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異世界転生十番勝負  作者: ヨロヌ
異世界転生十番勝負:一番目 Bランクパーティー『コスモツリー』 対 無職『シンゲツ』
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転生したら寄生虫だった件


私は()()()である。

名前はまだない。

人間だった前世がある事、一度死に、転生した事は知っている。


こんな簡単な事を理解するのも、今の私には時間を要した。





自我が覚醒した際、名状しがたい情景が広がっていた。

いや、虫の、ましてや寄生虫の私に景色を見る事は叶わない。そういう感覚に陥っていただけだろう。


そして、自我を保てたのは、ほんの僅かな時間。

次の瞬間には本能のまま、衝動的に貪り、貪り続け、食欲の塊と化し、折角の私の自我は渦巻いて溶かされてしまった。

人間とは異なり、虫に理性など皆無なのだ。


ここから私が得た知識を交えて説明していく。


私は『魔喰虫(ましょくちゅう)』と呼ばれる寄生虫に転生した。

見た目は透明な(ヒル)。名称の通り、魔力を捕食する。

濃度のある魔力を求め、魔物や魔力のある猛獣、時には人間へ寄生する。


人間はこの特性を利用し、罪人に対し寄生させて魔力を封じる措置を施すとか。

私――『魔喰虫(ましょくちゅう)』は宿主の魔力を餌にするだけだから、生命の支障を来す害は侵さないので割と容易に使うらしい。

意外と、薬で簡単に対処できるから脅威対象に見られてなかった。


私は最初、何かの動物に寄生し魔力を貪っていたようだ。

だが、唐突に食欲の嵐が静まる時が来る。



――駄目だ! その子を苦しめないで!!



私は私自身に直接伝わった意思で静止したのでなく、その意思が私を無理矢理鎮めたので大人しくなっただけだった。

自我が戻ってはおらず、意思に押さえつけられ、ぼーっと動かずにいる。



――こっちにおいで



何も考えなくとも、私の体が勝手に移動した。

私の体は何かに収まったような気がする。多分ケースのような入れ物に誘導されたのだと思う。

ただ、そこに居続けると、ぼんやりと自我が浮上した。

ようやく、本能から解放されたのに、本能に自我を溶かされたせいで、私は何一つ覚えていなかった。


私を操ったのは『動物使い』のアレンという少年。

彼は、森で偶然遭遇した魔犬フェンリルが『魔喰虫(わたし)』に寄生されているのに気づき、彼女――フェンリルの性別は雌だったそうな――を助け、私を捕らえた。

そういう話を、しばらくした後、ギルドの冒険者の噂話で聞く事になる。





それから、しばらく静かな時間を過ごした。


時折、私が閉じ込められているケースに魔石が置かれて、私はそれで食事をとった。

食事をする間も、以前のような本能的な衝動はなくなった。

きっと、アレンのスキルによる影響だろう。

私以外の生物も同様に本能的ではなくなり、大人しくなるという。


大人しくなった私は、最初の頃、自我を持て余してしていた。

動いても、どこにもいけない。

何も見えない。何も聞こえない。臭いもない。感覚も。つまり五感全てが無いのだから。

億劫な時間を過ごすばかりだった。


しかし、私は魔力を、魔素を感知する事ができた。

食事の際に、魔素の感覚を掴むと、周囲の魔素がどのようにあるか理解できるようになった。

魔素の色が見えるようになった。

火は赤く、水は青、風は黄緑、土は橙、闇は紫、光は白。

魔素の知識はなかったが、魔素は全部で六色あるものなのだと理解する。


……思えば、何故『色彩』という概念を認識していたのか、不自然だったが私は深く考えなかった。

何も出来ないので、ただただ魔素の動きを観察し、観察し続ける事ばかりする。

他に何も感じられないので、それしか娯楽がなかったからだ。





――ソイツに寄生しろ!


それは本当に前触れがなかった。

この時まで、私は穏やかな時を過ごしていたのに、私を捕らえたアレンも粗末な事はしなかったというのに。

私は『動物使い』のスキルに抗えない。

アレンに従う他なかったが、以前の意思とは違う、感情的でどこか脅迫めいた命令に私も何か思うところがあった。


だが、最早成す術なく、私はその対象に寄生する。

相手が激しく抵抗する感覚がある。

魔素の感知で、相手は火の魔力を持っている事とその対象が人間である事も分かった。


人間?


どうして人間に?


私を動物から離した筈なのに、人間に寄生させるのか?


寄生した際、対象の人間の五感を共有できた。

そのせいで人間の苦痛までも味わったが、誰かの声や、初めて形ある景色を見る事が叶う。


「……シンゲツさん。……罪を償って、生き続けて下さい」


最初に聞いた声は恐らくアレンのものだろう。

最初に見た景色は――誰かの遺体だ。女性と少年の遺体が袋に詰められて燃やされた。

私は叫んでいた。

正しくは、私の宿主が叫んでいた。

精神的な衝撃は銅器で後頭部を殴打されたよう。


それで私は、前世の事を思い出した。

私にも妻と息子がいた。そして、二人共死んだ。交通事故だった。

奇しくも私の宿主――シンゲツと境遇が重なっていた。


衝撃の余韻が続く中、私は前世の妻と息子が人間だったから、自分も多分人間で、何かあって死んでしまったのか。と、ぼんやり思い続ける。

交通事故……とは何だろう?

誰かに殺されたのだろうか……犯人はどうなったのか……

自分が人間だと思い出したけれど、自分の名前は思い出せなかった。


すると、思わぬ事が起こる。

私の宿主――シンゲツの意識が深淵に落ちてしまった。

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