第二の故郷
にしま「兄貴・・・・久しぶり・・・・」
地元に帰る前に実兄に電話をする事にしました。
兄「おう・・・なんだよ、珍しいな」
にしま「今仕事中?」
兄「いや、休憩時間だ。どうした?・・・・金か?金が要るのか?」
にしま「いや・・・それが柔道を辞める事にしたよ。」
兄「・・・そっか・・・・。怪我がどうのこうのって少し前に親父から話は聞いてたけど。詳しくは知らんが」
にしま「だから一度、地元に戻ろうと思ってる。」
兄「そうなのか・・・。・・・でも本当にそれでいいのか?辞めて戻ってもやる事がないだろ」
にしま「無い。何も無い。探してみて本当に何も無かったら兄貴のカバン持ちをさせて欲しい。」
兄「そんな仕事は仕事ではない。・・・まぁ、久々に羽でも伸ばしとけや。ここまでずっと頑張って来たんだから誰も文句言わねぇよ。というか地元の連中はお前に興味がない。こんな楽な話はないわ」
にしま「確かに、少し気が楽になったよ。」
兄「あくまで柔道を辞めたお前への興味はな」
にしま「うん、・・・・で今日、戻る予定なんだ」
兄「俺はもう転勤で地元から出てるけど、詳しい事は帰ったらまた食事でもしながら話をしよう。それまでは友達と酒でもやって遊んどけ。成人迎えたんだから悪い事は絶対にすんなよ。地元には悪い人間が五万と居るからな。・・・・ほんじゃ、時間だからもう切るわ」
纏めた荷物を持って部屋から出ました。そのまま廊下を歩き、階段を降りました。
寮のロビーにて・・・・そこには複数の人間が集まっていました。
オオホリ「にしまくん、いいのかよ?にしまくんの歳ならまだ再起でいけると俺は思ってるんだけど。コーチやトレーナーとして残るとかそういう方向は考えてないのか?にしまくんの実力ならそっちの方向も考えた方がいいんじゃないか?」
にしま「はい、この年齢で引退するので少しその方向も考えたのですが、やはり色々と考えた時に、自分の柔道に納得がいきませんでした。付け焼刃でやり方を変えた所で意味が無い事が分かりました。だからもう、柔道家としては限界なのかもしれません。オオホリさんにそう言って頂いて嬉しいです。期待に沿えずに申し訳ありません。」
私は正直に先輩のオオホリさんに言いました。柔道家として変な嘘をつくことは出来ない。単純に自分の心を先輩に伝える事で分かって貰えると信じていました。
後輩「にしまさん・・・・俺達その・・・なんて言ったらいいか・・・。」
にしま「良いんだよ。お前達はしっかり監督やコーチの言う事を聞いて、続けるんだ。信念だけ持ってくれ。続けるという信念だけ。それでいい。」
全員と握手を交わしました。
オオホリ「まぁ、また遊びに来てよ。泊めてあげるから」
いいえ、結構でございます。オオホリさんはゲイなので泊まりはお断りします。せめて行くなら日帰りにさせて頂きます。
にしま「・・・泊まりだと色々と先輩に迷惑かかっちゃうので、顔だけ出させてください。オオホリさんには本当に公私ともにお世話になって、感謝しかありません。ありがとうございます。」
オオホリ「何言ってんだよ。堅苦しい事は抜きだ。また会おうなにしまくん」
先輩方に深々とお辞儀をして、後輩に手を振り、慣れ親しんだ寮を後にしました。
これから・・・・どうする・・・・・。
電車賃は持っていました。後は愛車のスクーターを中古屋さんに売って、少し小遣いにするか・・・。
寮の隣の敷地にある駐輪場に寄りました。
私の50CCの原動付自転車は・・・・・何者かに盗られていました。
にしま「・・・は?!・・・・どこ行った?!・・・俺の地元みたいな事が起こってるじゃねぇか!!」
天を仰ぎました。
盗んだ犯人を見つけようと比較的近くのスーパーまでどりあえず走って行きましたが、もうすぐ自分が乗る電車の時間が近づいていました。
とりあえず交番に盗難届だけを出して、駅に走りました。
くっそぉー---金が全くない奴から更に何かを奪うなんて・・・・・酷い・・・酷い世の中だ・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
閉まる電車の扉をこじ開けて電車に飛び乗るにしま・・・・・。少ない荷物を片手に一番近くに空いていた席に座りました。
にしま「ありがとう・・・俺の第二の故郷・・・・・」
昨日まで暮らしていたのに、電車から見る景色を何故か私は懐かしんで見ていました。
電車が動き出します・・・・。地元のみんなは元気だろうか。もう随分地元に帰ってないからなぁ・・・・。俺の事なんか忘れてるんだろうなぁ・・・・・。そもそもあんなゴロツキだらけの地元に残っている人間が一体何人居るだろうか・・・・・。とりあえず実家に顔を出した後、知ってる奴の家にでも行ってみるか。みんな仕事しているだろうし迷惑かなぁ?・・・・どうかなぁ・・・。
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