第8話
「おい、起きろ晴太!ここで降りるんだろ?」
「んぁ…?」
重い瞼をこじ開けて、ぼやけた視界のまま、駅名を確認する。
「あ、ここで降りないと!」
慌てて荷物をまとめて、ぞろぞろとホームに降りる。停車時間がそこそこあって助かった。
「危なかった~!」
「あなたたち、全然起きなかったんだから」
どうやら、男子勢は3人とも眠りに落ちていたらしい。乗り換える前まではしっかり起きていたんだけど、その後すぐに力尽きてしまった。
「すまない。実は昨日、楽しみすぎるがあまりなかなか寝付けなかったんだ…!」
実に翔らしい理由だ。
「ここまで来れば、もう一息。歩いて10分くらいで着くと思う。」
「やっべ!切符無くしたかも!」
慌てた様子でカバンの中やポケットに手を突っ込んでいる恭介。かなり長距離の切符だったこともあり、そこそこ値段が張る。なんとしても見付けたいところだ。
「あ、あれ…。」
鏡花がホームの端の方に駆け寄り、地面に手を伸ばす。その手の先には、裏向きで落ちている切符。地面の黒いコンクリートの色と同化して、見分けが付きにくい。よく見付けられたな。
「うおー!マジで助かった、サンキューな!」
「なんか私たち、助けられてばっかりだね」
なにはともあれ、一件落着。ようやく改札を出て、目的地へ歩みを進める。
「あれって海!?めっちゃ近いじゃん!」
少し道を進んだ先にその姿を覗かせているのは、明るい青色の海。空高く昇っている太陽の日差しを受けて、かなり存在感を放っている。
「この道の突き当たりを左に曲がってすぐあるのが、おじいちゃんの家だよ。」
「てことは家の裏がもう海ってこと!?オーシャンビューし放題じゃん!」
「晴太、まだ着かないのか…?」
苦しそうな表情で荷物を担いでいる翔。本当に何が入っているんだ。
「ほら、その家。右の方がじいちゃんの家で、その隣が今日から泊まるとこ。」
途中で寝てしまったのもあるけど、着いてみればあっという間だった。
「やっと着いたぁー!」
「めっちゃ綺麗じゃねえか、俺たちが泊まる家!」
「鍵は借りてきてるから、とりあえず荷物を置きにいこうか。」
ずっと昔に遊びに来た時、何度か正徳さんの家にも入れてもらったような気がするけど、もうほとんど覚えていない。玄関の扉に手をかけつつ、ゲームで新しいダンジョンに入る時みたいな、そんなワクワクを感じる。
扉を開け切って家の中を見渡してみる。若干ホコリっぽい気がするけど、何年も放置されているのを勘定に入れたとしても、普通の家とそれほど変わらない様子だった。
入ってすぐ、左手に扉があったので開けてみると、そこはリビングだった。
「置き終わったら、晴太くんのおじいさんに挨拶しに行きましょう。かなり長い間、泊めてもらうわけだし…。」
「それもそうだな。適当に置いていこうぜー」
一旦、リビングの隅の方に全員の荷物をまとめる。こうして見ると、かなりの量だ。
「うわ、このカバン誰のやつ?持ってきすぎでしょ!」
「それは俺のだ。是非、楽しみにしていてくれ…!」
どこか不敵な笑みを浮かべつつ、翔が答える。なんというか、悪役顔だな。