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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第二章 黒木くんとメモ帳

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黒木くんとメモ帳 その4

 電車に乗って大学まで戻ってきた俺たち。

 まだ三限目の時間帯で、校内をうろついている生徒は少ない。


「戻ってきたのはいいけど、生徒が少ないから渋谷の情報を手に入れるのも大変そうだな」

「逆に、教場の入り口で張っておけば効率よく聞き込みができるかもしれませんね」

「確かに。えっと今は……」


 スマホを取り出して時間を確認する。


「講義が終わるまであと10分ってところか。早く終わる講義もあるし、今から行ってちょうど良さそうだな」

「早速行きましょう」


 やや早歩きで出発する。


「とりあえず2年生が多い講義で良いよな?」

「同学年の方がまだ接点ありそうですもんね」

「だったら……ちょっと早く終わる民法にするか」


 民法とは、人間の権利や義務がどうこうといった内容を扱う科目……だったと思う。

 2年生から受けられる科目ということもあって、少し踏み込んではいるけどまだまだ優しい講義だ。

 教授も生徒に比較的優しく、ちゃんと出席さえしていれば単位をもらえるという噂。

 ちなみに、俺たちは別の日の民法を受講しているので、今日はサボりではない。

 民法の教場は吹き抜けのようになっている校舎の3階。

 辿り着くと、教場の中はざわついていた。


「ちょうど終わるところみたいですね」

「そうだな。できるだけ多くの情報がほしいし、二人で手分けして聞いてみよう。俺はホワイトボード側の扉から入る」

「分かりました。美奈ちゃんのお友達を探すのを優先で行きましょう」


 勢いよく扉が開き、生徒が一気に放出される。

 恐ろしい化物から逃げているわけでもないのに溢れる人。

 俺と三上は頷きあうと、互いに生徒に突撃していった。


「あの、ちょっといいですか?」

「……え? あ、はい、なんですか?」


 渋谷は同性人気も高そうだし、女子に話を聞いてみることにした。

 声をかけた派手目の女子生徒は、突然声をかけられたことに警戒していたが、俺の姿を確認して不審者ではないと思ってくれたのか話を聞いてくれる。


「……ってことで、ちょっと渋谷に急用があって」

「いやぁ、私は渋谷さんと話したことはなくて……オーラ強くて隣並ぶのも怖いって感じ?」

「……そうなんですね。ありがとうございます」


 数人に声をかけてみたが、返ってくるのは同じような内容ばかり。

 三上はどうだろうと思い、教場後方で女子に声をかけている彼女に近づく。


「すみません、少しお時間いただいてもいいですか?」

「ひゃ、みみ三上さん!? わ、私なんかに何か用ですか……?」

「あの、渋谷美奈ちゃんとお友達じゃないですか?」

「私がですか!? 何度か話したことはあるけど、キラキラしてて友達っていうより推しです……」


 どうやら向こうも苦戦しているようだ。

 というか、三上も渋谷と同じように神聖視されているせいで、俺の方が情報を引き出せているまである。


「あ、でも……」

「……?」

「渋谷さん、たまに演劇サークルに行ってるって聞いたことはあります。名前は確か――」

「British museum in Americaですか?」

「それです! すっごい変なサークルの変な座長さんなら知ってるんじゃないかなって」


 前言撤回。

 俺よりよっぽど有力な情報を得ていた。


「ありがとうございます! 行ってみますね」


 三上も手応えを感じているのだろう、女子生徒の手を握って感謝を伝えていた。

 手を握られた女子は顔を真っ赤にして俯いている。

 分かるぞその気持ち、羨ましい。


「黒木くん、南條先輩のところへ行きましょう」

「あぁ、俺もそれがいいと思っていたところだ」

「流石ですね」


 嘘だ。

 彼女にいいところを見せたくて、ついつい強がってしまった。


「とりあえず南條先輩が学内にいるか確認しないとな。電話かけてみるよ」

「お願いします。一応、サークルの部室へ向かっておきましょう」


 再び歩き出す。

 俺はメッセージを開いて南條先輩に電話をかける。

 呼び出し音が2度、3度と鼓膜を震わせた後、溌剌とした声が聞こえた。


「珍しいな黒木、お前から電話をかけてくるとは!」

「先輩、ちょっと聞きたいことがあって――」

「ついに我が劇団に加入する気になったか!?」

「違います! 実は――」

「誘ってはいないが大歓迎だぞ! 今日からみっちり稽古してやる!」

「そうじゃなくて、渋――」

「はっはっは、良い意気込みだ! それでは稽古場で待っているぞ!」

「先輩! ……切れた」


 円滑に見えて、驚くほど一方的なドッジボール。

 だが、一つ分かったことはあった。


「南條先輩は稽古場にいるみたいだ、急ごう!」

「はい!」


 詳しい話は直接先輩に会ってからで良い。

 三上なら、先輩とも意思疎通ができるからだ。

 

続きは明日更新予定

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