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耳が聞こえない彼女

作者: くりぼん

「あちぃーーー!!!」

そう言って起き上がった。

『秋ー!ご飯出来てるわよー!』

「いますぐ行く!」


親に呼ばれて起きた俺は前原まえばら あき

高校1年のいたって普通の高校生

イケメンでもなくブサイクでもない。

スポーツは少し苦手かな?

まぁ人とは違うとこと言えば…


『奈々ちゃんが外で待ってるよ!早く食べなさい!』

「ふぁーい」


そう。

彼女がいること。


「わりぃ!待った?」

『まっだよ!はやぐいご!』

「了解!」


俺の彼女は話すのが少し苦手だ。

なぜかって言うと耳が聞こえないから。


彼女の名前は北原 奈々(きたはら なな)

初めは友達にもなるとは思えなかった。


『あぎぐん!あじだえいがいぎだい!』

「いいねー!行こうか!」

『ん!』


彼女は口話術というのを使っている。

口話術とは字のごとく、相手の口を見て読み取るもの。

たまにわからない時もある、その時はスマホで文字を打って見せる。

知らない人が見ればよくわからない光景かもしれない。

でもいいんだ。

俺は今幸せで居れるから。



奈々と出会ったのは中3の時。

当時はまだ携帯など限られた人しか持っていない時代。

俺はパソコンでチャットをしていた

そこで仲良くなった女の子がいてメアドをゲットした。


「こんにちは!チャットで知り合った俺だよ!」


そう打って送信するとすぐ返事が


『こんにちは♪あきくんだよね?』

「そだよ!よろしくね!奈々ちゃん!」


お互い本名でチャットをしていたがもちろん本名など知らなかった。

お互い普通のやりとりをしていて数ヶ月たったある日のことだった


「奈々ちゃんはどこに住んでるの?」

『◯◯県だよ!』

「やべ!俺も!」

『え!?何市?』

「◯市!」

『うそ…。超近い!』

「マジで!?会おうよ!」

『でも…私耳悪くて…』

「大丈夫!俺がフォローするから!」

『わかった。ちゃんとフォローするんだよ?』

「もち!」


こんな流れで次の日会うことが決まった。

待ち合わせは奈々が指定してくれた駅にした。

俺はいつもよりもできる限りのオシャレをして柱にもたれかかるようにして立っていた。


「なんで俺張り切ってんだろ」


そう思うと少し照れくさくなった

その時


『あ…あぎくん?わだじ奈々でず!』


白いワンピースに整った顔

サラサラなロングヘアーに可愛いネックレス

俺はその時一瞬にして恋に落ちた。


「は…は…初めまして…!」

『ぎんちょうしすぎだぞ!』


そう言って奈々は首を傾げ微笑んだ。

その時チラッと見えた補聴器を見て俺はふと我に帰る。


「俺の声!わかる?」


一言一言ゆっくりと丁寧に喋る。


『くぢみてるがらわがるよ!はなじがだへんでぞ?』


俺はわかると言う言葉にホッとし


「全然変じゃない!」


と微笑みながら言い返した。

デートは奈々の提案で映画を見に行くことにした。

奈々曰く、耳は完全には聞こえないわけではないらしい。

映画ぐらいの大きさだと微かに聞こえると教えてくれた。

ただ全部聞こえる訳では無いと思って字幕がある映画をチョイスした。



映画が終わり


『あぎぐん!映画すごがっだ!』

「マジでよかったよな!あの戦闘シーンとかハラハラしたわ!」

『わがる!』


なんて話をして歩いていると近くにゲームセンターが見えてきた。


「あの…さ?」

『ん?』

「プリとらね?」

『えっ…わだじと?』


悩みながら顔を赤くする奈々に可愛さを感じていた。


『わだじぎめれない!あぎぐんがぎめで!』

「じゃあとる!」


奈々の手を引っ張り入口から1番近いプリクラに入った。

2人はまだぎこちない笑顔だったが2人とも楽しそうに見えた。


落書きを終えて外に出ると日も傾き始めており、帰りの時間が来てしまった。


「今日はありがとね!」

『いいよ!ごぢらごぞありがど!』


たわいもない会話をしながら駅のホームに入る。

するとちょうど奈々が乗る電車が来た

その時溢れ出た気持ちがあった。


「今日はありがとね!急だけどひとつ言いたい。もしかしたら奈々ちゃんのこと…『ごめん!いぐね!』


駅のチャイムにかき消され奈々には聞こえていなかった。

奈々が電車に乗り込むと扉が閉まる。

笑顔で手を振る奈々に俺は嬉しいような悲しいようなモヤモヤした気持ちで手を振り返し、自分の帰りの電車に乗り込んだ。


あれからすぐに帰宅した俺はメールが来ているのに気づく


『今日はありがとう!うまく喋れてなかったよね?嫌われちゃったかな…?』


俺は何故だか胸が苦しくなった

「そんなことないよ!全然気にすることない!勇気出して会ってくれてありがとう!」


俺は今日の出来事を喜んだ。

ちゃんと会話が出来たんだ。


メールをしている最中に俺は寝てしまった。


夢の中では奈々が笑顔で隣にいる夢を見た。

手を繋いでデートをしていた。


いい雰囲気になりキスをしようと……


『…さい…おきな…おきなさい!』

「は…はいぃ!」


俺は親に起こされ飛び起きた。


「今何時………ん!?!?」


ヤバイ!学校に遅刻寸前だ!

俺は必死に用意をしようと飛び起きた。


『何急いでんの。今日は休みでしょ!』

「へ…?あっ!そうでした!」

『昼間まで寝てるから死んだかと思ったじゃない!飯できてるから食べなさいね!』


今日は振り替え休日。

休みを忘れるなんて俺らしくない。

そんな事を思いながらご飯を食べてふとメールを見る。


『あきくん…会いたい…』


固まった。

俺は急いで用意をして自転車に乗る。

嫌な予感しかしなかった


「何があったんだよ…くそ!」


そう言い頭の中は奈々の事でいっぱいだった。

数分後書いてある住所についた。

大きな立派な一軒家のインターフォンを押した


『あきぐん…ぎてぐれたんだ…』


インターフォン越しに震えている声が聞こえた。

扉を開けるとそこには涙流してる奈々がいた。


「奈々大丈夫か…?どうしたんだ…?」

『わだじ…むりやりおぞわれで…よごれて…「もういいよ。」

『ん…?』

「怖かったよな。すぐ行けなくてごめん。でも連絡くれてありがとな。」

『あぎぐんしか……いえなぐで……ごめんなさい…。』

「気にしないでいいよ。これからは俺が守るからさ。」

『だめだよ…?わだじぎたないじ…あきぐんにめいわぐだよ…』

「少なからず汚くないし俺は迷惑じゃない。奈々のされたことは記憶からも消えないだろう?」

『ん…』

「でも1人でいるよりは俺で良ければそばに方がいいんじゃないかな?」

『なんであぎぐんは…ぞこまでじてぐれるの…?』

「んー。実は奈々の事が好きなんだ。」

『えっ…』


俺はずっと奈々を見つめていた。


『今はおどごのひどこわい…。でも…あぎぐんなら…』


奈々は泣きながらずっと頷いていた。

俺は泣き止むまで静かに抱きしめた。

奈々を守りたい。

その気持ちだけだった。


事件があってから俺はよく奈々の家に行くことが多くなった。

事件直後は外も出れなかったのだが数ヶ月今では随分と落ち着いて生活出来るようにもなった。

奈々には再度しっかり告白をしてOKをもらっていた。

付き合ってからお互い話し合って同じ高校に行くことにした。


今日は久々の奈々とのデート。

土日に外に出る練習として選んだカラオケに行くことにした。


『ごんなかんじどう?』


可愛いワンピースにポニーテールで隣にいる彼女。

すごく可愛くてにやけてしまう。


「可愛いよ!すごく!」

『ありがど!』


そんな会話をしながら外に出る。

奈々は俺の手をギュッと握りくっ付いて歩く。


「怖いのか?大丈夫?」

『ごわいけどあぎぐんいるがら!』


そう言う彼女の手を握り返し歩いているとカラオケが見えてきた。


受付をすませ部屋に入る。

カラオケから流れる音量と音楽をけして無音にする。

カラオケだと防音だし安いしドリンク飲み放題だから話すにはいいとこだと考えたのだ。


『あぎぐんうだわないの?』

「歌わないよ?だって歌うより奈々と話したいし!」

『それだどいえどいっじょだぞ!』

「それでいいのー!奈々が外出る練習なんだから!」

『ぞなんだー…なんがごめんね?』

「いいんだよ?だって奈々の彼氏だしそんぐらい当たり前なの!」

『んー』


奈々は少し恥ずかしそうに微笑み俺の隣にくる。

メニューをみてポテトを頼んだ。


ポテトが来ると奈々は嬉しそうに食べて


『あぎぐん!あーん!』

「あーん!美味しいねー」

『おいじい!』


奈々の幸せそうな顔を見ると俺まで幸せになれる。

この幸せがずっと続くと信じていた。


カラオケに入り数時間がたったころ奈々が甘えて来た。


『あぎぐんすぎー!』

「俺も好きだよ!」

『わだじのほうがすぎ!』

「俺だし!」

『んー!もー!』


そう言うと奈々は俺にキスをしてきた。


「びっくりしすぎて声でんよ!」

『ごれであぎぐんよりすぎっでこどわがっだね?』

「はいはい参りましたー笑」


イチャイチャしてるともう退出の時間となった。

お金を払い外に出る。


「次はどこ行く?」

『服みだい!』

「ほーい」


俺らはデパートに入った。

学生にとっては高い値段だが似合えば俺が買ってあげようかと考えたのだ。


「もういい?」

『まだー』


試着室にの前で待つ。

こんな少しの時間だけど幸せを感じれる。


『いいおー』


試着室のカーテンを開けるとミニスカの似合う奈々がそこにいた。


「可愛い…可愛いよ!!」

『うれじぞう!』

「すごくね!」

『ごれ買う!』

「そうだね!買おうよ!」

『ん!』


奈々がお会計をするタイミングで割って入りお会計を済ませた。


『わ!びっぐり!』

「ごめんごめん!これはい!」

『わだじだずのにー』

「いいのー!誕生日プレゼントやからね!」

『あっ!ありがど!』


実は今日は奈々の誕生日。

奈々の驚く顔が見たくて見たくて。

なんでもしてあげたかった。


服以外にも色々買い物を済ませ、奈々の家に帰ってきた。

俺は不覚にも疲れて寝てしまった。


『あぎぐん…あぎぐん!』

「ん…何時?」

『20時ー!』

「えーー!?」

『あ。あぎぐんぎょうおどまりね。』

「あーーー…はーー!?!?」

『あぎぐんの親に許可もらだよ!』

「マジかー」


と言うことで今日は泊まりになってしまった。


『あぎぐんご飯だよ!』

「え?いいの?」

『あだりまえでじょ!ごれでずぐり!』

「おっ!?いいのか!それじゃ遠慮なく!いただきます!」

『ん!』


奈々は俺の食べっぷりに少し驚くも嬉しそうに俺が食べるのを見ていた。

ご飯を食べ終わりシャワーを浴びた。

奈々がお父さんのパジャマを用意してくれてそれに着替える。


「サッパリしたー!」

『あ!おがえり!かみのげぐぢゃぐちゃだね!』

「あー…そだな。ドライヤーある?」

『ん!ずわっで!』


俺は鏡の前に座らされて奈々が髪を乾かしてくれた。

鏡越しの奈々の姿は可愛くてにやけてしまう。


『わだじもお風呂いぐね!』

「ほーい」


そう言うと部屋を出て行った。

そこで俺はアルバムを見つけパラパラとめくった。

アルバムにはたくさんの人と笑顔でピースをする奈々がいた。

まだ幼く小学1年生ぐらいの写真。

どんどんめくっていくと徐々に笑顔が失われ、1人の写真が目立つようになった。

写真は中学生ぐらいの奈々が写っている写真があった。

耳に補聴器をつけた奈々が。


『ざっばり…あー!』

「ごめんごめん!つい可愛くって見惚れてたー笑」

『…もん…』

「ん?」

『ごんな………もん…』

「こんな…なんだ?」

『ごんなものいらだいもん!』


そう言うと俺が持っていたアルバムを奪い壁に投げつけた。

写真は出なかったもののアルバムがバタンと床に落ちる。

よく見るとあちらこちらに傷がある。


「なんでアルバムは嫌なんだ?」

『わだじ自分ぎらい…』

「そっか…」

『わだじは…自分が…ぎえだらいい思う…』

「これは奈々が大好きだし消えて欲しくないよ?俺がずっとそばにいるからそんな事言わないでくれよ」

『あぎぐんには…わがらない…』


俺は何も言い返せずに静かに抱きしめた。


「無理に言わなくていいよ?ただ俺はずっとそばにいるから。2人で笑えるようにさ。」


聞こえるように伝えて俺はベットに入った。

手招きをすると隣に入ってきて抱きついてきた。

数分すると泣き止みいつもの笑顔の奈々がいた。



この時期だろうか。

奈々が俺に隠し事をし始めた時期は……。



「んー…」


風でカーテンが揺れ、朝日が顔に当たり目が覚める。


「あ。そうだ。昨日泊まったんだ…」


その夜はそのまま寝落ちをした。

少し期待をしてしまっていた俺が少し恥ずかしい。

時計を見ると10時過ぎだった。


「あれっ?奈々がいないな…」


隣で寝ていたはずの奈々がいない…

どこに行ったのかなとベットから起き扉を開けた瞬間。


「『わぁ!』」


お互いに扉を開け目の前にいたことにビビる俺たち。


「どこ行ってたんだよー!」

『あぎぐんのごはんをづぐっでたの!』

「俺の…飯…?」

『ん!ぎょうは親ふだりどもじごどなんだ!だがらわだじがづぐるの!』


そう言うと微笑む奈々を見て可愛くって可愛くって

無性に抱きしめたくなって抱きしめた。


『ん!?びっぐりずるでぞ!』

「ごめんごめん!つい可愛くて抱きしめたくなった」

『もー!あぎぐんのばーが!』


奈々は嬉しそうに照れてキスをしてきた。

それからリビングに移動して、朝食が並ぶ机の椅子に腰掛けた。

机の上には1人で作ったとは思えないほどの料理がずらりと並んでいた。


「これ1人で作ったのか!?」

『わだじじかいないがらがんばっだ!』

「張り切りすぎだぞー」


正直全て食べれるかわからないほどの量だ。

でも俺はお腹が減っていたから全て食べてしまった。


『あぎぐんのごじでいいのに!』

「奈々が作ってくれたんだ!全部食べなきゃ勿体無いだろ!」

『むりはぎんもづだぞ!』

「無理してないからー!」


そういいながら俺は食器を片付け皿を洗う。

隣から『じなぐていいよ!』って聞こえるけどあえての無視。

これぐらいしなきゃ申し訳ないと思った。


部屋に戻り2人でテレビを見ていた。

下に字幕が出る設定らしく少し慣れなかった。


「親は何時に帰って来るんだ?」

『ぎょうはかえっでごないよ?』

「え?じゃあ今日は1人なの?」

『ん!そだよ!まぁなれでるがら!』

「そっかー…。あ!ちょい待ちな!」

『ん?わがっだー』


俺は奈々の頭を撫で一旦部屋を出た。

そして親に電話をかけた。


「もしもし。」

『もしもし。秋?』

「そそ。俺やで」

『昨日奈々ちゃんの家に泊まったんでしょ?奈々ちゃんが頑張って説明してくれたのよ!寝ちゃって起きないんですーって』


奈々は俺を起こしてなんかなかった。

でも泊まらせる為に嘘をついた。

それがわかるとなんだか可愛いなと思った。

その代わり俺も恩返しの嘘を付くことにした。


「疲れて爆睡してたんだ!」

『そなのね。何時ぐらいに帰るの?』

「それが帰れないんだ。奈々が熱だして寝込んでてさ。親もいなくて介護してやりたい。だからもう一泊してっていい?」

『そりゃ大変だわ!バカ息子でも役に立つかもだから介護してあげなさい!』

「なんか余計な言葉あるけどありがと!また明日帰ると思うからその時連絡する」

『わかったわ。』

「それじゃ。」


そう伝え電話を切った。


「ちょいと電話してきた」

『なんで?』

「んー。内緒!」

『おじえでよー!』

「やだー」

『やだじゃないー!』



そういいながらイチャイチャしてるこの時が幸せに感じて仕方が無い。

本当にニヤニヤが止まらない。


夕方の6時になりふと目が覚める。

寝てしまっていたようだった。

隣では俺の服をギュッと握りしめスヤスヤと眠る奈々がいた。

頭を撫でると奈々が起きた。


『おはにょー…』

「滑舌まわってないぞー」

『じらにゃいー…ねぇむゅいー』

「寝てな?俺そろそろ帰るからー」

『6時にゃもんねー…おくるー』

「無理すんなって!寝てていいから」

『にゃーい』


そう言うと再び寝てしまった。

俺は帰るふりをして買い出しに出かけた。


財布の中を確認してまずはコンビニへ。

いつもの見慣れた店員さんが「いらっしゃいませ」と笑顔で挨拶する。

ATMでお金を下ろすと奈々が大好きなジュースを買う。

買い物を済ませコンビニを出る。


次は近くのスーパーへ

食料を買うとすぐに財布の中は小銭でいっぱいになった。


「ただいまぁ…」


小声で扉を上げて奈々の家に上がる。

時間は7時過ぎになっていた。


「起きてるか?」


そういい部屋に入る。

まだぐっすり寝ている奈々を見て少し微笑む。

キッチンに向かい食材を広げる。

料理の腕には自信がある。

俺は静かに料理を作り始めた。


30分程で全部を作り終えてリビングで奈々を待った。


『料理づくらなぎゃー…』

「おはようー」

『おは…ん?ん!?!?』

「俺が作ったんだ。よかったら食べなよ!」

『なんでいるの!?!?じょくざいはどしだの?』

「買って来たんだよ?」

『がえるんじゃながっだの?』

「もう一泊お願いしますー」

『おかあさんは?』

「連絡済みだよ」

『ならよじ!』


そう言うと微笑み椅子に座る。

そして「『いただきます』」とご飯を食べた。

ご飯を食べ終わり部屋に戻ると


『ご飯だべだじお風呂入るね!』


と笑顔でお風呂に行った。

その間俺はドッキリをしかけていた。


全て設置し終わり奈々がパジャマ姿で肩にタオルをかけたまま部屋に入って来た。


『あぎぐんもいっでぎなよ!』


と言われ俺は風呂に入った。

風呂に入った俺はふと思った


「なんか幸せだなぁ…」


そう呟いて風呂場の天井を見上げていた。

天井白くカビひとつない綺麗な天井でさほど低くない。

だが俺はその天井がどんどん高くなって行く気がした。


少しのぼせたぐらいで上がるとまた綺麗に畳まれていたパジャマな袖を通し部屋に戻った。


『ながぶろだっだね!』

「ゴメンゴメン」

『なにじてだの?』

「考え事ー」

『なんの?』

「んー。俺らの将来の事…かな?」

『んー。もー』


顔を赤くして照れたようにこちらを見つめてきた奈々はとても可愛くてキュンとした。

しすがに奈々が近寄ってくると軽くキスをしてきた。

俺はお返しにキスをすると奈々から深くキスをしてきた。

しずかに奈々が頷くと俺は奈々を強く抱きしめた。

その後は想像におまかせ。


ふと目が覚める。

いつもと変わらない朝。


「くっそ可愛いな…」


奈々を見ながら呟くと奈々が目を覚ました。


『あぎぐんすきー。おはおー。』


それが可愛くて可愛くて激しめに頭を撫でてあげた。


朝からシャワーを浴びてサッパリしてでて来るといい匂いのする俺の服があった。

着慣れた服に袖を通しリビングに向かう。

そこにはズラリと並べられた朝食があった。


「おー!すげー作ってあるな!」

『えっへん!いっばいづぐっだもん!』

「なら遠慮なく!いただきまーす!」

『いだだぎまーず』


俺らは朝食を食べた。

お互い笑顔で素敵な朝だった。


ご飯を食べ終わると部屋に戻って帰る用意をした。

ドッキリの事を思い出し椅子の上に置いていた指輪を机の上に置いた。


『がえるよういできだ?』

「もうすぐー!あ。机の上みな」

『つぐえ…ん?ん???』

「ペアリングだぞ!愛の証だ」

『んー!』


奈々は嬉しそうに左手の薬指に指輪をした。

予想どうり指輪は綺麗に入り似合っていた。


『あぎぐんありがど!だいせつにずるね!』

「そうしてくれ!」


俺はクスッと笑った。

用意を終え玄関に行く。

さみしそうな奈々を見て俺は頭を撫でて家を出た。


家に着くと母が出迎えてくれた。

『おかえりー。奈々ちゃんは大丈夫だった?』

「ただまー。大丈夫って?」

『大丈夫って熱のことよ!あんた看護してたんでしょ!』

「よくなったよ。熱も引いていまは家にいる」

『なら良かったわ!こんなバカ息子でも役にたつのね』

「バカ息子で悪かったな」


俺は自分の部屋に入りベットに潜り込む。

俺はそのまま睡魔に襲われ眠りについた。


「んー!よく寝たー!」


気がつくとあたりは真っ暗で時計は19時をさしていた。

俺はふと携帯の画面をつけるとそこには大量の電話がかかってきていた。

電話番号は知らない所からでなんどもかけてきていた。

俺はその電話に掛け直した。


「もしもし。」

『もしもし。秋さんですか?』

「あっはい。秋ですけど。」

『奈々さんがご自宅で倒れられ緊急入院されました。詳しい話はこちらまで来てください。私は○○病院の赤坂と申します。お待ちしております。』


俺は頭が真っ白になった。

数時間前まで元気だった奈々がなぜ入院しなければならないのか。

なぜ病院の先生は俺の電話番号を知っていてかけて来たのか。

謎が深まるばかりで頭がどうにかなりそうだった。

とにかく急いで○○病院に向かった。


「はぁ…はぁ…」


俺は母に事情を伝えて車を出してもらって病院へ。

俺もよく通う病院である。

数分の道のりが何時間にもかんじた。


ナースステーションの方に話をしてエレベーターで上へ。

エレベーターから降りると先生のいる部屋に通された。


『君が秋君ですね』

「はい。先生…奈々はどこですか…」

『まぁ座ってください。奈々さんから話は聞いていますから。』


先生はすごく冷静で俺に優しく話かけてきた


『奈々さんから聞きました。奈々さんはあなたに病気を言わなかったようですね。』

「なんの病気なんですか?」

『実は奈々さんはステージ5の癌なんです。』



その言葉を聞いた瞬間唖然とした。

こんな若い奈々が…

若い奈々が癌なんて…

そんな事アニメの世界だけだと思っていた。

若い人は癌にならない。

そう思い込んでた自分がいた。


「奈々は治るんですよね?治るんですよね先生!!」

『残念ながら発見した時には身体中に転移していたためどうも出来ません。』

「なぜなんですか!なんでこんなに転移が速いんですか!」


先生はまた優しく話をしてくれた。


『若い人は癌の転移が早いのです。奈々さんの場合初受診の時には体に転移しているタイミングで手遅れの状態でした。こちらから延命治療として抗がん剤の投与を奨めたのですが、助からないならしたくない。秋さんに迷惑をかけたくないの一点張りでした。』


俺はその時点で悲しくなっていた。

俺は先生に覚悟を決めて聞いた。


「あと何日なんですか?奈々の命は…」


『よくもってあと2週間だと思われます。』


「2週間…」



あまりにも短い時間に俺は頭が真っ白になってしまった。

そして俺は先生に奈々が居る部屋番号を聞き俺はその部屋番号に向かった。


扉を開け中に入る。

すると1人部屋で天井をみて泣いている奈々がいた。

奈々はこっちの存在に気づき必死に涙をぬぐい俺に向かって微笑んだ。


『ぎでくれたんだ!』

「当たり前だろ!」

『ちょっどひんげつではごばれちじゃっだ!』

「そかそかー。そりゃダメだな!」


奈々は俺にに貧血と言っていた。

病院の先生から本人にもあと2週間と言う期限を知らされているはず。

でも嘘をついてまで奈々は俺を悲しませたりしなかった。


俺はそれからずっと部屋にいた。

ぎゅっと握りしめた手にはお互いに光るペアリングが輝いていた。

次の日もその次の日も学校を休んで病院に向かった。

奈々には怒られたけど1日でも1時間でも1分でも多く一緒にいたかったからだ。


奈々が倒れてからちょうど2週間がすぎたある日の朝。

奈々は俺の目の前でゆっくりと息を引き取った。


奈々は逝くまでずっと俺の事を心配してくれていた。

握りしめた手。

ゆっくりと握力がなくなり呼吸が浅くなる。

かすれた声で奈々は最後に言ってくれた。


『あぎぐんに…であえて…よかった。わだじ…しあわせだっだなぁ…』



葬式のあと奈々の両親から手紙を貰った。

生前奈々が書いた手紙だった。


あきくんへ。

ずっと病気の事言えなくてごめんなさい。

あきくんに伝えると心配しちゃうと思って伝えれませんでした。

普通でも耳が聞こえないハンデがあるにもかかわらずこんな病気になっちゃうなんて…私ついてないね。

でもそんな私でもついてることがあるの。

あきくんに出会えたこと。

それが私にとって1番幸せな出来事だった

もっと生きたかった。もっともっとあきくんと一緒にいたかった。

でも運命って残酷で私が治ってと思っても治らないの。

なんでだろうね。あきくんと出逢えた事に全て運が使われちゃったのかも笑

私が居なくなってもずっと笑顔で素敵なあきくんでいてください。


奈々より。


俺は奈々の両親にありがとうと伝え、涙をぐっと堪えた。



数ヶ月後俺はお墓の前に花を添えながらいろんなことあったなとか色々な話をしてお墓を磨いた。

ずっとずっと磨いた墓は見違えるように綺麗になった。

磨き終えたお墓に手を合わせながら呟いた。


「奈々。出会ってくれてありがとう。ゆっくり休むんだよ。」



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