これもう(どうすればいいのか)わかんねぇな
結論から言うと、シンゲツ――もといニノマエは詰んでいた。
成す術がない状況なのである。
悲観的だが、どうしようもないのは変わりないので、ニノマエは付いてきてくれたマーサに事実を淡々と告げる事にした。
二人はしばらく教会に留まり、魔石を編んで、教会に収めた。
その間に交わした内容である。
「マーサ。もう私に関わらないで欲しい」
「なっ、何を言っているのよ!」
「落ち着いて聞いて欲しい。私はここに留まっている間、いくつか試した事がある。そして、それが叶わなかった。状況は想像以上に詰んでいる」
ニノマエが断片的に得られた情報を基に、導いた解決策は幾つかあった。
しかし、そのどれも駄目だった。
確認の為、ニノマエはマーサにも聞いて貰う。
「まず、ある冥府神の命によって転生者たちは私の殺害を余儀なくされている」
「ええ……でも、ひょっとしたらだけど。貴方の根源の神と険悪な関係なのかもしれないわ。そういう縁で妨害する神もいる……ってエレシュキガル様も仰ってるから」
「どちらも変わりない。結局、私自身が狙われている。ならば、私自身が死ねば解決すると自殺を試みたが」
「は!? 馬鹿っ、そんなこと――」
「出来なかった。どうやら『シンゲツ』の魂がなかろうが、『シンゲツ』の肉体を生かし続けるよう、アレンからの命令に従ってしまう」
「……アレンって動物使いのスキルの影響、ね」
「元より、彼らから逃げれば良かったものを。彼らを手にかけてしまったのは、彼らがシンゲツを殺そうとしている事を知ってしまったからだった。このままでは、歯向かう者を全て手にかけるだろう」
「……要するに、アレンにテイムを解除して貰うしかないってことよね」
「それも無理だ。アレンはこの男に――シンゲツに暴力を振るわれ続けた。彼に私を寄生させたのも、彼に対する拒絶そのものを意味している。私がアレンに接触しようものなら、シンゲツがアレンに再度復讐を仕掛けるようにしか見えないだろう。果たして、アレンが私の望みを聞き入れてくれると思うか」
「じ……事情を説明すれば大丈夫よ! 勝手に思いつめないで」
「もし、アレンが私に思い入れがあるなら――シンゲツに寄生させたりしないだろう」
「信頼してとか」
「シンゲツに寄生すれば、どんな境遇に陥るか想像できた筈だ」
「………」
「君も。あまり人と関りたくないのだろう。それは分かっている。だから、君に協力は仰がない。君の根源の神も、他の神とのいざこざに巻き込まれたくないだろう」
「それは……」
「地図を見せてくれ」
マーサは申し訳ない気持ちで地図を渡した。
ニノマエに指摘されたところが、全てクリティカルに当たったから。
彼女の根源の神も、他の冥府神が一柱で暴走しているならともかく、冥府神同士で争っているなら介入するのは野暮だと忌避し、マーサにも忠告を挟んだ程だった。
そして、マーサ自身『魔法使い』という職業の枷で後ろ指差された経験を引きずって、一歩踏み出せない精神状態である。
無表情で地図をしばらく眺めてから、ニノマエが「ありがとう」と返してしまった。
「どこに行くつもり?」とマーサが尋ねたが。
ニノマエは「君から情報が出てはよろしくない」と答えてくれなかった。
教会を後にした二人はB共和国の中心地で、本当に、あっさりと別れてしまった。
何の色もない別れだった。
だからこそ、マーサはもどかしくてニノマエの現状を解決したいと、小骨が引っ掛かったような感覚ばかり抱く。
(動物使い……他の動物使いに頼めば、どうにかなるかもしれないわ……!)
しかし、マーサは知らなかった。
アレンは、テイムしたニノマエやフェンリルから膨大な経験値を稼いでおり。
更に究極最強武器『ムゲン』を手にした事でSランク冒険者となり、彼の右に出る動物使いが存在しない事を。
そして、シンゲツに魔喰虫を寄生させた事を、なんとも思っていない事を。




