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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
特訓とメモ帳

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人間観察をしよう その4

お久しぶりです。

評価とか宣伝してもらえるとモチベ上がりますので是非よろしくお願いします!

カップルの後をつけ始めたが、彼らはセンター街方面ではなく109方面へ向かっている。


「プリクラって……多分こっちじゃないよな?」

「そう……ですね、おそらく」


 ETにでもならない限り、俺がプリクラを撮った回数を指折り数えるのは無駄だろう。いや、ETは差し出した指が一本なだけか。

 まぁ、俺に限らず反応的に三上もプリクラ経験が少なさそうだし、卑屈になることはないだろう。きっと。


「――そのまま109に入るみたいですね」


 意識を戻すと、カップルたちは言葉通り109のガラス扉を開けて入店した。


「109か……」


 渋谷109。ナウでヤングな若者たちに人気の商業施設である。

 正確には反対側――センター街を挟んだ向こう側にはメンズ館もあるが、今回はレディースメインの建物だ。

 中にはさまざまな店舗があるが、その多くがファッション関係かSNSで映えそうなスイーツ。

 嫌われていなければ俺も109のターゲット層には相違ないはずだが、正直入れる気がしない。

 一人ではまず無理だ。そもそもレディースの店が立ち並ぶ中で何をすればいいのかわからないし、変態盗撮男だと思われかねない。

 今、隣には三上がいるが、それでも入りづらいことに代わりない。

 そもそも、ここに彼女の着る系統の服はあるのだろうか?

 勝手な想像だが、109はギャルの傾向が強いように思う。デコルテが顕になっているような服が彼女に似合うとは――いや、似合うが進んで着るとは思えない。

 つまり何が言いたいかというと、俺たち二人は109に入るのにも相当な精神力を消費――


「いいですね、私たちも入りましょうか」

「入るの!?」

「え、はい……嫌でしたか?」

「そそそそんなことはないけど……ほら、ちょっと入りづらかったりしないか? 見るからに若者感あるっていうか、陽のオーラがあるっていうか……」

「私、一回行ってみたかったんですよね、109。よく美奈ちゃんが話してくれるんですけど、109個以上のお店があるらしいんですよ」


 日和っていたのは俺だけだったみたいだ。三上は「ワクワク」と擬音が浮かびそうな顔をしている。

 後から調べてみたが、109とは店の数ではなく「東急」を「10」と「9」に分けた語呂合わせ、そして「午前10時から午後9時まで」の営業時間という意味だそうだ。観念して入ろう。

 歩道から一、二段低い広場に降りてから直進し、ガラス扉を開けて三上を待つ。続いて俺も109という未知のダンジョンの足を踏み入れた。


「活気があるな、めちゃくちゃ」


 はい、と頷く三上。

 すでに視界の両端に映り込む店からは、店員が客を呼ぶ声が聞こえる。どちらの店も立っているのは綺麗目のお姉さんで、よく通る芯のある声だった。

 とはいえ、一度入ると決めてしまえば、割と普通に過ごせてしまうな。違うな、自分が浮いているんじゃないかとか、心臓にかかる負担を減らすために脳が自動的に麻痺しているんだろう。


「んで、カップルはどこだろう」

「右も左も……いませんね」


 きょろきょろと辺りを見まわしてくれている三上が見つけられないということは、エスカレーターに向かったのだろうか。

 目の前にあるエスカレーターを見上げてみると、今にも見えなくなりそうな位置に、件の制服を発見した。


「上に向かってるみたいだな。俺たちも行こう」


 エスカレーターの天井からは透明で色のついたパネルが下げられていて、SFのよくわからない機械にぶち込まれてる気分になる。

 先を見てみると、カップルはまだまだ上に向かうようだ。俺たちは行儀悪くもエスカレーターを登っていき、ついには二人の真後ろに位置どりした。


「実は、このカラフルな板は俺が付けたんだよ」


 若者がどんな会話を繰り広げるのか気になって耳を澄ませてみたが、なるほど、これは彼……ゆう君だったか。彼が設置したものらしい。

 

「そうなのぉ〜!?」

「うん、まみを喜ばせたくて」

「ありがとうっ! でも、どうやって付けたの?」


 もちろん彼女の方も冗談だとわかって聞いている。


「それは――みんなには秘密にしてほしいんだけど、実は天井に張り付きながら付けたんだよ」

「ゆうくんすごいね! かわいい!」


 何が可愛いのだろうか。それより、彼女の方はもう少し危機感を持った方がいいぞ。

 仮に彼が天井に張り付く能力を持っている場合、夜な夜な蜘蛛男としてヒーロー活動している可能性が高い。事故に巻き込まれないようにな。

 ……しかし、内容はどうあれ適度な、わかりやすい冗談を挟むというのは会話を続ける上で有用な気がした。俺も今度、三上にやってみようか。


「黒木くん、実はですね」

「ん、どうした?」

「――あのプラスチックの板、私が付けたんですよ」


 振り返ると、三上が意地悪な笑みを浮かべていた。

 先に言われてしまったな。

 ということは、今俺が求められているのは気の利いた返答。


「へぇ、すごいな。一体どうやって付けたんだ?」

「…………………………天井に張り付きました」

「答えまで考えてなかったな」


 三上もたまに好奇心が先行してしまうことがあるのだと、思わず笑ってしまう。

 俺の反応を見て少し頬を膨らますのが堪らなく可憐だ。

 プラスチックの板と言うよりカラフルな板の方が可愛さもあるし、正確な言葉なだけじゃ足りない時もあるようだな。

 よし、俺も同じように試してみよう。自分なりのエッセンスを加えてな。


「なぁ三上。実はこのエスカレーター、俺が設置したんだよ」

「………………それは疑問より感心が勝っちゃいますね……」


 ……確かにな。

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