第16話
「うっし。これで半分、ってとこか?」
それからさらに30分ほど。山のように積み上げられていた段ボールも、少しづつ低くなってきた。
正直に言うと、さっきみたいなものがまた出てくるかもしれない、といった不安もあったけど、無事に終えられて良かった。
「ナイスファイト!」
主人公とそのライバルが、共闘して敵を倒した後みたいにして、お互いに手を合わせる恭介と翔。ちょっとかっこいいかもしれない…。
みんなで物置部屋からリビングに降りてきて、昼ご飯を食べに行く時間までゆっくりすることにした。
「そういえば、綾寧。委員のやつってもう決めたか?」
「あ~!すっかり忘れてた!休み明けすぐに提出だよね?」
綾寧と恭介は、同じ体育委員に入っている。あまりにイメージ通り過ぎる人選だよな。
「体育委員って、今なんかやってるの?」
「夏の体育祭に向けて色々やってるんだよ。その一環で、オリジナル競技を1つ考えて来てくれってやつなんだけどよ…」
「いきなり言われても難しいよね~。ルールとか、点数の付け方とかさ~。」
もう本格的に活動を始めているみたいだ。まだ委員会が結成されてから1か月も経ってないのに、大変そうだな。
それにしても、体育祭…か。運動音痴な僕にとっては、あまり良いイメージがないイベントだ。
先生とかは「来週は待ちに待った運動会です!」なんて言うけど、僕はそんなのお待ちじゃない。ほとんど公開処刑みたいなものじゃないか。
ともかく、あまり目立たないような競技に出られることを願っておこう…。
しばらくゴロゴロしたり、雑談したりして、適当に時間を潰した。
「よ~し!そろそろ出発しよっか!」
みんなでバスに乗って、10分ほどで目的の場所に到着する。今日の昼食は、個人経営の小さなレストランにした。スマホで調べてみた感じ、洋食がとても美味しそうだった。
「どれも美味そうだなー!」
オムライスにハンバーグ、ナポリタンなど…。それぞれのメニューを楽しんだ。
その後は釣り体験に行った。地元の近くには魚が釣れるような場所なんてなかったから、とても新鮮な体験だった。
でも、ふとした瞬間に、朝のことが脳裏によぎってしまう。
あのことは忘れてしまおうと思うたびに、かえって心の深いところにまで、あの出来事が入り込んでくる。
レストランで食べてる時も、釣りをしている時も、かなりの頻度でぼーっとしてしまった。
他のみんなには気付かれないようにしないといけないのに…。
あっという間に夜になって、肝試しに行こうとしたのだが…
「あちゃ~、これはダメそうだね~」
外はあいにくの雨模様だった。天気予報では明日まで曇りだったはずだけど、割と本降りの雨だ。
肝試しは延期することになり、家でできることを色々やった。
翔が持ってきたゲームをしたり、卓球をしたりして、結構楽しかった。
気がつくともう9時近くになっていたので、昨日みたいに順番にお風呂に入り始める。
(はぁ…。どうしたものかな…)
ソファーに座って、今日やったことを思い返してみる。
肝試しが無くなってしまったとはいえ、決して薄い1日ではなかったはずなのに、あまり印象に残っていることがなかった。
普段だったら、このみんなで遊んだ後には楽しかった瞬間を思い出せるのに…。間違いなく例の事件に気を取られてしまっている。
このまま考え続けていたら、精神を病んでしまうんじゃないか…とさえ思うくらいに。
「晴太くん、ちょっと良いかしら?」
鏡花がやって来て、僕の隣に座った。
「気のせいだったら申し訳ないのだけど、どこか具合が悪いの?今日、なんだか遠い目をしていることが多かったようだから…。」
やっぱり、気付かれてしまったか…。
鏡花はよく周りのことを見ているし、真っ先に違和感を感じていたんだろう。
ここで正直に話したら、どうなる?
僕だけじゃなくて、みんなの気分も悪くしてしまうかもしれない。
それにこれは、僕1人の問題だ。周りを巻き込んで、旅行が台無しにしてしまうことだってあるかもしれない。
「ああ…。昨日寝付けなくて、寝不足だったからかも。今日は早く寝るようにするから、大丈夫だよ。」
心配してくれているのに、嘘をついてしまったことに胸が痛くなる。
どちらにせよ、今日はさっさと寝てしまおう。
1回寝て頭をリセットすれば、少しはマシになる…、そう思いたい。
「おい、なんだよ今の!」
「ふっ…。まだまだ詰めが甘いな!」
布団に潜り込んでからしばらく経ったけど、全く眠れる気配がない。
2人は体力が有り余っているのか、さっきリビングでやっていた格闘ゲームの続きをしている。こりゃ当分終わらなさそうだな…。
仕方がないので、1人でリビングに降りてきた。
さっきのソファに寝転がって、目を閉じてみる。
おもしろい夢でも見れば、気がまぎれるかもしれない。
(夢といえば…。)
ある女の子と話をして以来、一回も夢を見ていない。
そもそも見る以前に、夢について考えることが、あの日からほとんどなかった。
(あの子になら、相談できるのにな…)
もしかすると、あの夢はもう二度と見れないものだったのかもしれない。一回しか見れないものなら、今日見れたら良かったのに。
そんなことを考えていると、だんだん意識が薄れていく……。
静まり返った一階で、雨の音だけが微かに聞こえてくる。みんなは、もう寝たのかな。
部屋に戻ってから寝ようとは思いつつも、すでに眠気が限界を迎えようとしていたので、体を起こすことができない。
そのまま、僕は深い眠りへと落ちていった…。




