壮大に何も起こらない
転生者に試練を与えて数日後。
神が彼らに呼び掛けた。
「数日ぶりですね。少々報告があって貴方たちに呼び掛けております。各々準備に取り掛かっていますね。何よりです。しかしながら手の速い方々は、既にターゲットへ接触しました。そして、今日までに脱落者は11名となりました」
転生者は神が述べた通り、入念に準備をしようとしたり、色々模索中であったからこそ。
時期早々に仕掛けた者がいる事。
それらが脱落――死亡した事を知った。
転生者らの脳裏に11人分の姿が浮かぶ。
どれも、前世で同じクラスにいた生徒の面々。
淡々と神が報告を続ける。
「彼らが脱落しました11名となります。ああ、ハッキリ申し上げるのを忘れていましたので、改めて伝えますと。今回の試練は早い者勝ちです。仮に転生者同士で手を組み、殺害に成功した場合は――転生者同士で殺し合って頂きます」
サラリと最悪な追加事項を述べた所で、神は何てことない声色で「それでは頑張ってください」とだけ告げた。
☆
E王国。
エルフ中心国家の中枢にいる一人の男性エルフ。
彼が転生者の一人なのだが、先程あった神からの通達に焦りを覚えていた。
「タクヤたちが死んだ……あと、あの女子。誰だっけ。いや、今はどうでもいい。それより不味いな。他の奴らがどう動くか……」
僅か数日で11人も。
『コスモツリー』は集団で仕掛けたのだが、外部の情報が伝わりにくいE王国にいる男性エルフの場合、単純に11人を返り討ちしたと思ってしまう。
何より、呑気に準備をしていたら転生者たちに先を越されると焦りが生じる情報でもあった。
「クソッ! あともう少しなんだ……!!」
男性エルフが必死に向き合っているのは、魔法陣。
E王国に封じられている災害指定武器『ユグドラシル』。
逆転するだけの手段は、コレしかないと。
転生してから、ずっと男性エルフは封印魔法陣の解読をし続けていた。
これも、転生した男性エルフ自身が、魔法陣の知識に疎かったのが問題だった。
転生した肉体の知識をオプションとして獲得できるというのに、男性エルフは比較的若いエルフ。
若い世代のエルフが魔法陣の知識を蔑ろにしていた。
幸いにも、短い期間、ある人間がE王国で魔法陣のプロモーションをしたお陰で若い世代も、興味を持ち始めた……そんな国情である。
ただ『ユグドラシル』を獲得できれば、逆転の一手だと男性エルフは藁にも縋る勢いで魔法陣と向き合うのだった。
☆
ある村の一角で、男性が息を飲んだ。
顔色が悪い彼に優しく、一人の女性が声かける。
「どうしたの? カミロ」
「あ……『アイギス』。例のやつの事で……他の転生者、元クラスメイトが11人。死んだってっ……」
アイギスと呼ばれた女性は、白銀の光沢ある簡素な鎧を軍服のような服装をまとい、魅力的な体格に顔立ち、絹のように滑らかな長いブロンド髪を持つ。
まさしく、絶世の美女と称しても過言ではない彼女は、ただの人にあらず。
光盾『アイギス』と呼ばれる最高峰の盾を擬人化した存在。
気弱な青年・カミロこそが転生者なのだが、彼はアイギスに助けを求める。
「タクヤたちが勝てなかった相手に勝つなんて、僕には無理だよ!」
絶対的にタクヤが強いと思っての発言ではない。
それでも、スクールカースト上位に君臨していたタクヤを含めた『コスモツリー』の脱落は、カミロを含めた他転生者にも衝撃を与えた。
アイギスは微笑を浮かべる。
「私がいるのだから安心して、カミロ。神様は私が介入してもいいと仰ったんでしょ? 私がカミロの代わりに戦う。大丈夫よ」
「で、でも! アイギスに、もしもの事があったら……!!」
「もうカミロったら。私を何だと思ってるの?」
安心させる為に宥めている風に感じるアイギスだが、彼女は腹の内でこう毒吐いている。
『私が人間如きにやられる訳ないじゃない』
☆
他にも様々な転生者がいる。
ある者は、戦闘スキルを持たない職業。
彼女はそれでも、上手く能力を駆使してシンゲツの始末を目論んでいた。
ある者は、少々マニアックな職業。
彼は自分が辺境の地にいる為、下手に介入できないと達観していた。
ある者は、殺し合いを求めないもの。
彼女はどうにか他の転生者を犠牲にせず、シンゲツも生かそうと思案していた。
ある者は、漁夫の利を狙うもの。
他転生者によって追い詰められたシンゲツを狙おうと虎視眈々と構えていた。
転生者 残り『22』名。




