その時、不思議な事が起こった!
「地下の避難経路!? 面倒くさいわね……!」
フランチェリナは想定外の事態に、急いでB共和国の地図を広げた。
恐らく、シンゲツ達が使う経路はB共和国が建設した避難経路の可能性が高い。
小屋の位置関係と地図を照らし合わせ、フランチェリナはまずは小型人形を派遣する。
彼女が戦闘用の人形よりも、小型人形に力を注いでいた。
前世では手先の器用さを生かしてミニチュアサイズのDIYに熱中していたのが功を奏し、精密な小型人形を作製し、それによる情報収集を売りに情報屋として箔がついたのである。
裏界隈では、人形使いのフランチェリナの名を知らぬ者はいない。
「アイツらが使っているのは教会の避難経路だわ」
彼女が捕捉した教会の隠し通路。
その教会も王族、貴族が寄付を施して自棄に豪華な内装となっている。
平民からは無駄に金を使っていると邪険にされていたが、実体は非常事態時の避難所として整備を怠らない為であった。
地下に逃げ込んだのは悪手とフランチェリナは嘲笑う。
ここへ毒煙をばら撒けば造作もない。
毒を防がれても、次の手がある。
念の為、対人用の戦闘人形を森から教会方面へ移動させていく――が。
少しフランチェリナにも疲れが生じ始めた。
一度に何十体の人形を操作するには、魂の精神力も相当かかってしまう。
フランチェリナ自身は理解していないが、彼女の職業スキルは魂の精神操作であり、彼女自身の魂を50体の人形に分けて、付与している。
だから、どの人形も彼女の意思通り、自在に操作できるのだ。
故に――シンゲツ達が唐突に動きを止めたのも気づく。
複雑に入り組んだ避難経路に逃げ込んだはいいが、それに迷ってしまう無様を晒しているのか。
と、思ったが……
☆
「ちょっと、どうしたの?」
ある程度、階段を下りた先。
『シンゲツ』とマーサが通路に踏み込むと、それに反応して通路に明かりが灯る。
振動で魔力の明かりが点灯仕組みなのだろう。
そこで『シンゲツ』は立ち止まった。
凍てつく表情のまま、眉間にしわを寄せ、彼はマーサを座らせながら言う。
「少々時間を要する」
「え……なんの?」
『シンゲツ』は説明をしなかった。何方かと言えば、説明ができなかった。
ここに至るまで、どのように敵が情報を収集しているかは謎に満ちている。
『シンゲツ』は幾つか行動を取って、相手の出方を伺っていた。
実の所、『シンゲツ』は人形の存在に気づいていた。
恐らく相手は、周囲を火の魔素で満たせば誤魔化せると思い込んでいたのだろうが、彼は面ではなく点で魔素を感知している。
平面ではなく立体的な構図で感知しているのだ。
『シンゲツ』は大気を通して感知を成功させるだけではなく、地面を通した感知も可能だった。
すると、どうだろう。
無数に地面を走る存在に気づく。
地面を走るのだから、魔物や通行人なども考えられるが、『シンゲツ』の場合は地面を通し、魔素の感知で大凡の形状まで捕捉できた。
相手が人形を操る……人形使いである事が判明。
次は、数。
複数人形を操っているのは一個人か、『コスモツリー』のように複数人か。
人形使い以外にも仲間がいるか。
探るべき情報は無数にある。
そこで『シンゲツ』達が地下へ避難する素振りを取った途端、一斉に人形の動きが止まった。
制止し、何故かすぐには動き出さなかった。
この時点で『シンゲツ』は、相手が単独だろうと想定し始める。
無論、一時待機を取っている可能性も否めないが。
『シンゲツ』達のいる小屋が避難経路用と把握できているなら、人形が地下通路で待機済みだろう。
そうでなくとも、段取りが悪く感じた。
確かに山火事攻めは『シンゲツ』達を追い詰める友好打に思えなくないが、決定打には欠ける。
周囲を包囲すれば、最悪上空へ逃走する。そこから上空へ追撃……にしては
やはり人形の数が少ない。
地上、更には上空にも待機している人形がいたが『コスモツリー』のメンバー数と大差なかった。
しばらく地上や地下の動きを探っても、人形の動きが疎らな所がある。
確証を得てから『シンゲツ』は、前触れなくマーサの髪に触れた。
マーサは突然の行為に、変な声を漏らしてしまう。
『シンゲツ』は構う事なくマーサに頼んだ。
「君は魂が見えるのだろう。コレから魂を探って欲しい」
「へ? ……なに!? この、人形……?!!」
『シンゲツ』がマーサの髪に小型人形をしがみついているのを、既に捕捉している。
だが、直ぐに行動を取るべきかは情報が必須だった。
マーサは『シンゲツ』が掴んだ小型人形に、僅かな魂が灯っているのに気づく。
「任せて、魂の逆探知くらいお手の物よ!!」
マーサの体が独特の淡い青紫の光に包まれ、能力を行使しているのが分かる。
が、瞬間。
淡い光を目視した『シンゲツ』の脳裏に妙なノイズが走った。
その色を……どこかで知っている。
一体どこで?
『シンゲツ』が深淵の奥底を覗き込めば、その深淵から黄金色の瞳がこちらを覗き込んでいた。
奇妙だが、『シンゲツ』は深淵から覗き込んでいる存在を何か理解する。
アレは自分だと。




