりそれ似合うね」
私より先に着替えを終えた桃華が柔らかく微笑む。
桃華が私に選んでくれたドレスは、パステルイエローとオレンジを組み合わせたものだ。
向日葵を想起させるような柔らかい色合いのドレスで、桃華いわく、妖精みたいな愛らしさがあるらしい。
お色直し後は二人で腕を組んで入場する。お互いにいつもより高いヒールを履いているから、転ばないように気をつけないと。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
係の人に案内してもらい、扉の前まで移動する。式場の後方にある扉が開くと、華やかなメロディーが流れ始めた。
式場の後列には草壁がいる。草壁の眼差しは、分かりやすいくらい桃華に注がれていた。
私の桃華、綺麗でしょ。
今が結婚式じゃなかったら、目の前でそう自慢してやりたい。
草壁とはなんやかんや腐れ縁が続いている。大学の時は課題やテストの時に世話になったりもした。
普通の友達……と言いきってしまうのは、まだ少しだけ躊躇いがあるけれど。
さすがにもう桃華のことを引きずってるってわけじゃないよね。
今はいないけど、ちょっと前までは彼女もいたし。
でも、もしかしたら、ということもある。草壁の真横を通る時、桃華との距離をさらに縮めた。
バランスを崩しかけた桃華が一瞬だけ立ち止まって、不思議そうな顔で私を見る。
ごめん、桃華。
でもやっぱり、ちゃんと分からせなきゃって思っちゃったの。
草壁を今日招待したのは、私と桃華が正式に結ばれるところを見せつけたかったからだ。
もしかしたら欠席されるかもしれないと思っていたけれど、草壁はちゃんときた。
式場の一番前まで移動し、改めて会場全体を見回す。私の両親も、桃華の両親もハンカチで顔を覆っている。
私たちが付き合っていることを知っている数少ない友達だって、泣きそうな顔で私たちを見ている。
草壁の瞳だって、ちょっとは潤んでいるかもしれない。
ねえ、桃華。
私たち今、すごく祝福されてる。
やっぱり私たちって、結ばれる運命だったんじゃないのかな。
昔は、桃華と結婚することになるなんて思ってもいなかった。いつかお互いの結婚式に参列して、友人代表のスピーチをするんだろうな、なんてぼんやりと考えていた。
でも今は、桃華以外と結婚するなんて想像できないし、桃華が私以外と結婚するなんて考えられない。
私と桃華はきっと、赤い糸で結ばれてる。
何回人生をやり直したって、たぶん私は桃華と結婚するんだろうな。




