第13話
順番にお風呂に入って、歯磨きをして…。まるで修学旅行の夜みたいだった。
「じゃあまた明日ね~!おやすみ!」
「おやすみなさい。」
男女で別々の部屋の別れて、眠りの体勢につく。かなりハードスケジュールな1日だったこともあって、すぐにでも寝られそうだったのだが…。
「おい、なに寝ようとしてるんだ!?夜は始まったばっかりだろ?」
「旅行の夜といえば、やることは一つ。………恋バナだ。」
恋バナって言われてもな…。恋愛経験なんてないし、好きな人もいるわけじゃない。
「そういう翔は、誰か好きな人とかいるの?」
「俺は……、ももねたん一筋だッ!」
ももねたん…?そんな人、学校にいたっけな…?
「知らないのか?晴太。最近テレビで話題になってる、アイドルらしいぜ」
「本当に良かった…。まだ無名だった頃から、追い続けた甲斐があったんだッ…」
「それって恋バナに入るのかな…。いわゆるガチ恋ってやつか。」
「晴太はどうなんだよ、そこら辺のことは!」
「どうって言われても…。今は特にないかな。」
「なんでなんだよ2人とも!めっちゃ楽しみにしてたのによー!」
「その口ぶりだと、恭介には意中の人がいるんだな。」
「ああそうだよ!でも俺だけ正直に話すのもなんか損した気分だし!もう寝てやるからなー!」
半ば拗ねたみたいにして、布団に潜り込んでしまった。何も悪いことはしてない気がするけど…。
何はともあれ、すぐに寝られそうだ。
「じゃあおやすみ。また明日。」
こうして予想よりも早く、消灯時間を迎えることになった。
暗闇に包まれた部屋の中で、少し昔のことを考えていた。
この田舎にまつわる、僕の一生の後悔について。
あれは、僕がずっと小さかった頃。小学校に入ったばかりの頃だった。長い休みが来るたびに、この田舎に遊びに来ていた。
都会とは全く違う雰囲気の中、田舎ならではの遊びをするのが本当に楽しかった。どんなに時間があっても、やりたいことは尽きなかった。
ある日は海に貝殻を拾いに行ったり…またある日は川に行ってザリガニを釣ったり…、裏山を駆け回って探検したり。
ここに来て過ごす時間は、僕にとって宝物だった。毎日疲れるまで遊びつくして、家に戻ると暖かい家族が待っていて、ばあちゃんの美味しいご飯をたくさん食べることができて。
あの夏も、いつものようにこっちに遊びに来ていた。そして地元に帰る日の前日、僕は居間に寝転がって、家から持ってきていたゲームをしていた。その日は朝から本降りの雨で、外に出て遊ぶことができなかったんだ。
ゲームに一区切りがついたので、僕はトイレに行った。ゲーム機を居間の床に置いたままで。
戻ってくると、ばあちゃんは青ざめた顔で、「ごめんね、ごめんね。」と僕に謝ってきた。その手の中には、壊れたゲーム機が握られていた。
こんなの、どう考えても僕が悪い。大事なものも床に置いたままにしていた、僕が。
でも当時の僕は、ただゲーム機が壊れてしまったということに怒ることしかできなかった。
それだけじゃなく、ばあちゃんに対してひどい言葉もたくさんぶつけてしまった。ばあちゃんなんか嫌いだ!…とか、どっかいっちゃえ!…とか。
そんなことを言われ続けても、ばあちゃんはただ、悲しそうな顔で謝るだけだった。
なんで、あんなことを言ってしまったんだろう。なんで、許してあげられなかったんだろう。
あの日が、僕とばあちゃんが会える、最後の日だったのに。
結局僕はそのあとも拗ねたままで、一言も言葉を交わすことなく、地元に帰った。
それから数日も経つと、両親に新しいゲーム機を買いなおしてもらって、十分に気持ちが元に戻っていた。同時に、ばあちゃんと仲直りしたい、とも思っていた。
幼いなりに自分の悪かったところを反省し、次に会った時にはまず謝ろうと決めていた。
でも、もう遅かったんだ。
その日、家の電話が鳴った。
テレビを観ている途中だった僕は、母さんが電話に出るのを見届けると、さほど気にすることもなかった。
でも、明らかにいつもの電話じゃなかった。母さんは今にも泣きそうな声になりながら、誰かと話していた。
やがて電話を終えると、慌てた様子で身支度を整え始めた。
それを見ていた僕は、どこか行くの?と聞いた。
母さんはこう答えた。「ごめんね、おばあちゃんの家に忘れ物をして来ちゃったの。それでね、大事なものだから、すぐに取りに行かないといけないの。だからちょっとの間、美愛とお留守番、できる?」
僕はうん、と答えるしかなかった。なんとなく、あまり深掘りしてはいけないような気がして。
それから3日くらいして、母さんは家に戻ってきた。その間、普段は仕事で忙しいはずの父さんが、僕たちの面倒を見ていた。
そして母さんは、「大切なお話があるの」と言って、僕と美愛に話し始めた。
「おばあちゃんはね…、天国に、行ったの。お空の上にある、ずっとずっと、遠いところ。だからね、もう会えなくなっちゃった…の…。」
言葉を詰まらせながら、目に溢れる涙をこらえながら。そんな母さんの話を、僕たちは真剣に聞いた。
「でも…、晴太と美愛が良い子にしていたら…。いつも、どんな時でも、おばあちゃんは助けてくれるから。だから……だから…!」
見かねた父さんが、その背中をさすっていた。
子供みたいに泣きじゃくる母さんを見て、僕も泣き出してしまった。
天国に行く、ということが何を意味するのか、僕はもう知っていたから。もうばあちゃんとは仲直りをすることができないと、分かってしまったから。
「あ…。」
気が付くと、頬には一筋の涙が流れていた。
この後悔は、ずっと消えることはない。これまでも、これからも。背負って生きていくしかないんだ。




