私と貴方は友達じゃないけど
光盾『アイギス』は最高峰の盾とうたわれているが、攻撃を防衛する性能はない。
戦場で味方を回復させたり、バフを付与したり、浄化が必要な土地で聖職者が使用したりなど。
本来の性能は、光の魔力の性能を広範囲に拡張させる装置だった。
なので、やろうと思えば、今のように広範囲の精神干渉を発動可能。
長居はできないと、シンゲツも判断し妨害する人間相手に躊躇なく攻撃をかます。
最初、久々の戦闘感覚に追いつけなかったシンゲツだったが、徐々にペースを掴み。
何だかんだ、幻覚で操作された人間たちをいなした。
『なっ……!? この……! たかが底辺冒険者の癖に!』
「けっ。確かにコイツらを完璧に操ってるようだが、下手糞過ぎんだよ」
そう。
確かに『アイギス』の精神干渉は完璧。
しかし、完璧に操作できても、操作者が未熟ならばそれまで。
ただただ物量で相手を抑え込もうと、掴みかかるだけの単調な動きばかり。
体調が万全ではないシンゲツ相手でも、村の住人全てを操作したアイギスの戦法はお粗末だった。
だとしても、アイギスは更なる手段がある。
仕方なく、潜伏しているアイギスの傍らにいる男性『カミロ』に呼び掛けた。
「カミロ。これから技に集中するから、私を支えてくれる……?」
「う、うん! 頑張って、アイギス!!」
カミロは、かつてアイギスを擬人化させた主のようにアイギスを支える。
アイギスが、このカミロを傀儡にしているのも、幼い子供っぽさが残るカミロをかつての主に重ねているからだった。
しかし、所詮は似て非なる存在。
心の底から、カミロに情を抱いていないアイギス。
だが、それでもアイギスがカミロに加担するのは、カミロを転生させた神の存在があっての事。
死者の魂を自在に転生させられる。
つまるところ冥府神だと聞いて、アイギスはかつての主と再会できるチャンスだと歓喜した。
(主様と再会できるだけじゃない……! アイツらを出し抜いて、主様を独り占めできるわ!! こんなチャンス逃がしはしない!!)
アイギスは能力を集中させ、精神干渉を施していた人間たちをバフで強化。
様々な能力値のバフ山盛りだけに留まらず、超回復や状態異常付与まで、個々の能力を高めた攻撃を放とうとする。
突撃する人間や遠距離攻撃を放つ人間と別れ、一部同士打ちが発生しても躊躇なく攻撃を続ける。
この猛攻を回避する力は、シンゲツにはなかった。
……のだが。
「うっ」
「う、うう………おお……」
一部で動きを止める人間たちが現れた。
シンゲツも眉をひそめて、周囲の魔素の異常を感知している。
(なんだ? 急に光の魔素が乱れてやがる……誰かが妨害してんのか?? はっ、ちょうどいい)
アイギスの魔素を乱しているのは、シンゲツ――本人ではない。
だからこそ、シンゲツは気づかなかったものの。
アイギスの方は、理解していた。
(嘘でしょ!? なんて強力な精神磁場……私の魔素を乱すなんて! ――っ!?)
瞬間。
ほんの僅かにだが、アイギスの精神に悍ましい狂気が干渉してきた。
全身を纏わりつくような怖気に満ちた感覚から解放される為、思わずアイギスは周辺の精神干渉を解除してしまう。
「アイギス!? 顔色が! しっかりして!! 大丈夫!?」
カミロが心配して揺さぶる手を、咄嗟にアイギスは払ってしまう。
「気持ち悪い! 私に触らないで!!」
「あっ……ごめんよ……アイギス」
「ハァッ……ハァッ…………違う、違うわ。大丈夫、カミロ。嫌な事を思い出しただけ……」
今はそれよりも――このままでは、シンゲツを取り逃がすどころか。
倒す事もできない。
アイギスは仕方なく最後の手段を選ぶのだった。




