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第23話 女の子に

「あ、えっと……」

「冗談のつもりだったんだけど、まさか図星?」

「……そうだって言ったら?」


 渚は一瞬かたまって、すぐに大声で笑い出した。からっとした笑声で、雰囲気ががらりと変わる。


「桃華のえっち、とか言っちゃおうかな、その時は」


 言われるのも悪くないかもしれない、なんて私が本気で思っていることを知ったら、渚はどう思うだろう。


 私が渚へ向ける恋愛感情には、もちろん性欲だって含まれている。妄想の中でなら、何度だって渚と身体を重ねた。


 渚は……渚は、女の私から性的な好意まで向けられていると知ったら、どう思うのだろう。

 渚の私に対する独占欲はきっと、親友に対する独占欲だ。それだって嬉しいけれど、でも、それだけじゃ足りない。


「どうしたの? 急に黙っちゃって」

「あ、いや、なんでもない」

「もしかして、私が言ったこと気にしちゃった?」


 私が答えられずにいると、渚は残りのアイスを全て食べてしまった。それを見て、私も慌ててアイスを食べる。

 少し溶けてしまったせいで、手がべたついた。ハンカチかティッシュを取り出したいけど、そのために鞄に触れるのも躊躇われる。


 結局、自然に任せようと手をぶらぶらさせていると、渚が急に私の手を握った。


「渚?」

「桃華の手、べとべと」


 笑って言いながら、渚は繋いだままの私の手をそっと撫でた。まるで存在を確かめるみたいに、丁寧に。


「桃華って、どんな人が好きなの? いや、ちょっと違うな、うーん……」


 じっと私を見つめ、渚は覚悟を決めたように再度口を開いた。


「桃華って、どんな男の人に興奮するの?」

「……え?」

「いや、私たちってこういう話、したことないなーって、ふと思ったんだよね。ていうか、あんまり友達とこういう話、しないものかもしれないけど」


 さすがに渚も恥ずかしくなってきたのか、そっと目を逸らす。


 渚の言う通り、私たちは今まであまり恋愛の話をしてこなかった。そしてそれ以上に、性的な話なんてしていない。

 それは、未来でもそうだった。


 元々私は、友達とあけすけにそういう話をするタイプじゃない。恋愛対象が女だからだ。

 それに、渚からそんな話も聞きたくなかった。だから、意図的に避けていた話題ではある。


 渚だって、私にこんな話をしてくることはなかった。

 やっぱり、なにかが確実に変わっている。


「それとも桃華はさ……」


 渚が私の手を、そっと自分の胸元へ運んだ。

 渚の胸はあまり大きくない。でも、夏服のブラウス越しに触れば、はっきり分かる。

 意図せず、渚の胸に手や腕が触れたことはある。でも、こうやってはっきり、手のひらで触れたのは初めてだ。


 気が狂いそうなくらい、心臓がどきどきしてる。


「女の子に興奮したり、する?」


 ごくん、と思わず唾を飲み込んでしまった。


 混乱して、どうすればいいのかが分からない。だってこんなシチュエーション、想像したことすらなかったから。


「桃華。ここで私にキス、できる?」


 なにが正解かなんて分からない。考える余裕もない。


 私は、引き寄せられるように渚にキスをした。

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