物に魂は宿るのか?
「やはりですか。案の定、アイギスは使い物になりませんでしたね」
カミロの魂を通じて現状を監視していた神は、にべもなく呟く。
アイギスが干渉を受けたのは、シンゲツ――に寄生している『ニノマエ』の落とし子として狂気であり神気。
元より精神干渉が得意な『ニノマエ』の神だ。
この結果は、想定内も想定内。
どれほど精神干渉に対抗できるかのテストも兼ねて特攻を許していたのだが、想定内な程、落とし子を通じて対抗可能だと観測。
一方で、神は思案した。
「しかし……あちらの魂が復活……ある程度、修復されているのが少々不可解ですね。どうやら『落とし子』として覚醒はしてないようですが」
神はアイギスたちの戦況を無視し、他の視点で策を広げるのだった。
★
「い……いでぇ! か、体がぁ……!!」
「一体……どうなってんだ……うぐっ」
村中に立ち込めていた光の魔素が晴れると、人々の一部が意識を取り戻し始める。
だが、全身の筋肉痛で自由が効かず。
立ち上がる事すら叶わない。
アイギスの術が解けても、意識が朦朧としたままの者も多い。
唯一、無事なシンゲツは周囲を警戒した。
「さっきの野郎。退いたのか? 精神干渉が得意ってなら、タイマンでやり合うスキルはねぇだろうからな」
すると、身動き出来ない人々を押しつぶす形で着地をした巨漢が登場する。
「ゴ、ガガ、ガガガガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
肉体の限界まで膨張させたであろう筋肉。
脳のリミッターを外したせいで、自我を失っている人間だったもの。
アイギスが常に傍らに置き、自らの魔素を蓄積させ続けた傀儡『カミロ』である。
場当たり的に干渉した村の住人たちとは異なり、月日かけて魔素を蓄積させたカミロは他とは違い、精神妨害を受けても、他より精密に操作し続けられる。
カミロは巨漢に合わないスピードでシンゲツに接近し、殴る。
それだけで、常人的な威力でシンゲツを圧倒し吹き飛ばす。
「がはっ!?」
一瞬にしてシンゲツの肉体が潰される。
幸い、全身の骨が破壊されて、内臓全てが潰れず、肉体の形が留まったのは巨漢のカミロの限界値にお陰だ。
全力の片腕の拳だけで、カミロの腕は一度吹き飛んでしまう。
『フッ。でも十分よ。カミロ。次でアイツは駄目になるわ』
アイギスは再びカミロの腕を再生。
吹き飛ばしたシンゲツにもう一撃与えるように操作する。
カミロが自らの肉体を弾丸の如く突進。そのまま、民家に叩きつけられていたシンゲツを追撃。
……なのに。
あと一歩というところで、カミロの一撃は駄目になった。
先程、アイギスが操作していた光の魔素をかき集められ、まるでゴムクッションのようなバリアを展開される。
柔軟性ある光の防御を利用し、逆にカミロの巨漢を弾き飛ばしたのだった。
『は……!? どういうこと!? カミロ!』
アイギスは他にシンゲツの協力者がいるのだと気づく。
だけど、それが彼に寄生している虫の仕業とは、夢にも思うまい。
対して件の寄生虫――『ニノマエ』は、シンゲツが再び気絶した事で意識を取り戻したところだった。
ギリギリであり、最悪な事に、カミロの一撃でシンゲツの肉体が動けない状況。
人形使い『フランチェリナ』の時のように、再び精神攻撃を行おうにもアレはニノマエ自身が自在に行っておらず、先程アイギスに対し発動した際もシンゲツを通して無意識に神気が溢れた程度。
今、行えるのは魔素操作のみだ。
(――魂。恐らく、あるだろう。元凶である者の魂が)
状況は『フランチェリナ』と酷似しているが、人間を操作している点では、『フランチェリナ』よりも近距離にいる。
ニノマエが即座にアイギスの魂を感知できたのは、人や魔物とは何か違う魂であったからだ。
(これは……)
★
魂について、ニノマエはマーサと別れる前、教会で世話になっていた時に少し話を聞いた。
マーサは魂をどうこうできると知っていたので、どうやるのかと。
彼女は、暗い表情で答えてくれた。
「情けない話だけど、私も完璧にできる訳じゃないの。はぁ……魔法も駄目、魂の操作も駄目……私って何ができるのかしら。……って、ごめんなさい。魂の干渉についてよね。まずは魂を感覚じゃなくて、直に感知して……え。できる? ……そ、そう。じゃあ。魂を感知したら、次は接触。魂に直接触れる。感知ができれば簡単にできそうだけど、意外と難しいのよ。私も集中しないと無理」
そして、実際魂に対して何を行使できるのか。
「最初に言っておくけど、魂そのものを肉体から引きはがすのは無理よ。魂は肉体と表裏一体。どちらかの均衡が崩れるまでは困難。一つ例外があるとすれば、肉体以外の……それこそ人形使いが人形に付与した魂よ。基本的に魂は生命体以外と繋がれない。生命体以外と繋がりがある魂のほとんどは、何等かのスキルで付与されていると言ってもいいわ」
本来であれば、そうしたスキルを無力化するにはスキル無効化などの特殊スキルが必要。
ただし……
「神の権威にスキルは通用しない。私達、冥府神の落とし子の手にかかれば造作もないわ」




