別れ
お久しぶりです
今回は短いです
「俺たち……もう、終わりにしよう」
驚きに目が見開かれている。
夕方の公園。
国内でも有数の規模を誇るこの場は一周するのに30分はかかる大きさだが、大学の隣に位置していることもあって、講義終わりのカップルが多く訪れている。
ベンチは仲睦まじげな男女で埋まり、この場の空気そのものがピンク色に染められている気さえする。
――一部分を除いて。
俺と目の前にいる女子――渋谷の周囲の空気だけは重く澱んでいた。
「もう終わりにしよう」
突き放すように俺は言う。
……もう、と無意識的に発してはいるが、とっくに終わっていたのだ、俺たちは。
付き合いたての頃は楽しかった。
見るもの全てに活力を与えるような渋谷の笑顔。
エキゾチックな顔立ちはどれだけ眺めていても飽きることがない。
自分だけでなく、こんな俺をも共に成長させてくれる向上心。
隣を歩けることが、彼女を独り占めできることがどれだけ幸せなことか。
二人きりで、自分にしか見ることのできない表情があることがどれだけの優越感をもたらしたか。
灰色だった毎日が色鮮やかになっていくのが嬉しかった。
でも、時の流れが全てを朽ちさせる。
それは永遠に思えた俺たちの関係に対しても平等に働いていた。
いつしか二人の間に愛情はなく、ただ情だけが残っていた。
そんな状態で送る毎日に、意味なんてあるのだろうか?
だから俺は、渋谷を呼び出して別れを告げたのだ。
「待って! なんで……そんなこと言うの……?」
「俺はもう、お前を愛していない。それはお前も同じ筈だろ」
目に大粒の涙を溜めながら抗議する渋谷を見ても、俺の心はピクリとも動かない。
何も感じないということで、やはり俺に愛が残っていないと実感する。
「そんなわけない! 私はまだ、あなたのことが……」
「俺にはわかってる。お前が俺を見る目が、以前と違うことを」
溢れ出るような情熱。
それが自分に向けられなくなったことに、長い時を一緒に過ごしたことで気付けてしまった。
「違うわけないじゃない! 私はいつもあなたのことを考えて、考えて……」
「信じられないな。もういい、これでさよならだ」
渋谷の言葉を最後まで聞かず、俺は立ち去っていく。
ぬるい風が頬を撫で、解放感が湧き上がる。
「待ってよ! まだやり直せるはずよ! ねぇ、待って……」
背後からの声は確かに耳に届いていた。
でも、俺の足はペースを乱すことなく動いている。
機械のような正確さで、一分の狂いもなく。
――後に残ったのは、崩れ落ち、涙を流す渋谷だけだった。
「なんかいつもと違くない…?」
「話とんでない…?」
と思った方。大丈夫です。
次話からはまた日常回に戻ります!
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