第55話(草壁視点)歪な関係
手に持ったホットレモンのペットボトルが熱い。気を抜けば落としてしまいそうになる。
眩しい太陽、海ではしゃぐ人たちの騒がしい声、耳を塞ぎたくなるほどうるさい海の家の宣伝。
そんな光景が広がるすぐ近くで……他の人から少しだけ死角になっているような場所で、桃華ちゃんと藤宮さんがキスをしている。
白昼堂々、太陽の下で。
まるでここにいる人全員に見せつけるように。
そのくせ、桃華ちゃんの表情はよく見えない。キスをしていることは確実に分かるのに。
「……なんだよ」
声にならない声が、口から漏れた。心臓が激しく脈打つ。
なんとなく、二人がただの幼馴染じゃないような気はしていた。
友情ではない感情があるのではないかとも思っていた。
別に、女同士だから、なんて偏見はないつもりだ。もちろん、桃華ちゃんが好きな俺としては認めたくないけど。
でもこれは、女同士だとか、そういう問題じゃない。
藤宮さんが桃華ちゃんから離れたかと思うと、振り向いて俺を見た。
だというのに、全く驚いていない。まるで、俺がいることを知っていたみたいだ。
俺を見つめながら、勝ち誇ったような顔で笑う。そしてそのまま、また、桃華ちゃんにキスをした。
なんだ、これ。
周りの人だって、少しずつ気づき始めている。それに気づいていないわけじゃないだろう。
桃華ちゃんは? 桃華ちゃんも分かった上で、この行為に応じている?
なにもできないまま、数分が経った。
ようやく桃華ちゃんから離れた藤宮さんが、あ! と俺を見て叫ぶ。
一瞬だけ目が合った桃華ちゃんは、すぐに俺から目を逸らしてしまった。
♡
「これ」
温かいペットボトルを渡すと、ありがとう、と藤宮さんが笑った。
どういたしまして、と笑顔で言い返せないのは仕方ないと思う。
さっきのことについて、聞くべきだろうか? それとも、見なかったふりをするべきなのか?
二人はキスをしていた。普通の幼馴染はキスなんてしない。
でも、たぶん、二人は付き合っているわけじゃない。
なんなの? この二人の関係は。
「お腹の調子良くなってきたし、泳ぎに行かない?」
藤宮さんの提案に、桃華ちゃんが頷く。俺だって、泳ぐことには賛成だ。
でも、それどころじゃない。今さら普通に海を楽しむことなんてできない。
とはいえ、正直にそんなことを言えるはずもない。
あー、もう……!
♡
「そろそろ暗くなってきたし、帰ろっか」
遊び疲れて眠たくなってきた頃、藤宮さんが言い出した。
海からあがり、なんとなく空を見上げる。茜色の空が海に反射して綺麗だ。
「そうだ。写真撮らない?」
笑っているのは藤宮さんだけだ。桃華ちゃんは俺を見ようとしないし、俺も上手く笑えない。
……そういえば桃華ちゃん、ずっとラッシュガード着たままだったな。
残念だけど、肌を見せたくないのだろう。そう思っていた。
けれど露出が嫌なら、わざわざラッシュガードが必要な水着をきてくる必要があるのだろうか。
この水着、藤宮さんと一緒に買いに行ったって言ってたっけ。
「楽しかったよね」
一人で笑いながら、藤宮さんが何枚か写真を撮った。
「でしょ、桃華」
有無を言わせない声だ。
「じゃあ帰ろっか」
藤宮さんは、なんでわざわざ俺に見せつけるように桃華ちゃんにキスをしたんだ?
牽制? 自慢? 二人の関係は、いったいなんなんだ?
混乱していて、上手く頭の整理ができない。
ただ、分かったことが一つだけある。
この二人は、どこかおかしい。




