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第25話(渚視点)熱にやられる

 ゆっくりと息を吸って、ゆっくりと息を吐く。冷房の効いた部屋にいるのに、なかなか身体が冷えない。


「……どうしよ」


 心臓がうるさい。先程のことを思い出すだけで、顔から火が出てしまいそうだ。


「私、本当になにやってるんだろ」


 なんでもないようなふりをして、いつも通りメッセージを送ってみた。

 課題のページが分からなかったのは本当。だけど、課題をする気になんてなれない。


 そっと胸に手を当てる。桃華の手が同じところに触れたことを思い出すと鼓動が速くなった。


 桃華も、嫌がってなかったよね。

 それどころか……。


 道の真ん中で、いつ人がきてもおかしくないような場所で、私は桃華にキスをねだった。


 人がくるなんて、想像もしてなかった?

 それとも、いっそ誰かに見られちゃえ、なんて思ってた?


 自分のことなのに、よく分からない。


「……だって、最近の桃華、なんか変わったし」


 高校に入学した頃からだ。

 自主的にメイクをするようになって、男子とも話すようになった。

 もしかしたら桃華が私から離れていっちゃうんじゃないか、なんて考えたりして。


 そのくせ、桃華は前以上に私のことが好きな気もして。


 ただの友達は、キスなんかしない。でも私たちはもう何度か唇を重ねている。


「今日の桃華、やっぱり私に興奮してたよね?」


 からかうようなことを言ったけれど、私の心臓はずっとばくばくとうるさかった。


 桃華って、私のことそういう意味で好きなの?


 私がねだれば、桃華は私にキスをしてくれた。

 じゃあ私がねだったら、それ以上のこともしてくれるの?


 目を閉じれば、浮かんでくるのは桃華の顔ばかりだ。

 そして頭の中の桃華は、熱っぽい瞳で私を見つめている。


 これは現実だろうか、それとも私の願望?


 身体の奥が熱くなって、熱を吐き出すようにゆっくりと深呼吸を繰り返す。


「……桃華となら、私……」





 昨日、私は一睡もできなかった。悶々として、一晩中桃華のことばかり考えていた。


「おはよう、桃華」

「うん、おはよう。顔色悪いけど、大丈夫? 寝不足?」


 そう言って、桃華が私の顔を覗き込んでくる。桃華の目の下にも、濃いクマがあった。


「……うん、桃華と一緒」


 私がそう答えると、桃華は気まずそうな顔をした。

 こほん、と同じタイミングで咳払いをして、前を見て歩き出す。


 桃華も昨日、私のことばっかり考えてたのかな。

 私と一緒で、桃華も眠れてなかったらいいのに。


 桃華の頭の中はどうなっているんだろう。

 桃華の中で、私が占める割合はどれくらいなんだろう。


 桃華の頭の中が、私一色ならいいのに。


 寝ずに考えたけれど、正直まだ、桃華への好意が恋愛的なものなのかは分からない。

 でも、桃華が私以外の誰かと恋人になるのも、性的な関係を持つのも嫌だと思った。


 他の人とするくらいなら全部、私とすればいい。


「ねえ、桃華」

「なに?」

「手、繋いでいい?」


 平静を装うためには、下を向くしかなかった。だから私は、桃華がどんな顔をしているのかが分からない。


 友達同士で手を繋ぐなんて、別に珍しいことじゃない。

 だけどきっと、こんなにどきどきしながら手を繋げるのは桃華だけだ。


「うん」


 桃華がぎゅっと私の手を握る。

 汗ばんだ手のひらが愛おしい……なんて思っちゃう私は、もうだいぶ、熱にやられっちゃってるんだろうか。

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