異世界に転生して貰います
『自称:副業が軒並みクビになって本業の冒険者もクビになって絶体絶命の俺だが『ホーリー』の威力がクソデカなので問題ありません~いいから俺に経験値を稼がせろ~』略して『クソデカホーリー』と同一の世界観ですが、読まなくても問題なくお楽しみ頂けます。
機会があれば『クソデカホーリー』の方も読んで頂ければ幸いです。(完結済みです)
時は現代。
場所は惑星『地球』。
某高等学校の修学旅行中にて悲惨な事故が発生した。
走行中のバスに不運にも落石が襲い掛かり、乗員である生徒教員、バスガイド、運転手合わせ『35』名が死亡した。
☆
「お目覚めのようですね」
覚醒した時、全員の視界は真っ黒、暗黒に包まれ、一寸の光も差し込まれなかった。
だが、心穏やかにさせる澄んだ中性的な声が響き渡る。
意識を取り戻した時、全員が自分たちは修学旅行中のバス車内にいた事を思い出していた。
そして、体の感覚がない事にも気づく。
「貴方たちは不運な事故によりお亡くなりになられました。本当に、ただの偶然、落石がバスに降りかかり――それにより全員が死に至りました」
当然、驚きと困惑が起きる。
だけど、大声を出したり、悲鳴を上げる事も、暴れる事もできない。
何故なら、そう――彼らは死に絶え、魂だけの状態なのだから。
それでも天井より響き渡る声で、少し落ち着きを取り戻し、話を聞き入れられる不思議な状態だった。
「ですが、貴方たちは幸運です。私は地球とは異なる世界の『神』。異世界に確変を齎そうと、数多の魂を転生させております。そして、貴方たちは転生者として選ばれたのです」
頂上的な神という上位存在。
そして、転生。
自分たちは選ばれた。
予想だにしていない展開に加え、自分たちが選ばれた特別感を抱かされる。
更に、神を名乗る存在は魂の彼らにあるものを見せた。
「こちらが貴方たちが転生する異世界です。ここでは様々な種族がおり、15歳を迎えると『ジョブ』と呼ばれる才能と魔法の属性を授かります。それを活かし、世界を発展させ、魔物に対抗する術を模索し、厄災に抗うのです」
所謂、地球におけるファンタジーの世界である。
夢のような異世界転生が実現できると聞いて、幾つかの魂は心躍った。
しかし――『神』は言う。
「ですが……昨今、転生する者の行動に手を焼いております。私が前世の記憶をそのままに転生させるのは、前世の記憶を活かし、異世界に確変を齎す為。決して死を迎えた貴方たちに希望を与える為ではありません。実際、転生した人間の多くは遊び惚けたり、無為に働き潰れ辺境に引っ込んだり、ただの家庭を築いて余生を迎えるものばかり……今、転生の話を聞かされた貴方たちの何人かは、それを想像しておりましたよね? 誰が思考していたか、私は把握しておりますので」
心当たりある者はギョッとする。
実際、そうだと思っていただけに真っ向な否定をされれば、沈黙する他ない。
何故、神が転生させるのか?
その理由を突き詰めれば、今、『神』が述べた通りなのだろう。
すっかり魂たちから興奮が冷めたのを見届け、神なるものは告げた。
「今回より転生の趣旨を変更することといたしました。まずは一年。私は貴方たちの動向を終始監視し、異世界に確変を齎し得る存在か見極めさせて貰います。無論、一年の間に魔物に襲われるか、あるいは天災に苛まれるか、はたまた他人に恨まれ殺される事もありえます。その程度で死ぬ人材は仕方ありません。そのまま死んで貰います」
冷酷な物言いに沈黙を通り越して、絶望すら覚えた魂たち。
輝かしい異世界転生から鮮やかさが消えた頃、神なるものが宣言する。
「それでは、これより貴方たちを異世界へ転生いたします。よい人生を」
そうして、神は『33』の魂を異世界へ送った。
☆
どうして『33』なのか?
そもそも、何故その魂たちを転生させたのか?
まず、選ばれた『33』の魂は某高等学校の生徒32名と、そのクラスの担任1名。
彼らはワケありだった。
様々な人間模様があるのは割愛させて貰うが、とにかく、今後彼らが争うのには恰好な状況だと神は判断した訳である。
一先ず、一年。彼らには異世界で生き延びて貰い。
一年後に本格的な殺し合いをして貰う。
これが神の計画だった。
すると、残り二つの魂は場違いというか、不用になる。
余った二つの魂は、バスガイドの女性とバス運転手の男性。
学校関係者ではないし、ただ不運にも乗り合わせた二人なのだから、除外した方がいい。
きっと、生徒と担任教師の記憶にすら残っていない。
神は訳あって、バス運転手の魂は異世界へ送った。
捨てたというべきか。
一応、監視はするが、転生の趣旨を説明せずにただ転生させた。
残るバスガイドの魂は――実験の材料にした。