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第68話 人生をかけて

「……桃華」


 はあ、と渚はゆっくり息を吐いた。ゴンドラが地上に到着してしまいそうでそわそわする。


「遅すぎ」


 そう言うと、渚は勢いよく私に抱き着いてきた。その拍子にゴンドラが激しく揺れる。


「……渚。返事は?」

「イエスに決まってんじゃん、そんなの!」


 渚が叫んだのとゴンドラが地上に到着したのは、ほぼ同時だった。係員に扉を開けられて、慌ててゴンドラを下りる。

 下りた瞬間、渚が私の手をぎゅっと握った。


「ねえ桃華。もう一回乗らない?」


 きらきらと輝く瞳で渚が私を見つめる。

 この目をずっと見てきたけれど、恋人としてこの目に映るのは初めてだ。それだけじゃない。

 恋人として手を繋ぐのも、恋人として会話をするのも、全部初めて。


 どうしよう。幸せ過ぎて、こんな時、どんな顔をすればいいのか分からない。


「乗る」





「それにしても観覧車で告白なんて、桃華ってロマンチストだよね」


 外の景色を眺めながら、渚が弾んだ声で言う。先程は景色どころじゃなかったから、こうしてもう一度観覧車に乗るのも悪くない。

 まあ私の頭の中は今だって渚でいっぱいで、景色どころではないんだけど。


「ずっと記憶に残るだろうから、いい場所を選びたかったの」

「じゃあ、8月25日にこだわったのは? 今日ってなんかある? 大安とか?」

「いや、大安かどうかは知らないけど……とにかく、今日がよかったの」

「ふうん?」


 渚が納得していないのは明らかだ。でもこれに関して、納得のいく説明なんてできない。

 本当のことなんて言えないし。


「じゃあ桃華。念願叶って、今日が記念日になった感想は?」


 右手で拳を作り、マイクに見立てて私の口元へ差し出してきた。


 こういうところも、めちゃくちゃ可愛いのよね。


 顔も性格も仕草も、渚は全部可愛い。そんな渚が私の恋人になったのかと思うと、にやけがとまらない。今すぐ大声で叫んで、全世界に自慢しちゃいたいくらいだ。


「これからも頑張って生きよう、って思ってる」

「なにそれ」


 ははっ、と渚が笑う。私が一度人生を諦めたことを知らないから、渚はそんな風に笑えるんだろう。


「今日を記念日にしたかったんだろうけどさ、もうちょっと早めに言ってくれたら、恋人として夏休みも満喫できたのに」


 唇を尖らせながら渚が言う。不貞腐れているふりをしているけれど、声はやっぱり弾んでいて、私と同じように渚も喜んでくれていることが分かった。


「ごめん。でも夏休みは、来年も再来年も、社会人になるまではあるでしょ」

「それはそう。だからさ、来年もちゃんと遊んでよ? 受験で忙しい! なんて言わずに」

「うん、約束する」

「まあ、無理はしなくていいけどね。遊んでくれなかったら、いつでも家に押しかけちゃうから」


 ふふ、と笑った後、熱っぽい瞳で渚が私を見つめた。


「もうすぐ、てっぺんじゃない?」


 そうだね、なんて返事はいらない。無言のまま、そっと渚にキスをする。

 渚とはもう、数えきれないほどキスをした。

 だけど恋人としてキスをするのはこれが初めてだ。


 永遠に渚を離さない。誰かに渡したりなんかしない。

 人生をかけて、私がちゃんと渚を幸せにする。


「愛してるよ、渚」

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