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第22話 興奮しちゃった?

「やっぱり、結構人気だね」


 救護係を希望した人の数を見て、渚がうんざりしたような声を出した。


「じゃんけん、勝てるといいけど」


 救護係は4名で、男女それぞれ2名ずつと決まっている。

 つまり私たちが一緒にやるためには、2人そろってじゃんけんに勝たなければならない。


「ね、桃華。私たち、なに出すか決めとかない? 負けるとしても勝つとしても、一緒になれるように」

「うん、いいよ」

「もし先に女子が1人だけ決まっちゃったら、辞退しようね。怒られるかもしれないけど」


 はは、と渚が悪戯っぽく笑う。当たり前のように一緒の係じゃないと嫌だと言ってくれるのが嬉しい。


 救護係は、体調不良者を保健室や救護テントへ運ぶ係である。

 そのため常に救護テントに控えている必要があり、待機中もクラスのテントにいなくていい。


 救護テントはクラスのテントに比べて人口密度も少ないため、比較的涼しいはずだ。


 要するに、一番楽そうな係なのよね。


「じゃあ、パー、パー、グー、チョキの順番で出さない? それ以降は、繰り返しってことで」


 渚の提案に頷き、私たちは一歩前に出た。

 男子に比べて、女子は救護係希望も多い。


 このじゃんけんに負ければ、余っている係をしなければならない。そして2人分の枠が空いていなければ、渚と別の係になってしまう。


 お願い、神様。


 必死に祈りながら、私はじゃんけんに参加した。


 そして私たちは、勝利を掴み取ったのである。





 今日は係決めと練習スケジュールの説明、そして前年度も応援団をやっていた人たちの演舞披露で終わった。

 草壁と渚が仲良くならないように応援団に入ったが、私は運動がかなり苦手だ。正直、気が重い。


「ねぇ、桃華。演舞、格好良かったよね!」


 渚はテンション高くそう言って、歩きながら上半身だけで演舞の振りをしてみせた。

 一度見ただけなのに、ずいぶんと完成度が高い。


「私は、本当にできるのかなって不安になったよ」

「大丈夫だって! できなかったら、私が練習付き合うし」

「ありがとう」


 渚に教えてもらえるなら、わざとできないふりをしてもいいくらいだ……なんて思っていると、渚が自動販売機の前で足を止めた。

 飲み物の自動販売機ではなく、アイスの自動販売機だ。


「これ、食べながら帰らない?」


 家まではもうあと少し。ここでアイスを食べなくたって、すぐに冷房の効いた涼しい家へ帰れる。


 だけどそれは、渚の誘いを断る理由にはならない。


「うん、いいよ」

「やった。アイス食べたかったんだよね」


 どれにしようかな、と言いながら渚がじっくりとアイスのラインナップを見つめる。

 最終的に渚が選んだのは、夏らしいソーダ味のものだった。


 私は少し悩んで、りんご味のものを選んだ。


「桃華のもいいね、美味しそう」

「渚のも美味しそうだよ」


 渚がアイスにかぶりつく。しゃり、という小気味いい音がした。

 私もアイスにかぶりつくと、渚が思いもよらない提案をしてきた。


「一口交換しない?」


 私たちは幼馴染だ。食べ物をシェアするなんて日常茶飯事である。

 しかし、棒状のアイスは他のお菓子や食べ物とは違う。私たちだって、今までシェアしたことはない。


「ねえ、桃華。いいでしょ?」


 夕陽を浴びて、渚の瞳がきらりと光った。私の返事を聞くよりも先に、渚が私の口元にアイスを近づける。


「ほら、食べて」


 アイスで唇をつつかれ、反射的に口を開く。すると渚は、その隙間にアイスを突っ込んできた。


 がぶ、とアイスを噛む。爽やかなソーダの味が口いっぱいに広がった。


「桃華のもちょーだい」

「うん」


 動揺したまま、自分のアイスを渚の口元へ差し出す。渚が口を開いた瞬間、私の視線は渚の舌に釘付けになった。


 渚の舌って、結構長めかも……。


「そんなに見て、どうしたの?」


 私のアイスを一口食べた渚が笑いながら言う。


「もしかして、興奮しちゃった?」

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