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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第二章 黒木くんとメモ帳

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対戦しましょう

 ということで、早速バトルスタート……といきたいところだが、俺はカードを持ってきていないし、三上の方もいきなりパック産のカードを使うのは難しいと思ったので、お互いにスターターデッキを一つ買うことにした。

 スターターデッキというのは、これ一つあればゲームができるという、簡単に言うと「始めようセット」だ。

 デッキの内容的には強いとは言い難いが、初心者にも使いやすいカードが多く投入されている。

 つまり戦力は五分。一通りルールを解説したあと、ついに天下分け目の大戦が幕を開けることとなる。


「お手柔らかにお願いします〜」

「ふっ……初心者に甘くできるほど、カードラは優しくないぜ……?」

「……ちょっとキャラ変わってません?」


 変わってない。バトルの時は全力で、これ常識。

 カードラには数種類のカードがあるが、基本的にバトラーカードで相手を攻撃すれば良い。

 攻撃された時にはそれを防げるカードを発動し、自分の体力を守る。

 カードの発動タイミングや効果の処理の順番など、もっと詳しいルールもあるにはあるが、さすがに初心者にそれを強いるのは可哀想だということで、いわゆるローカルルールで遊んでいく。

 勝ち負けも大切だが、三上にはカジュアルに楽しんでほしい。

 というか、俺ですら、さらには公式ですら完全にルールを覚えているわけではないしな。

 デッキをシャッフルし、最初の手札として5枚引く。

 自分の手札を見ながら、今後の戦略を考える。

 最初は俺の番だ。


「俺はサポートカードを2枚セッティングし、終了だ!」


 初手は悪くなかったが、まずは様子見といこう。

 相手が初心者だからこそ、予想外すぎる行動に面食らってやられるということもある。


「私の番ですね。それじゃあこの『お水ナイト』を出して……黒木くんに攻撃します」

「ぐっ、やるじゃあないかァ……」


  俺の体力が一つ減らされ、状況的には三上が一歩リードしている。


「だが、俺も負けてはいられないぜ! いでよ『覇・草威』! 粉砕しろ!」


 その後も互いに譲らない、一進一退の攻防が繰り広げられる。

 三上は初心者のはずだが、地頭の良さからカードの使い所を理解して、的確に攻撃してくる。


「……ふむ。相手のフィールドを水浸しにするというお水ナイトの効果を上手く使った水中コンボ……ミャオちゃん似の女性、なかなかやりますな」

「拙者的には、彼の使役する覇・草威のトリプル野菜アタックのタイミングも素晴らしいと思いますぞ」

「互いの実力は伯仲。どちらが勝つか、見ものでござる」


 俺たちの白熱した戦いに惹かれたのか、後ろから現役プレイヤーらしき集団に、それぞれのプレイングを解説されている。

 こういうのってめっちゃやりにくいんだよなぁ。

 緊張してプレイングミスなんてした時は、逆恨みしちゃいそうだ。

 だが、空気に飲まれて負ける俺ではない。

 見せてやろう、現役を退いたとはいえ、未だ情報収集を怠らない者の実力ってやつをな。


「それじゃあ今度は……マウンテン・ドラゴンで覇・草威を攻撃します」

「ククッ、甘いぞ三上ィ! 俺はサポートカード『弱肉寄生食』を発動する! これによって、攻撃された覇・草威を破壊し、代わりにマウンテン・ドラゴンを俺の場に移動させる!」

「!?」


 これが俺の必殺タクティクス「お野菜・ザ・ワールド」だ。

 野菜カードはそれぞれのパワーが低く、場持ちが悪いため切り札であるマウンテン・ドラゴンを出しにくい。

 しかし、野菜を食らった相手の切り札を奪うことによって、その弱点を克服しているのだ。


「そして、『弱肉器用食』を発動し、三上のターンでの攻撃を可能にする! 行け、マウンテン・ドラゴン! 三上にとどめを刺せええええええ!」


 (俺の脳内では)マウンテン・ドラゴンが雄叫びを上げながら、天をも穿つような巨体を揺らし、口からどでかいビームを吐いて三上の場を破壊する。

 勝負は決した。


「……私の負けですね。でも、楽しかったです」

「あぁ、いい勝負だった。初めてだっていうのに、危うく負けるところだったよ」


 これはお世辞ではない。

 本当に、上手いことサポートカードが引けていなかったら俺が負けていた。

 今回は運に助けられた感じだな。

 この後も何戦か勝負して、結果的に俺が全て勝利したものの、回数を重ねるごとに三上が成長するため、最後の方はかなり真剣にプレイしていた。

 三上、恐ろしい子……。


「いやぁ、めちゃくちゃ戦ったな」

「そうですねぇ〜。一回くらい勝ちたかったんですけど、特に最後が惜しかったです……」

「そうだな。あそこでバトラーカードを捲られていたら、負けたのは俺だった」


 カードショップを後にして、エレベーターを降りると、外は暗くなっていた。

 かれこれ三時間近く勝負をしていたようだ。


「もう暗いな。駅まで送って行くよ」

「いいんですか? ありがとうございます」


 女の子を、それも三上のような美人を一人で帰らせるわけにはいかない。

 二人で歩いている今ですら、居酒屋のキャッチが絶え間なく話しかけてくるのだから。


「あ、そうだ。これ使ってくれ」


 先程スターターデッキを買う際、ついでに購入しておいたものを取り出して渡す。

 

「カードケース……いいんですか?」

「あぁ。目的はカードを当てることだったし、もうやらないかもしれないけど、いつかふと、思い出してやりたくなる時が来ると思う。その時のために使ってくれると嬉しい」

「……大切にしまいますね」

「いや、たまには出してあげてくれよな?」


 帰る直前まで、なぜかカードケースをバッグにしまわず大切そうに持つ彼女を微笑ましく思いながら、駅まで送って行った。

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