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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
特訓とメモ帳

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人間観察をしよう その3

「次はどうしましょうか」


 人助けをしたし、満足度的には1日を終わらせてもいい感じなんだが、実際のところ渋谷についてからまだ1時間も経っていない。

 まだまだ演技についての知見が手に入ったとは言い難いな。

 

「もう一回、ハチ公のあたりに戻ってみるか。母数が多い方が気になる人も見つけやすいだろうし」


 頷く三上。二人並んで駅前に戻る。

 ストーリーが進んだことで、再度ハチ公口に訪れると工事中だった白い壁がなくなっているとか、そういう目に見えた違いはもちろんない。

 なんなら、さっきからずっと壁の前で立っている人もちらほらいる。

 友達を待っているのだろうけど、かれこれ30分くらい待たされてないか?

 可哀想だし、暑いから建物なんかに入っていた方がいいと思うんだが。

 だが、そんなのは人の勝手である。5分で帰る人もいれば、2年くらい待つ人もいるだろう。

 ハチ公も10年くらい待っていたらしい。

 俺も相手が三上だったら永遠に待てる。


「2分……ですね」

「に、2分!?」

「はい。スクランブル交差点の信号が切り替わる時間を数えてたんですけど、多分、2分でした」

「あ、そういうことか……そうだよな、よかった」

「……よかったですか?」


 俺が2分以上遅れた場合、三上は容赦なく帰ってしまうのかと思って肝が冷えた。

 もちろん、彼女との待ち合わせ時間に間に合わないように家は出ない。

 突然、情けなく取り乱したことで、驚かせてしまったようだ。


「に、2分の間に千人くらいの人が渡るなんてすごいなと思ってな!」

「確かにですね。一説には、1日で50万人くらいの人が行き来するらしいですよ」

「それはすごいな! いやぁ、本当に驚いたよ、うん」


 なんとか誤魔化せたか。

 それにしても、すごい知識量だな。雑学クイズとか出た方がいいんじゃないだろうか。

 ――と、その時。俺たちの目の前を、凄まじい熱量が横切った。


「もう、ゆうくんったらくっつぎ過ぎぃ〜!」

「そんなこと言って、まみの方から腕を絡めてるんじゃないか」

「確かにぃ!」

「まったく、可愛いなぁもう」


 いつか見たカップルとはまた違う、かなり独特な絡み方の男女。

 ペアルック……かと思ったら制服を着ている。高校生カップルのようだ。


「んねぇ? 今日は何しよっかぁ」

「プリクラ撮ろうとプリクラ!」

「えー昨日と撮ったじゃーん! でも撮る〜!」


 二人はこのままキスしてしまうのではないかという距離まで顔を近づけ、離して、大切なおもちゃを守ろうとする子犬のように腕を抱きしめ、歩いていく。

 ちらりと三上へ視線をやると、俺と同じく、あのカップルを見ている。


「最近付き合ったばっかりなのかもな。アツアツって言葉をこれ以上ないくらい体現してるし」


 あと何ヶ月かすれば倦怠期ってやつだ。

 彼女のいたことのない俺の勝手な決めつけである。

 

「私もそう思ったんですけど、二人の歩幅はピッタリなんですよね。あんなに歩きにくそうな体勢なのに、すごくないですか?」

「……言われてみればそうだな」


 ガッチリ腕をホールドされていたら歩きにくそうなものなのに、頭を擦り合わせてなお、二人の歩みには淀みがない。

 女の子の方が無理してついて行ってるようにも見えないし、だからと言って、一歩が小さいわけでもない。

 二人はおそらく、双方とも普段通りに歩いているはずだ。


「興味深いですね」

「そう……なのか?」


 気になりはするけど、追いかけるほどかと問われれば首を捻らざるを得ない。


「美奈ちゃんはヒロイン役です。十中八九、カップルとしてのシーンがあると思うんです」

「……そういうことか」


 渋谷美奈とその彼氏……役柄上の彼氏の行く末がどうなるかは分からないが、ドラマである以上、現実では起こりにくい展開になるはず。

 もしかしたら、目の前を通り過ぎたカップルのように、身体にめり込まんばかりに腕を組むかもしれないし、悲恋になってしまうかもしれない。

 どちらにせよ、二人の関係性――より愛し合っていることがわかるからこそ、展開に説得力が生まれるのだ。

 仲が良くなさそうな、ぎこちない二人が腕を組んでいても、歩幅は合わず笑顔も硬い。

 そうなってしまえば、渋谷がネットで叩かれてしまうかもしれない。

 もちろん、実際に相手役とは付き合っていないはずだ。

 重要なのは「真に迫っている」ことであり、三上はあのカップルの歩幅を見て、一筋の光明を見出したのだろう。


「よし、次はあの二人を追うことにしよう。俺たちで暴いて見せるぞ、カップルの秘密を!」


 こうして、次の標的が決まった。

 カップルが発する熱気が、汗になって頬を伝う。

 しかし、暑さに屈したりはしない。

 なぜなら俺たちは、真実を追い求める探検隊だからだ!


「黒木くん、謎のスイッチが入ってないですか?」

「……今、冷静になったよ。ありがとう三上」


 夏を先取りして、俺の脳はオーバーヒートしているようだった。


 

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