あ、ありのまま起こった事を話す前に、し、死んでる
凡そ一年前、突如としてB共和国に点在する冒険者ギルドの一つに『コスモツリー』と呼ばれるパーティーが結成された。
最初は剣士の男性がソロで始めていた。
ただ、彼は元々幼馴染同士でパーティーを結成しており、実績を積んでいたのだが。
急に方向性の違いと言い、そのパーティーから抜け、新たなパーティーを結成したという異質な経歴だった。
周囲の冒険者たちも不思議な動向に、一先ず関わらないように男性から距離を置く事にする。
すると、どういう事だろう?
一人、また一人と剣士の男性の元に――『コスモツリー』に実力者が集い。
あっという間に10人が集結。
その後は見事な連携と実績により、パーティーの実力としてBランクに到達したのだった。
何を隠そう、彼らこそ神に選ばれし転生者の集い。
『コスモツリー』というパーティー名は、転生者に分かる一種の暗号なのだ。
彼らが前世で住んでいた国に『コスモツリー』と呼ばれる世界で何番目かに高い電波塔があった。
故に『コスモツリー』が何たるかを理解している者は、自然と、噂を聞いて、集まる。
パーティー結成を始めた剣士の男性は、不安があった。
転生という、未知なる事象に、異世界に突然放り込まれて、何かを為さなければならないという。
だからこそ他の転生者と接触しようと始めた。
剣士の男性と同じく、転生に不安を感じる者や今後の為、他の転生者を利用する為、自分自身の為など様々な思惑を抱えた者たちによる、表面上は友好的だが腹の探り合いをするパーティーが誕生した。
自然と『コスモツリー』に集ったのは、クラスのカースト上位とその周辺の生徒たち。
会話も気さくなものだった。
「他の奴らは寄ってこねぇなぁ」
「そういやさ。『ハゲ山』も転生してんのかな? 俺達だけじゃないもんな??」
「あ~! 『ハゲ山』!! あいつ、転生してもハゲだったらウケるわ!」
彼らが『ハゲ山』と罵倒するクラスの担任教師は、結局、『コスモツリー』の前に現れず。
他のカースト下位の生徒たちも、とくに女子生徒は誰一人寄って来なく、男だらけでむさ苦しいと最近は女遊びをする事もあった。
彼らは、今日まで神の忠告を疎かにしていたのである。
☆
今日、冒険者の任務であるB共和国とC公国周辺の巡回を行っていた『コスモツリー』に神のお告げが降りかかり、一気に冷ややかな空気に満ちた。
最初はしどろもどろで「どうする?」「人殺すってマジ?」「クエストでもやった事ないって」とグチグチうじうじな態度を続けていた彼ら。
緊張感のあまりか「こうなったらやってやろうぜ」の精神になり。
探偵の転生者の導きで、ターゲットとなる『シンゲツ』の元へ向かう。
任務である巡回など、最早彼らの思考には一切残っていなかった。
そんな『コスモツリー』を遠くから赤髪の少女が追跡した。
すっかり日が沈み始める。
この異世界において太陽は存在しない。
太陽の代わりに『光星』と呼ばれる光・火・風の魔素の根源である天体が世界を照らす時間を昼。
月の代わりに『闇星』と呼ばれる闇・水・土の魔素の根源である天体が世界を照らす時間を夜と呼ぶ。
闇星が上空に姿を見せ、冷たい光で世界を照らし始めた頃。
『コスモツリー』と一定の距離を保っていた赤髪の少女は、彼らが前進を止め、陣形を整え出したのを魂の動きで察知する。
ここはC公国付近にある渓谷。
人里から完全に離れた位置であり、強いて言えばもう少し奥の方に進めばCランクのダンジョンがある絶妙に需要がない場所。
赤髪の少女は岩陰に隠れて、魂の感知範囲を広げた。
(あいつらが狙っている人が、どこかにいる筈……いた!)
陣形や準備を始めた『コスモツリー』とは大分離れた位置。
ちょうど、渓谷の川に降りて水を汲むには不便ではない、更に木々で遠目から発見されない場所に立てられた小屋に魂が一つ。
誰かから追われていると感じさせる程、身を隠しているのが伝わった。
だた、少女は違和感を覚える。
(でも……この魂、ちょっと変。転生者じゃないみたいだけど………え? なにこれ??)
「うわあああああああああっ!!!」
少女が我に返ると後方待機していた『コスモツリー』の数人の頭上。
落石が、いや魔力で作られた岩が無数に降り注いでいる。
逃げようとした『コスモツリー』の面々。
反射神経の問題もあっただろうが、それ以上に、彼らの足元は既にぬかるんでおり動けなかった。
土の魔法で防御を行おうとした者もいたが、防御で展開した土が泥のように崩れる。
魔力を付与した遠距離攻撃の武器を放つ者の攻撃も。
何故か、魔力だけ消失してしまい。銃弾と矢だけが岩に刺さり、破壊できずに終わってしまった。
落石で潰れる数人。
陣形を取る為、彼らから離れた前衛がそれに驚き、声を荒げる。
「不味い! こっちに気づかれている!!」
「さっきのは何だ!? 火の魔法か!!?」
「水の魔力を展開させろ! まずは守りを固めて、それから――」
三人の水属性の冒険者たちは、渓谷と言う地形を利用し、川より水の魔素を貰い、魔法を強めようとした。
事前にターゲットが火属性である情報を頼りに、火の魔法が使われていると推測する。
彼らの考えは決して間違いじゃない。
だが……
ビシッ! と張り詰めるような効果音が響き渡る。
彼らが火の魔法を防御する為、周囲に展開していた水の魔素が何故か凍った。
凍って製造された氷柱に突き刺さり、三人は最期の声を上げる間も無く絶命した。
水属性の者が、水属性の攻撃で死ぬという異様な光景。
しかし、魔法使いである赤髪の少女には理解できた。
「どういうこと!? あれ火の魔力で凍らせてるわ! 本当にどうなっているの!!?」
周辺には間違いなく火の魔素が充満していた。
そして、それらが水の魔素に接触し――何故か凍る。訳の分からない現象に、少女も困惑した。