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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第二章 黒木くんとメモ帳

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黒木くんとメモ帳 その2

「……失踪?」


 予想もしていなかった言葉。

 数秒の時間がかってようやくその意味を理解する。

 三上の方を見ると、かつてないほどに不安そうな顔。

 とりあえず詳細を聞こうとスピーカーをオンにすると、彼女は驚いたように目を開いていた。

 マネージャーを名乗る女性が再び話し始める。


「彼女と待ち合わせをしていた現場には、彼女のスマートフォンだけが残されていました。私はそれを見つけ、こうして行き先を知っていそうな人を探しています」

「スマホだけが……誰かが連れ去ったってことですか?」

「待ち合わせは都内のカフェの前でした。人通りは少なくありませんが、目の前が道路なので可能性は……あるかもしれません」

「単にスマホを落としただけの可能性もありますね」

「その場合は芸能人としての心構えを正さないといけませんね。でも、あの子に限ってそんなことは……」


 流れを整理してみよう。

 まず、渋谷はマネージャーとカフェの前で待ち合わせていた。

 しかし、二人は落ち合うことができず、渋谷がいるはずの場所には彼女のスマホだけが落ちていた。

 カフェの前は道路になっていて、何らかの方法で渋谷を連れ去った可能性はある。

 だが、少なからず通行人なり自動車の往来はあるようだ。

 単に渋谷が誰かと出会い、歩いてどこかに行ったのかもしれない。


「何かの弾みでスマホを落とすことはある……かと」


 電話の向こうの彼女は、自分の心を落ち着かせるためにそう言っているようだった。


「……でも、美奈ちゃんって普段、カバンにスマホ入れてますよね。だからそう簡単に落とさないと思うんですよね」

「そ、そうなんですか? ミーティングの時は常に机の上に置かせていて、その他の時のことは……」


 三上の言う通り、渋谷はスマホをポケットに入れていない。

 彼女は三上と違ってデニムのパンツなんかを履くことが多いから、肌身離さずスマホを持ち歩くことはできる。

 が、実際にはそうではない。

 また、カバンに入れている場合、歩きながら何かを取り出すというのは考えにくい。

 肩にかけているものの中身を見ずに……というのはあまり賢くないし、その高さからスマホが落ちれば音で気付くはずだ。

 止まって、さらに目線を下げていればなおさら落とす可能性は低い。

 つまり、不注意の可能性は排除し切れないが、意図的にスマホを残しと考えられる。


「あと、仮に渋谷に危険が迫っての行動だとして、歩いていたら逃げることができるよな。人通りが多ければ誰かしら助けてくれるはずだ」

「……なら、彼女は車で連れ去られたということですか? でも、この通りでそんなこと……」

「いや、不可能とは言えないと思います」


 三上の落ち着いた言葉が、真剣のようにスッと入った。


「車で迎えに来た相手が美奈ちゃんと面識のある相手だったら、警戒せずに乗ってしまうかもしれません」

「なるほど……」


 人の目が多かったとしても、知り合い同士なら違和感がない。

 渋谷は知り合いと出会い、車に乗り……。


「車に乗ろうとした時にスマホが落ちてしまった可能性は?」

「カバンを逆さにしなければないかなって」

「確率的な話になるかもだけど、車内にスマホが止まる可能性も高いよな」


 マネージャーも言っていたが渋谷は芸能人だ。

 人一倍落とし物には気を遣っているだろうし、どう考えてもスマホを落とすと思えない。


「……まずは警察に連絡します。あの、お二人もお忙しいとは思うのですが、もしよければ――」

「もちろんですよ。なぁ三上?」

「はい。私たちも探します」


 大切な友達の身に危険が迫っているのに黙って見ているだけなんて嫌だ。


「ありがとうございます! もし急ぎでどこかへ向かうならタクシーを使ってください。後で請求していただければ私が料金をお返ししますので、お願いします!」


 それでは、と言ってマネージャーは電話を切った。


「何か進展があれば美奈ちゃんのスマホにかければいいですよね」

「そうだな。……といっても、俺たちには何も情報がないからな……」


 マネージャーとカフェの前で待ち合わせていた以外、彼女が今日どこで何をするか何も分からない。


「せめて予定だけでも聞いておくべきだったか?」

「予定の相手とか電話帳に載っている人はマネージャーさんが当たってくれてるんじゃないですか? 私たちはマネージャーさんが予想していない人に当たってみるしか……」

「そうだな」


 しかし、マネージャーが知らない渋谷の知り合いなんて、俺たち以外に誰がいるのだろう。

 強いて言えば南條先輩がいるけど、彼女はそもそも――。


「……そうか」

「どうかしました?」


 スマホの電源を入れると、SNSのアプリを開く。

 そして検索欄に一人の名前を入れると、予想通りその人物のアカウントがヒットした。

 画面を三上に見せる。


「前に渋谷がこの人の話をしてたの、覚えてるか?」

「徳本さん……って、確か――」


 徳本洋一。

 前に渋谷と一緒にみたドラマの脚本を担当している人だ。


「この人がどうかしたんですか?」

「俺たちが知っている、彼女と関わりがある人って徳本さんくらいだろ?」

「確かにそうですね。でも、脚本家の人が美奈ちゃんに何かするとは……」

「それだよ。その、無意識に除外してしまう相手こそ怪しいんじゃないかと俺は思うんだ」


 推理モノでよくあるだろう。

 最初に死んだはずの人や、一見すると動機のなさそうな人物が実は犯人だった。


「モデルと脚本家が話す機会なんてそうそうないと思うんだよ。つまり、徳本さんは渋谷にドラマのオファーをかけていたんじゃないか?」

「……ドラマが決まったって言ってましたもんね」

「徳本さんが渋谷を車で迎えに行って、渋谷はなんの警戒もせずそれに乗ってしまった。そして何かをされそうになった彼女は、どうにかしてスマホだけを車外に出すことができた」

「それをマネージャーさんが見つけた……?」


 確たる根拠はないが、筋は通っていると思う。


「だから俺たちはこの徳本さんを探してみよう」


 彼は数分前に都内の飲食店の写真をあげている。

 ご丁寧に位置情報も記載されているし、タクシーで向かえば捕まえられるかもしれない。

よくスマホの画面割ります

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