飛んで火にいる寄生虫
B共和国を出国したニノマエは、淡々とある場所へ向かっていた。
彼がシンゲツを生かす為に選んだのは、辺境の地。
しかしながら、その辺境の地に目指すのも一苦労である。
B共和国周辺は、C公国、D連邦、E王国が連なっている。
元A帝国も内乱が落ち着いてしまえば、四ヶ国に匹敵するものに変わりない。
つまり、ここらを超えた先に行かなければならない。
ニノマエは、まずD連邦へ移動した。
D連邦はこの異世界における最高峰の山脈が領土の半分以上を占める。
製鉄を生業にするドワーフ中心の国家なのだから、当然と言えば当然だろうか。
奴隷や罪人が強制労働で飛ばされる忌地の印象が根強いものの、鉱物の質はいい。
山の原水が清らかで農産物も川魚も美味。
Sランク、Aランクのダンジョンが存在しない。
最高でもBランクのダンジョンが一か所だけ。
山脈に囲まれているので、他国から攻め込められにくい。
ドワーフたちも兵糧に恵まれていれば敵なしの強靭な種族。
そう、実は四ヶ国の中で最も安定している最良国家だったりするのだ。
ただ、安定しすぎて刺激がなく、他より地味と評価されてしまう有り様。
「ふう」
ニノマエは珍しく一息ついた。
問題のD連邦の道なりは中々険しい。
ダンジョンから漏れたモンスターは少ないとは言え、山脈に位置するD連邦の国境が見えてこない。
何より、日も暮れて、肌寒くなってくる。
周囲の木々が少ないせいもあり、余計に肌寒い。
ニノマエが超す予定の山脈も、とんでもない高さだ。
峰のほとんどに雪が積もっている。
エベレスト……は言い過ぎか。キリマンジャロ? モンブランぐらいあるのだろうかとニノマエは思う。
一瞬、何のことか知識に疑問を生じたが。
前世の世界にあった山の名前だろうとニノマエは自己解決した。
軽装のニノマエは、当然このまま登頂するつもりはない。
山脈に適応したモンスターの毛皮を狩ろうと計画していた。
……残念ながら、お目当ての存在が見つからなかったが。
途中、小さな村を発見する。
D連邦に向かう人々にとっての中継地点のようで、小規模な村ではあるが、比較的発展した煉瓦造りの建造物が並ぶ冬国似た雰囲気を醸している。
鉱物や農作物、それと貿易された他国の品々が馬車で行き交う為、食事処や宿など店も充実しているようだ。
ニノマエは、魔石の換金所を発見した。
教会やここに向かうまでに編んでいた魔石をいくつか買い取って貰い。
今日は、大人しく宿で一泊することにする。
村に到着した時には、もう完全に夜となっていたからだ。他の買い出しは翌日にしようとシンゲツの肉体を休ませた。
しかし、ここでニノマエの想定外が起こってしまう。
☆
ニノマエが体を休めていたこの村に住んでいた男性――カミロは、素っ頓狂な声を上げた。
「え!? シッ、シンゲツがここに来た!!?」
対してブロンド髪の女性――アイギスが優しい声色で語りかける。
「落ち着いて、カミロ。まさか、向こうからやって来たのは想定外だったけど……都合がいいわ」
様子を見る限り、『シンゲツ』はカミロを狙って来た訳ではない。
ならば一体何を目的とするのだろうか?
と、疑問が過ったがアイギスは振り払う。
何にせよ。
『シンゲツ』は既にアイギスの術中へ陥っているのだから。
彼女は村全土に自身の能力を行使している。
勝利を確信しているアイギスは、ほくそ笑む。
「『アイギス・オル・イージス』……あらゆる天災から守護する私の能力には成す術ないわ」




