第9話
程なくして、みんなで挨拶をしにじいちゃんの家の前に集まる。
「お、空いてる」
ここかなり古く、インターホンもない。鍵をかけないなんて不用心だ、と思うかもしれないけど、こっちの方ではこれが当たり前なんだろう。
「お邪魔しまーす」
靴を脱いで、廊下に上がる。居間に繋がる引き戸を開けると、じいちゃんは座敷の上でテレビを観ているところだった。
「久しぶり、じいちゃん。」
「おぉ、よく来てくれたな!」
こちらに気がつくと、明るく、優しい笑顔で僕たちを出迎えてくれた。前に来た時と変わってない様子で、なんかホッとした。
「すみません、いきなり大勢で押しかけて…。」
「そんなもん気にせんでええんじゃ。いつも晴太と仲良くしてくれてありがとうな!」
「あたしたちに出来ることならなんでもします!遠慮なく言ってくださいね!」
「なら、早速ですまんが買い物を頼まれてくれんかの。腰が痛おてな…」
そう言って、1枚のメモと封筒を僕に手渡す。メモに書かれていたのは、ブリの切り身、長ネギ、醤油…などなど。おそらく自炊用の食材だろう。ばあちゃんが亡くなってから、家事も全部1人でするようになったんだろうな。
「そんなのお安い御用っすよ!力仕事は任せてください!」
「頼りになるのぉ。スーパーは歩いて15分くらいのところにあるんじゃが、晴太は覚えとるか?」
「うん、大丈夫。」
昔はよく、そのスーパーに連れて行ってもらっていた。すぐそこの道路をまっすぐ歩いて行った記憶があるし、多分大丈夫だろう。
「じゃあ、行こうかみんな。」
「改めて、これからお世話になります。」
深々とお辞儀をする鏡花。“礼儀”という言葉を体現しているかのような姿だ。
「お邪魔しました!」
それにつられるかのように、残りのメンバーも頭を下げる。こうして、僕たちの初仕事が始まった。
「やっぱ荷物がないと、体軽いね~」
「今なら空も飛べそうだ…!」
「それにしても本当に綺麗ね、ここからの景色。」
いつものように話しながら、海沿いの道路を進んで行く。この場所をいつもの5人で歩いているのは、ちょっとだけ新鮮な感じがする。
「お、見えてきたぞ。あれじゃねーか?」
やがてそれなりに大きい建物が姿を見せる。ここに来るのも何年ぶりだろうか。
スーパーの駐車場を突っ切って、入り口をくぐる。田舎とはいえ、お昼時ということもあって、店内はかなり賑わっている。
「お昼どうする?今から作ったら遅くなっちゃうし、お弁当買って帰らない?」
「そうだな。夜は俺たちで作るか?まあ俺は料理できねーけど」
「そういうのは、鏡花に任せるしかなさそうだな。」
「ちょっとー!あたしのこと忘れてない?」
鏡花は、料理がとても得意だ。中学の調理実習の時、他のグループとは比べ物にならないほどのクオリティのハンバーグを作っていた。材料は同じはずなのに。
綾寧の料理は…。察してもらいたい。
でも、鏡花の監修の元でなら、そこまで悲惨なことにはならないだろう。
「そうね…。カレーなら、みんな食べられるかしら。」
「じゃがいもは多めで頼む。」
「僕は頼まれた分を探してくるから、夜の分の材料はよろしく。」
そう言い残して、一時的にみんなと別れる。
頼まれた食材を探しに鮮魚コーナーへ行ってみると、地元のスーパーとは全くの別物だった。
値段は安いのに、鮮度も量もこちらに軍配が上がる。近くに漁港もあったし、そこから仕入れているんだろうな。
その後は野菜、調味料などをカゴに入れていき、10分ほどで頼まれたものは全て揃った。
そして、自分の昼食を探しに惣菜コーナーへ向かうと、カートを押している翔を見つけた。
「おお、晴太。そっちは順調か?」
「うん。ちょうど全部集め終わったところ。そっちは…、問題なさそうだね。」
カートに乗せられているカゴの中を見ると、カレーの材料が勢ぞろいしている。
「残りのみんなは?」
「今、この後食べる昼飯を見に行ってるところだ。俺たちも行こう。」
翔と一緒に、総菜とか弁当を見て回る。僕は海鮮丼を買うことにした。このボリュームで600円…、なんか得した気分だ。
これで用は済んだので、会計を済ませて残りのみんなと合流する。
「よし、これで全員そろったな!んじゃ、さっさと帰ってメシに…」
いかにも食べるのが待ちきれなさそうな恭介が店を出ようとした瞬間、鏡花がそれを制止する。
「ちょっと待って。私たちが泊まる家、ティッシュとかシャンプーとかって置いてるの?」
「あ、言われてみれば無かったな…。買って帰ろう。」
「ナイス気付きだ、鏡花」
そんなこんなで頼まれごとをこなした僕たちは、来た道をまっすぐ戻ってきた。