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第44話 次なる行事

「なんか、今日から練習ないって変な感じだよね」


 ホームルーム直後に、草壁が笑いながら話しかけてきた。

 確かに昨日までは毎日放課後に応援団の練習があったから、少し落ち着かない気もする。


 まあ、私としては嬉しくてしょうがないって感じなんだけどね。


 今日からは暑い中、好きでもない運動をせずに済む。

 そう考えるだけでワクワクしてくるが、今日だってボーっとするわけにはいかない。


「まあ、明日からテスト期間だしね」


 私の言葉に、草壁はあからさまに嫌そうな顔をした。


「……桃華ちゃん、テスト勉強とかしてる?」

「それなりには?」


 嘘でしょ、と草壁が頭を抱えた。


 一回大人を経験しちゃったから、勉強の大事さが身に沁みてるんだよね。

 前と同じ大学に入るには、そこそこ勉強しないといけないし。


 前は、渚と草壁が付き合い出した辛さから逃げるように勉強していた。

 今はそうじゃない分、意識的に勉強をしなくては。


「そうだ! 桃華ちゃん、俺に勉強教えてくれない?」

「え?」

「桃華ちゃんが教えてくれたら、頑張れそうな気がする」


 草壁がにっこりと笑った、ちょうどその時。


「駄目でーす」


 そう言って笑いながら、渚が私と草壁の間に入ってきた。


「桃華には桃華のテスト勉強があるんだから、人に教える時間とかないの」


 でしょ? と渚が私を見る。

 確かにテスト期間は私も勉強しないといけないわけで、人に教えるとなるとかなりの負担だ。


 もちろん、教えることで復習になる場合もあるけど……時間的にも精神的にも、負担が大きいのよね。


 ……でも。


 それ、渚が言う? 渚、毎回毎回、教えて! って私に泣きついてくるのに。


「じゃあ藤宮さんは、桃華ちゃんに教えてもらわないわけ?」

「私はもちろん、幼馴染特権で教えてもらうに決まってるじゃん」


 堂々と胸を張った渚が、でしょ? と私を見つめる。


 こういうところ、本当に可愛い。


 にやけてしまうのを必死に我慢して、仕方ないなぁ、なんて冷静なふりをする。


 渚はずっと勉強が苦手だ。そして、草壁もそれほど勉強が得意じゃない。

 だから前の人生でも、渚に勉強を教える役割だけは奪われずに済んだ。


「じゃあ藤宮さん、テストで俺と勝負しない?」

「勝負?」


 渚がぴくっと眉を動かした。


 まずい。渚、勝負事にはのっちゃうタイプなんだよね……。


「そう。全科目の合計点で」


 にやっと草壁は笑った。きっと、渚になら勝てると思っているのだろう。

 そしてたぶん、その認識は大きく間違ってはいないはずだ。


「いいけど」


 予想通り、渚は頷いた。


 嫌だな。二人が勝負なんて、そんなの。

 きっと私は勝負に入れてもらえない。仲間外れになっている間に二人の距離が縮まるんじゃないかって、そわそわする。


「で、その勝負、何を賭けるの?」

「桃華ちゃんとの1日デート権」

「却下」


 検討すらせずに渚は即答した。


「それ、私に得がないじゃん。私は別に、勝負に勝たなくてもデートし放題だから」


 ねえ、と渚が私の腰に腕を回した。


「じゃあ、俺が勝ったら、桃華ちゃんをデートに誘ってもいい?」

「は?」

「強制はしないよ。俺はただ誘うだけ。どう?」


 挑戦するような笑みを浮かべる草壁を、渚が顔を引き攣らせながら睨みつけた。

 間違いなくこれは、イライラしている顔だ。


「桃華ちゃん的にはこの勝負、どうかな?」


 これ、渚と草壁が私を取り合ってる……っていう、解釈でいいのよね?

 このままいけば、二人が好き同士になることはない? ううん、そんなの、まだ分からない。


 私は渚と付き合いたい。渚に、私への独占欲は恋なんだって認識してほしい。


 だったら、私の答えは……


「いいよ。優希くんが勝ったら、デートしよう」


 答えた瞬間、渚は私に強い視線を向けた。ゆっくりと目線を動かし、渚の顔を確認する。


 嫉妬、怒り、驚き……いろんな感情が入り混じった眼差しにぞくっとする。


 ねえ、渚。

 もっともっと、私をその目で見てよ。

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