常連客
スー「いやぁ、にしま。助かったよ。あの人いつも口約束だけだったからこっちも困ってたんだよ。たまにタダ働きさせてたんだけど、」
従業員休憩室の椅子に座り、スーさんと先程の話をしていました。
にしま「スーさん、ああいうことってよくあるんかな??雀荘そんな頻繁に来る所じゃないから、俺はよく分からないけど」
スー「あるある。こういう仕事しているとね、『あるある』だよ。うちは客との距離が近くて素性が分かってるからまだ良い方だと思うよ。・・・ただ都会や市街地に出たらどうだろうね・・・結局一緒にやってた卓の連中がツケを払って、上手くやり過ごしてるんじゃないかな?」
スーさんは煙草を吹かしながら言いました。
にしま「大変だな。あんなのがゴロゴロ来られたらたまったもんじゃないね」
スー「フリー打ちの初見がいる時は特に気をつけないとな。みなみは直ぐには来ないし」
にしま「あーハイリから聞いたけど、みなみが間取り持ってくれるんだってね?」
スー「こっちの仕事が無けりゃ来ない。あいつは市街地の方に出たからな。その前は俺んちの近所の八百屋で勤めたんだけど、経営難で八百屋が潰れちゃってね。失業状態になっちゃって、それでそっちに就職したんだってよ・・・・なんとか興業とかいう会社?・・・・・名前ど忘れしちゃったな・・・・名刺どこ行ったかな・・・・・・」
にしま「ふーん・・・・八百屋か・・あんまり似合わないな・・・。」
スー「そうだなぁ、頑張ってたみたいだけど今みたいにスーツ着て働いてる方が彼には似合ってるよ」
スーさんはどうやらみなみをここで雇いたかったそうですが、そうもいかなくなった様子でした。きっと就労条件が向こうの職場の方が良かったに違いありません。
スー「にしま」
スーさんは私の名前を呼ぶと、ポケットに10000円を入れました。
スー「さっきのゴバラの書類代だ。持ってってくれ。・・・というかこれから飲みにでも行ってこい」
にしま「え?・・・・いいの?こんなに?!・・・別に何もしてないぜ俺は・・・・・」
スー「いいって、持ってけ。こんだけありゃ、一階のスナックなら福利厚生でずっと閉店まで居れるからな。お釣りがたくさん戻ってくるくらいの額だろう。カラオケも歌っていいし、そこで飲んでくれたらまた俺にその渡した金が返ってくるから、別ににしまにいくら渡そうが、関係ない話だ。もう一枚多く渡してもいいくらいだ」
にしま「はぁ・・・なるほどなぁ・・・・・まぁ、ありがとう一階で飲む事にするよ」
ふと後ろを振り向くと、着替えたハイリが立っていました。
茶色のアジアン風のワンピースに黒いタイツ、茶色のパンプスを履いていました。
ハイリ「バイト終わった。行こうよ、にしま♪」
にしま「スーさん」
スー「ん?」
にしま「ハイリと一階に居るから、もしまた何かあったら呼んで」
スー「はは・・・まぁ楽しめや、久しぶりの地元だろ?ゆっくり羽伸ばして、休んだらどうだい?」
軽く肩を叩かれて、私とハイリは外に出ました。
ハイリ「ねぇにしま、あの書かせた書類って有効なの?」
にしま「多分、無効だろ(笑)でも、無いより絶対マシ(笑)拇印があるから、どっか鑑定出せばゴバラの指紋って直ぐにわかるだろ」
ハイリ「そうだ、飲み行く前にさ、ゴバラの時計いくらで質屋の店頭に出てるか見に行かない??」
にしま「え?そんな直ぐ店頭に並ぶか?時計だぞ?クリーニング位してから出すだろ」
ハイリ「デート、デートで♪」
にしま「デートで質屋って・・・(笑)なんか癖があるカップルだと思わないか?金に困って売られたような商品ばっかりだぞあそこは」
ハイリ「行こう行こう♪」
にしま「一階で飲むって言っちゃったよ・・・スーさんに」
ハイリ「その後いけばいいじゃん♪」
ハイリは私の腕に自分の腕を組ませて来ました。
にしま「おいおい・・・デートとか久しぶりなんだからこっちは(笑)いきなりレベルが高いのはやめてくれ(笑)」
ハイリ「にしまって童貞なの??(笑)フツーでしょこんなの♪」
ハイリと私はルンルンでエレベーターに乗りました。
質屋はこのビルがある通りから一本入った道筋にあります。貴金属に全く興味が無かった私は、母親の要らなくなった貴金属を持って行った事が何回かありました。
母親からは良いブランドものだと聞いていましたが、渡されたもの全てが偽物でした。母親もそして譲り受けた私も、完全に粗悪品を掴まされていたようです。そういうお決まりの流れを誰かに作られていたようです。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
「質屋 ハネフ」
ここはこの繁華街での飲み代が無く、お金に困った人間がよく立ち寄るお店です。そうでないと用が無いお店です。
ガチャ!
にしま「こんばんわー!!」
奥から色眼鏡をかけ、柄物のシャツを着たおじさんが出てきました。
ハネフ「今日はよく客が来ると思ったら、にしまじゃねぇか!!戻ったの?」
おじさんは私の事を覚えていてくれていました。
にしま「久しぶり!今日戻ったんだ!」
ハイリ「本当に知り合いだったんだね!」
ハネフ「子どもの頃からうちに遊びに来てるもんなぁ。みなみ達と。ひがしぐちがダイヤだって言ってうちに持って来て、調べたら窓ガラスだったのは本当に傑作だったな(笑)」
にしま「あったあった、そんなことも(笑)」
美味そうに煙草を吹かしながら、嬉しそうに昔話を話していました。
質屋の店頭には様々なブランド品や、時計が並んでいました。スナックやキャバクラ嬢がよく気に入らなかった貢物を持って来て、ここでさっさと売っていくそうです。
ハイリ「へぇー・・・・身にもつけないんだぁ・・・せっかくお客さんから貰った物なのに・・・・」
ハネフ「まぁ、そんなもんだよ。薄情だよな。せめて身につけてやればいいのによ。開けもせずに箱のまま持ってくる奴も居るんだぜ(笑)あれには笑っちゃうよ」
にしま「さっきさ、腕時計を売りに来た兄ちゃん居たでしょ?」
ハネフ「あぁ・・・・来た来た!・・・あれはなに?ロータックスの腕時計持ってきたけど、まさか盗品とかじゃないよね?」
にしま「麻雀で負けた人間が渡した時計なんだけど、商品になりそうなの?」
ハネフ「あれ相当古いからなぁ、保証書も無いし傷だらけで正直買い取ろうか迷ったけど、とりあえずプレミアやコレクターを信じて、一万円で買い取ったよ」
にしま「あれってそんなにするんだな。100円くらいかと勝手に思ってたけど」
ハイリ「100円だったらまた喧嘩になるじゃん(笑)」
ハネフ「いや一応本物なんだけど、なんせ滅茶苦茶状態が悪い。お湯にも浸かってんじゃないかな・・・・・・もしかしてあれを買い戻しに来た??」
にしま「ハイリ、あの兄ちゃんの勝ち分いくら足りなかったの?」
ハイリ「持ってた財布の中を全部出させて最終的に8000円足りないとかって言ってたよ」
にしま「ほんじゃあ少し色が付いたな。それなら文句言わねぇか。まぁここに持ってくる手間賃だと思えばそれでいいか」
ハネフ「要はその、負けたおっさんがいつか買い戻しに来るわけ?」
ハイリ「その時、他の人が買ってなかったらね」
にしま「店頭いくらで売るの?」
ハネフ「これは軽くクリーニングして、そのままオークションかなぁ・・・。店頭なら補正してクリーニングしてピカピカにして俺の店の保証つけて10万位で出そうかなぁ・・・でも売れるかなぁ・・・不安っちゃ不安・・・・」
店頭で並べるには整備したりで結構手間がかかりそうです。
この店にさっきの兄ちゃんが持ってきた、ただそれだけ確認して私は帰ろうとしました。
ハイリ「いいこと思いついた♪ゴバラさん25日給料日だからその日に私が本人の所へ持って行ってあげるよ♪」
にしま「あー、一旦ハイリが買うってことか?」
ハネフ「あーにしまの友達ならこのまんま横流しで20000円でいいよ」
にしま「仕入れの倍になってる(笑)・・・・・」
ハネフ「馬鹿野郎にしま(笑)普通の人なら横流しでも50000は取るぞ。俺は良心的な男さ。これが必要なんだろ?」
ハイリ「それで私がゴバラに10万円で売る♪はいじゃあ、二万円♪」
財布から直ぐにお金を出します。
にしま「なんてズルい女・・・・・・」
ハイリ「給料日当日ならお金持ってるでしょう、形見とかなんとかって言ってたし、出し渋りはしないと思うよ私は。勝ち確でしょう」
にしま「どうかな?・・・・他に支払いが無ければね・・・」
ハイリ・・・・・・結構悪い奴・・・・・。
つまるところ・・・・贔屓目に見ても地元に居る人間はロクな人間が居ませんでした・・・・。
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