第5話
「そういえば、今日部活なかったのか?」
恭介は陸上部、綾寧はバレー部に属している。ただの平日にオフなんて、結構珍しい。
「あーそれね。今日は体育館で工事やってるらしくてさー」
「資材の運び込みでトラックとかも出入りするから、グラウンドも使えないんだとよ。」
「なるほど。結構ガタ来てたもんな。」
うちの高校はそれなりに歴史がある。僕たちの代で76期生だから、戦後すぐに創立されたくらいだろうか。地域で唯一の高校なので、みんな同じところに通うことになった。この辺りは駅前が少し栄えているくらいで、それ以外はなんにもない。郊外と田舎のちょうど境目、と言ったところだろうか。
程なくして、目的地に到着する。郊外によくあるショッピングモールだ。大抵、買い物をするとなったらここ以外の選択肢はない。おまけに映画館も併設されている。
入り口のドアを通り過ぎるや否や、「見て見て!」とはしゃぐ綾寧。その指は、『北海道フェア』と書かれた垂れ幕を指していた。
「夕張メロンパンに限定ソフトクリーム…!!ちょっと買ってくる!」
そう言い残して、あっという間に視界から居なくなってしまった。
「はや…」
「変わんねーな、昔から」
「もう慣れた感じはあるけどな。」
買い出しに来ているこの三人、それに翔と境果は、もう小学生の頃からの付き合いになる。
実をいうと、僕は生まれた時からこの町にいるわけではない。小三になるタイミングでこっちに引っ越してきた。
仲良くなったきっかけはもうよく覚えてないけど、それ以来ずっとつるんでいる。
「しばらく帰って来なさそうだし、どうする?先に買い出し行っとくか」
「そうだね。でも、具体的に何がいるかな。」
「そうだなー…。ビーチバレーのボールとか、それとあと…。あれ、意外とない?」
「言われてみれば、あんまり無いな…。」
考えてみると、最低限必要な生活用品は向こうに揃っている。来る意味あったのか、今日…。
「とりあえず、適当に回ろうぜ!あ、服とか見に行かねえか?」
以外かもしれないが、恭介の私服はかなりオシャレだ。プラス運動ができて、身長も高い。それもあって中学の時も何度か告白されていたな。全部断っていたけど。
近くのブティックに入って、適当に服を見ていく。いろいろ説明されるが、いまいちしっくり来ない。僕がこういうのに無頓着すぎるのかな。
10分くらいすると、綾寧から電話がかかってきた。
「あ、もしもし?今どこいる-?」
「恭介と服見てたとこ。用事は済んだ?」
「いや~、余は満足じゃ!あたし、将来北海道に住むことにした!」
なんて軽い決断なんだ。
「はいはい。じゃあ、さっきの入り口のとこに行くから」
「おっけー、待ってまーす」
通話を切って、電話の内容をそのまま伝える。
「さっきのとこに集合らしいから、そろそろ行こうか。」
「え?ああ、分かった」
何やら携帯を気にしている様子だ。メールでも来てたのかな。
少し歩いて戻ると、恍惚な表情をした綾寧が待っていた。
「よっ。満足したか?」
「もう最高に満足!今月一幸せかも!」
「じゃあ本題の買い出しだけど…。」
この言葉の5分後、買い出しは全部終わった。結局、100円ショップでビーチバレー用のボールを買っただけだ。
「なんか、あっけなかったね…。」
「まあ、割と揃ってるからね。向こうは。」
「なんか時間持て余しちまったな。どうする?もう帰るか?」
モール内の時計台を見てみると、午後4時30分。今から家に帰ったとしても、夕飯もまだできてないし、中途半端な時間だ。
「あ、久しぶりにみはらし行かない?」
"みはらし"とは、小高い丘の上にある小さな公園のことだ。昔はよくここに集合して遊んでいた。
「おお、懐かしいな!今だと夕焼けも綺麗なんじゃないか?」
「よし!行こーう!」