第23話
(ん…。もう朝か。)
窓から差し込む光に、目を覚ます。周りを見ると、まだ2人とも眠っている。
(恭介…。何があったらこんな寝相になるんだ…?)
それはともかくとして、時計を確認すると、まだ朝の7時だった。
いつもなら2度寝するところだけど今日は何故か起きる気になった。
しばらくぼーっとしていると、恭介がモゾモゾと動き始めた。
「おはよう。」
「おー……、って晴太?やっべ、寝坊したか!?」
僕の顔を見るや否や、慌てて布団から飛び出した。
「おい翔、起きろって!!」
壁の方を向いてぐっすり寝ている翔の身体を、かなり激しめに揺さぶる恭介。もちろんこれで目を覚まさないはずもなく…。
「んぐッ!どうしたんだ恭介!朝から俺の事を求めすぎだぞ!
「勘違いされるような言い方するんじゃねえって!このご時世、そういうのに厳しいんだから気をつけてくれよ!」
2人とも、まだ起きてから数分も経っていないというのに、この賑やかさ。たとえ無人島に迷い込んだとしても退屈しなさそうだ。
「結局、全員目が覚めちゃったね。まだ7時だけど、どうしようか…」
「なんだ、まだそんな時間なのか。綾寧と鏡花はまだ寝てそうだよな…。あ、いい事思いついた!俺たち3人で、朝メシ作ってみねえか?きっと驚くぜ!」
「それは名案だな…。俺も乗ったぞ!」
僕たち3人とも、ほとんど料理の経験がないということはさておいて。寝起きのテンションのまま、大きな挑戦の幕が開ける…!!
一旦、キッチンにある冷蔵庫の中を物色してみる。が…
「おい、どうすんだこれ」
「いや、僕に聞かれても…。言い出しっぺは、恭介だよね?」
「鏡花が料理上手すぎて、食材がほとんど残ってねえぞ…」
パッと見て使えそうな食材は、食パンと卵、あとは調味料がいくつかあるのみ…。
「この中で、目玉焼きを作れるヤツはいるか?」
……。誰も手をあげない。
「スクランブルエッグを作れるヤツは…」
……。もちろん誰の手もあがらない。むしろ、難易度が上がってないか?
「ここまでなのか…」
冷蔵庫を開けただけなのに、僕たちの挑戦は終わってしまうというのか?……なんて情けないんだろう。
「諦めるにはまだ早いぞ。たしか、物置に釣竿があったよな?」
「あ、そういえばあったね。って、もしかして…」
「料理ができねえなら、せめて食材を獲りに行くぞー!」
そうして流されるがままに、海の方へ出てきた。
「糸の付け方とか、全然分からないけど大丈夫かな…。」
この前釣り体験をやった時は、もうセッティングがされてあったから、一から準備するとなると難しい。
そんなことを考えていると、
「準備なら俺に任せろ!親父の趣味が釣りでよー、たまについて行ってるから、もう慣れたモンだぜ!」
そう言って、あっという間に僕たちの釣り具のセッティングを終わらせた。
「目標は人数分、5匹釣れるまで帰れねえからな!」
「ちょっと待て、エサは付けなくてもいいのか?」
たしかに、エサを付けずに釣れるものなのだろうか。
「いつもだったらもちろん付けるけど…。今はあいにく、そんなのねえからな。気合いでなんとかするぞ!」
そんなこんなで、本当に釣れるのか疑わしいまま、糸を海の中で放り込んだ。
「これってコツとかあるの?」
釣りに詳しい恭介なら、何か釣れやすくなる方法を教えてくれるだろう。
「コツか…。そうだな、強いて言えば、海と語り合うことだ。」
……。ちょっと僕には、理解し得ないレベルの話だった。
仕方がないので、そのままじっとしていると、翔の釣竿が強くしなり始めた。
「…!!これは大物の予感…ッ!」
「焦ったらダメだぞ!そのまま糸を巻き続けろ!」
まさか、本当に釣れるなんて。案外なんとかなるものだな……と思っていたのも束の間、翔が糸を全て引き上げると…。
「これは…。ハズレだな。」
針にかかっていたのは、海藻によく分からないゴミが絡まったものだった。
「そんな、バカな…ッ!」
がくっ、と地面に倒れ込む翔。さっきまで、あんなにも嬉しそうだったのに、あまりに不憫すぎる。
「あっ!」
不意に持っていた釣竿が重くなって、何かに引っ張られるような感じがし始めた。
「今度こそ当たりか!?」
慌てないように、一定の間隔でリールを巻いていく。
針にかかっていたのは、薄く黄色っぽい、小さな魚だった。
「これって食べても大丈夫なやつ?」
「おぉ!キスじゃねえか。もちろん食べれるぞ!」
どうやら当たりだったらしい。こんなにも簡単に釣れるなんて…。ちょっとハマりそうだ。
「これも食べられないのか?」
さっきのゴミを片手に、翔は悲しそうな顔をしている…。
「食える訳ねえだろ!ほら、さっさと次行くぞ。あと4匹だ!」
その後もひたすらやり続けて、30分くらい経った。
「いやー、大漁大漁!見ろよ、7匹も釣れたぞ!」
恭介が5匹で、僕が2匹。そして翔は……結局、1匹も釣れなかった。
「なぜ、俺だけ…ッ!」
ここ最近、運がないというかなんと言うべきか…。
流石にかわいそうになってきた。
「ま、まあ今回は仕方ないよ。また次、頑張ろう」
そろそろ8時くらいだし、残りの2人も起きてくるだろう。
釣り場を片付けて、家の方に戻ってきた。玄関のドアを開けると、ちょうど綾寧と鏡花も階段を降りてきているところだった。
「あれ、みんな早起きだね〜、って何その魚!?もしかして釣ってきたの!?」
「まあ、色々あってだな…。鏡花、魚って捌けたりするか?」
「ええ。普通の魚なら。フィッシュサンドイッチなんでどうかしら?」
「おっ、美味そうなメニューだな!」
恭介から魚の入ったバケツを受け取って、鏡花はキッチンの方へ歩いていった。
料理に関してなら本当に何でも出来るんだな…。
僕たちは釣り具を物置に戻してから、リビングへ向かうと、もう良い香りがしてきた。
「え、もしかして、全部捌き終わったの?」
釣り具の片付けなんて、10分もかかっていない。それなのに、魚たちは油の中で音をたてている。
「ええ。捌くって言っても、内蔵を取っておろすだけだから。そんなに難しいことはしてないわよ?」
「器用だね…。こっちは何?」
「タルタルソースよ。マヨネーズと卵があれば作れるわ。」
話してる途中も、テキパキと動いて料理が進んでいく。
「さあ、完成よ!」
気が付いたら、人数分のサンドイッチが出来上がっていた。どれだけ忙しいレストランでも、即戦力になるレベルだろう…。
「待ってました〜!もう腹ペコだよ〜」
テーブルまで皿を持って行って、みんなに配膳する。
「早速、頂きます」
「う、美味すぎるッ…。やはり揚げたてに限るな!」
「小さいのに、しっかり魚の風味がするんだね。早起きした甲斐があったよ。」
「今日もいっぱいやる事があるからな!1秒も無駄にしねえぞ!」
今日の予定は、朝食が済んだら、まずは陶器作り体験に行く。そしてバーベキューをやって、温泉に行って、最後は肝試し。こっちに来てから一番やる事が多い日になりそうだ。
明日にはもう地元に帰るわけだし、力尽きるまで遊び尽くすぞ…!




