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第40話(渚視点)許せないこと

「ねえ渚。あの二人って、付き合ってるの?」


 借り物競争の待機列で、いきなり他のクラスの子に話しかけられた。最近は話していなかったけれど、中学が一緒だった子だ。

 彼女が指差した先には、桃華と草壁がいた。

 救護テントの中で、仲がよさそうに隣に座っている。


「……なんで、そう思うの?」

「え、だって、仲良さそうじゃない? 五十嵐さんが男子とあんな距離にいるの、中学の頃は見なかった気がするし」


 気になっちゃって、と彼女は瞳を輝かせた。


「しかも草壁くんって、告白されても断ってるらしいの。五十嵐さんがいるからじゃないかって、結構うちのクラスでは噂になってるんだよ」


 なにそれ。

 そんな噂、私は知らない。


「渚なら、五十嵐さんと仲いいし、本当のこと知ってるんじゃないかなって。どうなの?」


 期待に満ちた目で見つめられる。うるさい! と怒鳴りつけたくなったのを必死に我慢した。


「……付き合ってないから」

「えー、そうなんだ。渚が言うならまあ、そうなんだろうけど……」


 つまんないの、とがっかりしたように彼女は呟いた。

 噂話は人気だ。恋バナも人気。二つが組み合わさって、桃華と草壁の話は私が思っているよりもずっと広まっているのかもしれない。


 嫌だな。あり得ないのに。

 桃華が草壁と付き合ってるわけないじゃん。


 二人が付き合っていないことは、私が一番よく知っている。でも、周りからそんな風に見られていることが気に入らない。

 桃華が、私以外の物に見えているなんて、許せない。


 私は小さい時からずっと桃華と一緒にいた。

 人見知りな桃華が、私にはいつも笑顔で話してくれた。だからみんな、五十嵐さんといえば渚だよね、なんて言ってくれていた。


 なのに。

 今は、桃華と草壁が仲がいいって、みんなが思ってるの?


 だめだよ、桃華。そんなの、絶対にだめ。





 怯えたような目で、桃華が私を見ている。私が急に真顔になったから、きっと驚いているんだろう。


「それとも桃華は、草壁と付き合ってるって周りに思われたいの?」

「……そんなわけないでしょ。普通に話してただけだし」

「知ってる」


 草壁がテントに移動してきただけだ、ということも分かっている。分かっているけれど、気に入らない。


 桃華は、私が草壁と仲良くするのが嫌なんでしょ。

 私に、彼氏を作ってほしくないんでしょ。


 なのになんで、そんなことを言った桃華が、男子と仲良くしたりするの。


 桃華は私が好きで、私にキスをされると喜んで、キス以上のことをねだるような目で見てくる。


 それならずっと、私のことだけ見てればよくない?


「でもね、勘違いする人もいるの。桃華が草壁と付き合ってるなんて、あり得ない勘違い」


 桃華は絶対、私のことが一番好きなのに。


 桃華は何も言わない。いつの間にか、借り物競争自体が終わりそうだ。借り物競争の後は綱引きで、その後は昼休み。

 昼休み明けは応援合戦で、応援団の見せ場だ。


 ちょっとなら、時間もあるかな。

 桃華にちゃんと、もっと自覚してもらわなきゃ。


 誰のことを一番、好きなのかってことを。


「二人きりになれるとこ、探しに行こ?」

「……うん」


 桃華が頷いてくれるって、私は知ってた。

 だって桃華は、私のお願いを断ったりしないから。桃華は、私のことが大好きなんだから。

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