第20話
何としてでも、あの日、ばあちゃんがどうなってしまったのかを解き明かす。
それだけが、今の僕にできる唯一の償いなんだ。そう自分に言い聞かせて、無理やり気持ちを作る。
「具体的に、今の時点でどんなことが分かってるの?」
「そうじゃな…まずは…」
老眼鏡をケースから取り出して、眉間にシワを寄せながらノートを開く。
そのページには、いくつかの写真が貼ってあった。
「これを見てくれ。この写真はあの神社に続く道なんじゃが…」
じいちゃんの言葉に耳を傾けつつ、その写真を凝視する。よく見てみると、足跡が2種類、奥の方へと続いている。
「これは警察にもらった写真なんじゃが…。この一回り小さい方が、婆さんの足跡じゃ。そしてもう一つ、足跡が残されとる。」
「確かに…。これが犯人の足跡かもしれないってこと?」
「ワシはそう思っとる。じゃが…、こんな田舎には、監視カメラなんぞついておらんからな…。警察の奴らも、捜査のしようがないと言っておった。」
それもそうか…。証拠がないことには、どうしようもないよな。足跡だけじゃ、犯人の特定には程遠いだろう。それに、ただの参拝客かもしれないし…。
「そしてもう一つ奇妙なのがな…、どっちの足跡も、神社に行ったっきりなんじゃよ。この道以外に神社から戻って来れる道はないはずなんじゃが…。」
……!
言われてみれば、2つとも、神社から戻って来た時に残るはずの足跡がない。つまり、可能性があるとしたら、神社の近くで何かしらの事件に巻き込まれた、とか…?
「あの神社の中には、誰も居なかったの?神主さんとか…」
「あの日は誰もおらんかったそうじゃ。一応管理しとる人はおるみたいじゃがの、週に1回くらいしか来とらんらしい。」
おそらくアリバイがあったってことだろう。そうなると手がかりはこの足跡だけ、か…。
「もう1つの足跡も、向こうに行ったっきりなんだよね?だとしたら、その人も行方不明になってるんじゃないの…?」
「少なくとも、この辺りの地域では婆さん以外に行方不明になってもうた人はおらんそうじゃ。」
「それなら、山道以外のところから無理やり降りて行ったとか…。」
「それも警察が調べたそうじゃが、あの道以外に人が通った形跡はなかったと言っておった…。」
じいちゃんも、長い時間をかけて色んなパターンを考えて来たんだろう。にも関わらず真相が未だ分からないということからも、この事件の難解さがよく分かった。
「ワシがこの事件を追い続けて、もうずいぶん時間が経った。でもな、近頃はどうも体が言うことを聞かんくなってしもうた。叶うなら、ワシの力で見つけてやりたかったが…。」
ばあちゃんが居なくなって、一番苦労したのはじいちゃんのはずだ。家のことも全部1人でやるようになったし、息子である正徳さんのことも全部1人で…。
そんな状況なのに、現実を受け止めて、自分にできることを積み重ねてきている。僕がじいちゃんの立場だったら、途中できっと折れてしまっていたことだろう。
そう考えると、なんだか居ても立っても居られなくなる。
「なるほど…。ありがとう。とりあえず、今日はこのノートを一通り読んでみるよ。」
じいちゃんの手からノートを受け取ろうとしたけれど、なぜかその手に力を込められた。
「晴太…。さっき言ったことを、もう忘れてもうたのか?真剣になってくれるのはもちろん有り難いことじゃが…、友達との時間も今しかない、大事なものだぞ。」
じいちゃんはささっとノートを箱の中に戻して、僕の手から持ち去って行った。
「そうだった…。ごめん。」
「このノート一式は、おまえが向こうに戻る日に渡すことにしよう。そうでもせんと、そっちのけで読み漁るじゃろうからな!焦る気持ちも分かるが、ゆっくりでええんじゃぞ。」
どうやらすべてお見通しのようだ。
「分かった。じゃあまた明後日、取りに来るよ。」
「さあ、みんなが待っとるぞ。早く戻ってやれ!」
こうして、僕は衝撃の事実に直面することになった。
さらに、この出来事がきっかけになり、全ての歯車は回り始めることになる。
亡くなったはずのばあちゃんの行方を追う。
この果てしない道を進むことが正解だったのかどうかは僕が決めることではない。
しかし、ただ一つ言えるのは。この人生の主人公は、紛れもない、僕だということだ。




