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第59話 お風呂、一緒に入る?

「……そろそろ、お腹空いたかも」


 渚がそう言い出したのは、22時を過ぎた頃だった。

 渚が家にきてから今までに交わした言葉はとても少ない。

 抱き合って、キスをして。それを繰り返しているうちに、かなりの時間が経ってしまった。


「コンビニでも行く? もう遅いし、家にあるものでもいいけど」


 女子高校生が出歩くにはもう遅い。それに今は、外へ出るよりも渚とくっついていたい。


「なにがある?」

「冷凍の炒飯とか、ラーメンとか」

「ラーメンいいかも」

「私もそう思う」


 夏とはいえ、クーラー全開の室内は寒いくらいだ。

 ラーメンにぴったりである。


「じゃあ作ろうか」


 袋麺と鍋を用意する。仕事で忙しい時はよく食べていたから、ラーメンを用意するのには慣れた。


「……桃華、手際いいね」

「そうかな。お腹空いてるから急いでるのかも」


 渚は少し不思議そうな顔をしたまま私を見つめた。渚が不思議がるのも無理はない。

 私が普通に高校生だった頃は自分で食事を用意することに慣れてなんかいなかったから。


 でき上がったラーメンをどんぶりに入れ、リビングのテーブルへ運ぶ。

 いただきます、と声を合わせてからラーメンを食べ始めた。


 気まずいというほどではないけれど、いつもより会話は少ない。それでも私たちは、肩が触れ合ってしまうほど近い距離に座ったまま食事を終えた。

 せっかくのお泊り会だ。夜通し映画やアニメを見てもいいし、ゲームで遊んだっていい。

 それなのに今日は、これからどんな風に振る舞うべきなのか全く分からない。


 もし私と渚が恋人なら、こういう時はどう過ごすんだろう。

 抱き合って、キスをして……そのまま、身体を重ねる?


「桃華」

「……なに?」

「今日、一緒にお風呂入る?」


 渚はじっと私を見つめ、ぎゅっと私の手を握った。


 渚と一緒にお風呂に入ったことは何回もある。そもそも女同士だから、温泉に行けば一緒に入るのが普通だ。

 さすがに最近は狭い家風呂に一緒に入ることはなくなっていたけれど、小さい頃は一緒に入っていた。

 水着に着替えた時の更衣室だって一緒だったし、お互いの身体は見慣れている。


 ……でも。


 赤らんだ顔で、手を繋ぎながらこんな風に誘われるのは初めてだ。


「……入りたい」


 どくん、どくんと心臓がうるさい。興奮していることが、繋いだ手から渚に伝わってしまいそうだ。





「桃華、脱がないの?」

「脱ぐよ。……渚こそ、脱がないの?」


 脱衣所で見つめ合い、どちらともなく視線をずらす。

 更衣室で水着に着替えた時は、こんなことにはならなかったのに。

 とはいえ、いつまでも脱衣所に立っているわけにもいかない。覚悟を決めて、ゆっくりと服を脱ぐ。


「じゃあ、先に入ってるね」


 温泉と違って、タオルで身体を隠すこともできない。慌てて風呂場へ移動し、とりあえずシャワーをつけた。


 ……どうしよう。

 一緒に入るって言っちゃったけど、これ、私の心臓持つの?


 浴室の扉が開いて、裸の渚が入ってくる。思わず凝視してしまうと、見過ぎ、と渚に笑われてしまった。


「シャワー浴びて、とりあえず身体洗う?」

「……うん」


 渚がシャワーに手を伸ばす。浴室はそれほど広くないから、伸ばした渚の腕が私の肩に触れた。

 それだけで、心臓が飛び跳ねる。


「ねえ、桃華」

「な、なに?」

「背中洗ってあげる。それから……」


 私の目を見つめ、渚は悪戯っぽく笑った。

 家へきた時は元気がなかった渚がいつも通りに戻ってきていることには安心するけれど、あまりにもどきどきしてしまう。


「髪の毛も洗ってあげようか? 久しぶりに」


 小さい頃、お互いの髪を洗い合ったことはある。でもそれはおままごとの延長線上にあったことで、今とは確実に意味合いが違う。


「うん」


 私が頷くことくらい、渚は分かっていたんだろう。

 緊張しきった私を見て、渚は楽しそうに笑った。

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