傘、入りますか? その3
雨の日は大学サボってました
説明しよう。
多くのソシャゲにはガチャというシステムがあり、そこから強いキャラや武器が排出される。
もちろん課金をせずともガチャは行えるが、当然リアルマネーを注ぎ込む方がたくさんガチャが回せる。
つまり、レアなキャラを当てられる可能性が上がるわけだ。
このゲームの最高レアリティである星5が出る確率は1%、その中に何十人ものキャラクターが等確率で待ち構えている。
だが、ピックアップ時には1%の排収率が2%にあがり、さらにピックアップキャラの排出率も高くなっている。
1が2になったところで何も変わらんだろ、そう思うかもしれない。
だが無課金、または少ない所得で雀の涙ほどの課金を行うプレイヤーにとって、この1%はまさに天の恵み。
「ってことで、俺は単発で星5キャラを引き当ててみせる」
「あんまり分からなかったんですけど、福引を一回引いて一等を当てる感じですか?」
「まさにその通りだ。さすが三上」
俺の謎テンションに若干戸惑っている三上にスマホの画面を向ける。
「そしてこれが今のピックアップキャラだ」
金髪ボブカットの美少女が画面の中でヌルヌル動いている。
彼女の名前はアカネ。
俗にいう後輩系キャラで、戦闘では短剣を用いたスピーディな攻撃を得意としている。
ストーリー上での可愛さから人気があるキャラだし、実践での活躍も目覚ましい。
現在実装されているキャラの中でも、攻略サイトではSSランク……要するに最強クラスの一人ということだ。
だが、残念なことに俺はアカネちゃんを引けていない。
これまでに約150連ほど回しているが、アカネちゃんはおろか他の星5すら出ていないのだ。
だが、雨の降る憂鬱な今日。
ここでアカネちゃんをぶち当てて三上の説の正しさを証明するとともに、うちのパーティの戦力を上げたいと思う。
「今回はミャオちゃんはいないんですか?」
「ざ、残念ながらな。ミャオちゃんは恒常だからあんまりピックアップが来ないんだよ」
いきなりミャオちゃんについて触れられたことに驚き、声が上ずる。
「恒常……? あ、もしかして期間限定でしか出ない子もいるってことですか?」
「そうそう」
ミャオちゃんも限界突破させたいからあと2人くらい来てほしいんだが、数多の候補の中からピンポイントで当てるのは不可能に近い。
ちなみに彼女は評価で言うとCランクだ。
普段から贔屓している攻略サイトだが、この点だけは信憑性に欠ける。
ミャオちゃんは性能が控えめでも可愛いから殿堂入りなんだよ。
「……よし、引くか」
「頑張ってください」
勝負の単発ガチャ。
今持っている分ではどっちみち一度しかチャレンジできないが、ここで三上に良いところを見せたい。
スマホの画面をタッチして、ガチャの確認を済ませる。
ゲームの主人公が刺さっている剣を前に棒立ちしていて、プレイヤーはスワイプしてこの引き抜くことで演出が始まる。
「この剣を引いた時、剣先が虹色に光っていたら星5確定だ」
「わかりました」
画面を見るために近くなった距離にドキドキしながら、俺は剣を引き抜いた。
しかし、その剣先の色は……。
「金色ってどうなんですか?」
「星4だな」
確率的には5%くらいだろうか。
惜しくも最高レアリティではないが、単発でこの結果はそこそこだろう。
「これも十分レアだよ。だから今回は良いことが起こったってことで――なにっ!?」
「どうしました!?」
主人公が剣を天高く掲げた瞬間、澄み渡る青空に雲がかかり、そこから稲妻が降り注ぐ。
そしてそれは剣の先端にぶつかり、溢れ出る力を受けて剣の色が……。
「に、虹色になったッ! 特殊演出だッ!」
「星5になったってことですか!?」
「そうだ! これは……あるぞ!」
煌めく金色から神秘的な虹色になった剣を両手に構え、勢いよく振り下ろす。
画面は綺麗に両断され、生まれた時空の狭間からキャラクターのシルエットが現れる!
その姿はなんと――!
「ワシの名前はアルジャック。しがない魔術師じゃ」
『魔道賢者・アルジャック!』
全身の力が抜け、椅子にもたれかかる。
女性キャラに比べて遥かに少ない男性キャラ。
その中でも、強さは上位だが人気のなさが凄まじい魔道賢者・アルジャックが出てしまった。
「アルジャックか……持ってないけど……」
いや、単発で星5が出るだけマジですごいんだけどね?
でもアカネちゃんだと思うじゃん?
「……黒木くん、あの子が好きなんですか?」
「い、いやいや、違うから! 俺はミャオちゃん一筋……ってのも違くて! まぁほら星5出て良かったよすごいな三上!」
「…………そうですね?」
何故か疑いと照れが入り混じったような視線を向けられている。
危うく前回のような失態を犯すところだった。
……いや、もう手遅れか?
ともかく、雨の日チャレンジはなんとも言えぬ結果に終わってしまった。
講義が終わり、俺たちは校舎を出ようとしていた。
先ほどより弱まっていたが、まだ雨が降っている。
「またリベンジしましょうね。雨の日が待ち遠しいです」
「ははっ、ちょっと気が早くないか? ……ってあれ、傘忘れちゃったみたいだ」
折りたたみ傘を持ってきたと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。
風邪をひきそうなほど激しい雨でもないし、このまま歩いて帰るか。
そう思っていたが……。
「傘、入りますか?」
三上がこちらを見上げ、ニコリと微笑む。
「……じゃあ、お言葉に甘えて。俺が持つよ」
傘を受け取り、二人で狭い空間を共有する。
俺は照れてしまって言葉をかけることができなかったが、彼女は機嫌が良さそうだ。
「雨の日も捨てたもんじゃないな」
「そうでしょう? 次は引けると良いですね、アカネちゃん」
その言葉に苦笑する。
二人で意見を交わしながらくだらないことにチャレンジし、こうやって傘を共有しながら帰る。
一日の中に多くのドキドキがあった。
この気持ちが味わえるなら、雨の日だって苦じゃないと思った。
主人公が剣を引き抜くのに失敗する演出もありそう




