表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼女はヒロインでヒーローで。訳あり女子高生の秘密は、重すぎる?

【短編】彼女はヒロインでヒーローで。訳あり女子高生の秘密は、重すぎる?

作者: 白い彗星
掲載日:2023/01/21



「おはよー、愛ちゃん」


「おはよー」


 晴れやかな青空、小鳥のさえずり、賑やかな通学路……いつもの、日常。

 微笑ましく繰り広げられるいつもの光景に、彼女はそっと手を振って応えた。


 彼女の名前は、柊 愛。

 今年で十七歳となった、花の女子高生だ。


 制服に身を包み、友達と談笑する彼女の姿はどこから見ても、ごく普通の女子高生だ。

 そんな彼女には、とある秘密がある……


「よぉ、愛」


「ひゃ! ……もう、(たける)ー……!」


 ぽん、と愛の頭が叩かれる。

 咄嗟のことに、思わず変な声を出してしまった。


 振り返ると、そこには顔なじみの顔。

 いや、顔なじみどころではない。


「ははは、相変わらずいい反応するなー、お前」


 ケラケラと笑うこの男は、神成(かみなり) 尊。

 愛の幼馴染の男の子だ。


 こうやって、ちょくちょく愛のことをからかってくる。

 見るからにチャランポンで、特出して良い点もない。

 顔も頭も普通の男。


 そんな男に、いつからだったか愛は好意を寄せているわけだが。


「もう、いい加減いきなりやるのやめてよ。

 ていうか、髪いじらないで」


「っても、隙だらけのお前が悪い」


 愛の頭が、尊の肩ほどの身長だ。

 だから、頭を撫でやすいということだろうか。


 正直、頭を撫でられるのは悪い気はしないが……

 尊も尊で、女の子の髪をそんな安々撫でるなどと。


 ……それとも、女と思われていないのだろうか。


「そんなに嫌なら気配でも察知して、避けるんだな」


「そんなの……」


 気配を読むだなんて、そんなの"殺気"が乗っていれば一発だ……しかし、言わなくてもいいことを言いそうになり、愛は咄嗟に口を閉じた。

 猛は不思議そうな顔をしているが、セーフだろう。

 危ない危ない。


「な、なんでもないわ」


「? そうか」


 この手の感触は、心地よくそしてあたたかい。

 もしもこれが、自分の頭を潰そうと伸ばされた手であったならば、即座に反応できたであろう。


 それから、尊に手を離させ、くしゃくしゃになってしまった髪をいじる。


「もう、せっかくセットしたのに」


「いいじゃんか、お前の髪サラサラだし気にすることないだろ」


「なっ……」


 本当にこの男は、さらっとこちらをドキドキさせるようなことを言ってくる。

 この髪を褒められるのは、嫌いではない。


 なんせ、昔この髪が好きだと言われ、以来伸ばしているのだから。


「お二人さん、毎度毎度仲が良いな」


「もう、やめてよ」


 登校中ともなれば、クラスメートにも会う。

 その度、からかわれるのもいつもの日常だ。


 ただ、愛はこの時間が嫌いではない。

 むしろ、ずっとこの時間が続けばいいと思っている。


 ただ、そう思う度に……胸が痛む。

 このあたたかな時間を提供してくれている尊にも、秘密にしていることがあるからだ。


 決して、バレてはいけない秘密。

 それは……



 ブィイイイイ……!



 スカートのポケットの中で、スマホが震える。

 取り出したスマホの、その画面を見て……愛は、ため息を漏らした。


 今日もまた、"出た"ということだ。


「ごめん、私ちょっと用事思い出した!」


「は? いやだってもう学校……」


「一時限目までには戻るからー!」


「おーい!?」


 後ろから尊の声が聞こえてくるが、愛は構わず走る。

 本当ならばその声に応えてやりたいのだが……


 残念ながら、そうもいかないのだ。

 なぜなら、この"報せ"は一刻を争うのだから。


 …………


「きゃー!」


「げへへ、もっと怯えろ逃げ惑え!」


 町中で、激しい爆音が、悲鳴が響き渡る。

 この惨事を引き起こしているのは、逃げている人々の中心にいる影。


 それは、人間……というには、少々異形な形をしていた。

 二足歩行なのはそうなのだが、人間にはないものがある。


 腕の先には手ではなくハサミがつき、皮膚は殻のようなもの。

 そもそも皮膚は赤く、顔も目玉だけが長く飛び出した状態だ。


 一言で言えば……二足歩行の、人型のカニ。

 そう、コレは"怪人"だ。


「そこまでだ!」


 暴れまわる怪人、それに待ったをかける、勇ましい声があった。

 ふと怪人は動きを止めて、声の方向へと首を向ける。


 どこからともなく、空から飛び降りた人影が、目の前に立つ。


「この町の平和は、わ……

 俺が守る!」


「出たなレッド!」


 それは、全身を赤のタイツに身を包んだ男の姿。

 怪人を倒すための戦隊ヒーロー、そのリーダーであるレッドだった。


 今までは悲鳴に満ちていた周囲が、レッドの登場により色めき立つ。


「きゃー、レッドー!」


「これでもう安心だ!」


 怪人にとっては、面白くない展開だ。

 先ほどまで絶望に満ちていた人々の顔が、希望に満ちていく。


 希望など、必要のないものだ。


「けっ、ずいぶんな人気だな!

 だがそんなお前の人気もここまでだ! なぜならこの俺、カニキング様がお前をギザギザに斬り刻んで、今晩のおかずにでもしてやるからなぁ、あっははは……」


「ふん!!」


「はべぼら!?」


 高らかに笑う怪人、カニキングは……宙を舞った。

 懐に入りこんだレッドの、拳を顎に打ち込まれて。


 一発で、カニキングは意識を狩りとられ、地に伏した。


「あぁもう、これから学校なのに!

 いちいち長いのよ!」


「うぉー、レッドー!」


「ひゃ!」


 倒れたカニキングに悪態をついていると、周囲が湧き立つ。

 怪人を、難なく倒したレッドに、人々が盛り上がらないわけがない。


 その声に、レッドは我に返る。

 いけないいけない、キャラを壊しては……キャラ作りは大事。


「ごほん。皆さん、怪人は倒しました! ご安心を!

 あとの始末は警察の方にお願いします!

 では!」


「あ、ちょっと!」


 口早に、人々へ安心を告げたレッドは、ダッシュでその場を去っていく。

 それは、いつもの光景……怪人を倒したレッドは、すぐにどこかに行ってしまうのだ。

 おかげで、お礼も満足に言えない。


 人々に不満があるとすれば、それだけだ。


「いつものことだけど、レッドはどうしてあんな速く帰るんだろうな」


「追いかけようにも、とても追いつけないもんなぁ」


「すんげー強い、正体もなにもかも謎に包まれたヒーローか」


「あぁ、でもそんなミステリアスなところが素敵だわ」


「きっと中にいるのは、爽やかな好青年に違いないわ。きっと、照れ屋だからすぐにどこかに行っちゃうのよ」


「いや、案外いい年したおっさんかもしれねえぜ?」


「なんでもいいさ。俺らや町を守ってくれてることに、変わりはないんだ」


「違いねえ」


 怪人から、人々を守ってくれる、謎のヒーローレッド。

 本人が自分のことを語らないし、彼が所属する戦隊チームも彼のことは何故か秘匿している。


 だが、なんにしても……この町の人々の平和を、守ってくれているのだ。

 謎のヒーロー、レッドは。


 誰も、その正体を知らないレッド……

 ……彼には、誰にも言えない秘密が、あった……


 …………


「はぁはぁ……

 ま、間に合った……」


「おぉ、愛。どこ行って……

 なんでそんな疲れてんの?」


「べ、別にぃ?」


 "用事"を終えた愛は、通っている学校へと到着。

 その足で、教室に入る。


 すでにクラスメートはほとんど揃っているが、まだホームルームの予冷は鳴っていない。

 ぎりぎりセーフというやつだろう。


 しかし、息を切らしている愛を、尊が疑問に思うのは当然のことだろう。


「ちょっと、全力疾走しちゃって……」


「その過程が気になるんだが……

 ま、それよりもだ。見ろよこれ!」


「なになに……げ!」


 愛の目の前までやってきた尊の手には、スマホ。

 見ろよ、と、スマホの画面を愛は突き付けられる。


 ……正直、尊が嬉しそうにしているのはこちらも嬉しいと同時に、嫌な予感もするのだ。

 そして、その嫌な予感は……だいたい、当たる。


「また出たんだよ、レッドが!」


「……へぇー」


 尊は、まるで少年のように目を輝かせている。

 突き付けられたスマホの画面……そこには、とあるニュース映像。


 その内容は……

 今朝出現した怪人を、颯爽と現れたヒーローレッドが颯爽と怪人を倒し颯爽と去っていく映像だった。


 さっきも今で、もうこんなものが出回っているのか……愛は、内心で舌打ちをした。


「すげーよなぁ、一発だぜ一発!

 はぁ、やっぱレッドはかっこいいな!」


「っ……尊ってば、レッドのこと、好き……だよね?」


「おう! めちゃくちゃ好きで、尊敬もしてる!」


「っ!」


 その、屈託のない尊の笑顔に……愛は、なんとも言えない感情に襲われる。

 嬉しいやら恥ずかしいやら、今にも悶え転がりたい気分だ。


 だって……ヒーローレッドの正体は、なにを隠そうこの私、柊 愛なのだから。


「ふ、ふーん……」


 ひょんなことから、ヒーローになってしまった愛……当時は、町の人々を守るヒーローなんて憧れたものだが。

 蓋を開けてみて、びっくりだ。



『あれ、このレッドって……間違いかなぁ? ピンクとかじゃ、なくて?』


『いや、ごめんレッドしか空きがなくてのぅ。

 キミにはレッドとして活躍してもらいたい』


『でも、レッドって男……

 あ、女の子レッドってことですね! し、新鮮だなぁ』


『なにを言っとる! レッドと言えば男! 男と言えばレッド!

 これ世の中の常識じゃ!』


『えぇ……

 でも私、女……』


『あと、レッドと言えばリーダーと定番が決まっとるのでな。

 今日から頼むぞ、リーダー』


『なんだって!?』



 あれよあれよと、ヒーローレッドとして活躍することになった。

 男として。


 幸い、顔も隠す全身タイツだから、見た目でバレることはない。

 男と女の容姿の違いは、スーツの伸縮性でごまかせているし。


 声も、低く意識すればなんとか乗り切れる。戦闘中は喋らなくて済むし。

 いつも口早なのも、女声とバレるのを防ぐためだ。


「あぁ、いつか会って握手してほしいなぁ、レッドぉ」


「……」


 男として振る舞うのも、最初は困惑が大きかったが……

 好きな人が、レッドのファンだと知ってからは、その困惑も小さくなっていった。


 同時に、男だと振る舞うよう、より気をつけるようになったが。

 なにせ……


「きっと、男の中の男! な中身なんだろうな!

 な、愛もそう思うだろ!?」


「あー、うん、ソウダネー」


 この男は、レッドを男だと……それも、男の中の男だと、信じている。

 まあ、世の中のほとんどの人が、そう思っているだろうが。


 そんな尊に、もしレッドの正体が自分だとバラしてみろ。



『はぁ? レッドの正体がお前とかマジかよ……

 ないわ、二度と近づかないでくれ』



「っ!」


「おい、どうした急に腹押さえて」


「な、んでもない……」


 尊はレッドに憧れている。だからレッドの正体が自分だと明かすことで、その尊敬の念は愛へと注がれる……それは、可能性のひとつ。

 むしろ、男の中の男をイメージしている尊をがっかりさせてしまう。

 そんなことになったら……終わる!


 尊はそんなこと言わない、と思いたいが……それでも、可能性があるくらいには、尊のレッドに対する気持ちは大きい。

 そして、そんなことを言われたら……想像しただけでこれなのだ。


 実際にこんなことになったら、死ねる。


「俺もあんな風に強く……」


「あはは……」


 好きな人が、自分の強さに憧れている……

 なんだろう、これは。


 それから、予冷がなっても尊におる"レッドのここがすごい"を聞かされまくった愛の頭は、ショート寸前。

 教室に入ってきた先生に注意され、ようやく尊は自分の席に帰っていった。


 ……ヒーローはイメージが大事、と誰かが言っていた。

 その気持ちが、今になってわかる。


 尊だけではない……おそらく、クラスメートも、友達も、先生だって、レッドのファンは多くいるだろう。

 そんな彼らの、イメージを守る……それも、ヒーローの大切な仕事だ。

 そして、今更愛には、ヒーローをやめる選択肢もない。


 こんなに心苦しいのに、尊がレッドのことを語っている時の顔が、とんでもなく好きだから。


「はぁ……」


 なんとも、難儀なことだ。

 もはや、ため息しか出ない。


 怪人を倒す、戦隊ヒーローリーダー、レッド……その正体は、どこにでもいるはずの、平凡な女子高校。

 彼女は秘密を抱えたまま……



 ブィイイイイ……!



「……またかぁ。

 先生、ちょっとお腹が痛いので保健室行ってきます!」


「またか、柊」


 今日も、町が平和でありますようにと、願いながら。

 少女は、教室を飛び出していく。



 ……これは、幼馴染に恋する乙女が、ヒーロー活動に、勤しんでいく物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 正体を隠したヒーローの私生活……良いですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ