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第37話(渚視点)恋じゃない、けど

「あ、桃華ちゃん、写真撮ろうよ」


 学ランに着替えて教室へ戻ると、同じく着替えを終えた草壁が爽やかに笑った。その視線は、真っ直ぐ桃華に向けられている。


「うん、いいよ」


 桃華はあっさりと頷いて、草壁の横に立った。


「藤宮さん、写真撮ってくれない?」


 当たり前のような顔で、草壁がスマホを差し出してくる。嫌だ、と言ってやりたいけれど、断る理由が見つからない。

 草壁が桃華に写真を撮ろうと言って、桃華もそれに頷いたのだから。


 それに私、なんでこんなに嫌なんだろう。


 桃華が草壁を好きになって、草壁と付き合って、私と離れてしまうんじゃないか。入学したばかりの頃は、そんな風に不安に思っていた。

 でも今はもう、桃華の気持ちが草壁に向いていないことが分かっている。


 だけど、それでも、桃華と草壁の距離が近いのは気に入らない。


「藤宮さん?」

「……なんでもないから」


 スマホを構えると、草壁が桃華に一歩近づいた。肩と肩が触れ合いそうな距離にイラっとしてしまう。


 桃華も、なんでもっと距離とらないの。

 桃華、男子は苦手でしょ。中学の時なんか、話しかけられても全然話さなかったじゃん。


「撮るよ」


 理由は分からないけれど、入学したばかりの頃、桃華は不自然なほど草壁と距離を詰めていた。

 男子をいきなり下の名前で呼ぶ桃華なんて、違和感しかなかった。


 でも今は、二人が並んでいる姿に違和感はない。桃華が無理をしている様子もない。

 きっと恋じゃない。でも桃華は、草壁に気を許し始めている。そんな気がして、心が騒ぐ。


 シャッターボタンを何度か押して、草壁にスマホを返す。見て、と草壁が言うと、桃華は無防備にスマホを覗き込んだ。


 やめてよ。なんで、そんな近くにいるの。

 桃華は、アンタのことなんて好きじゃないんだから。


 喉元まで、そんな言葉がせり上がってくる。二人にバレないように、そっと溜息を吐いた。


「後で写真、送っとくね」

「うん」


 嫌だ。なんで、私に見えないところでやりとりするの?

 写真だけじゃなくて、メッセージで連絡もとり合ってるの?


 桃華は草壁なんかより、私のことが好きなのに。


「草壁。私と桃華の写真も撮ってよ」


 強引にスマホを草壁に渡す。うっかりノーマルカメラを開いて渡してしまったけれど、そんなことはどうでもいい。


「桃華」


 桃華の腰に腕を回し、やや強引に抱き寄せる。目が合うと、草壁が一瞬だけ顔を顰めた気がした。


 ねえ。

 草壁は、桃華にこんなに近づけないでしょ?

 桃華とキスしたことなんてないでしょ?


「桃華、こっち向いて」


 桃華が私を見つめる。私を見る桃華の眼差しは、いつだって優しい。


 絶対、この目で他の人を見てほしくない。

 こんな風に独占欲を抱えるようになったのは、いつからだろう。


 桃華の頬に、私は軽くキスをした。いきなりのことに、桃華も、草壁も驚いている。


「今の、ちゃんと撮った?」

「えっ? あ、撮れてない、ごめん」


 慌てたまま、草壁が頭を下げた。


「じゃあ、もう一回するから、今度はちゃんと撮って」

「ちょ、ちょっと、渚」


 焦った声で桃華が私の名前を呼ぶ。


「だめなの?」

「……だめじゃない、けど」


 本当に、桃華は私に甘い。甘すぎるくらいだ。

 桃華の頬に、もう一度軽くキスをする。今度はちゃんと、シャッターの音が聞こえた。

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