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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第二章 黒木くんとメモ帳

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カードゲーム、しませんか? その2

 時は変わって夕方。

 講義を全て消化した俺たちは、繁華街にあるカードショップに訪れていた。

 ビルの4階に入っている店舗で、テナント表に赤い看板がかかっている。


「ここでカードが買えるんですか?」

「そうだよ。とりあえずエレベーターで上がろう」


 カード自体はその辺のデパートでも買えることが多いが、彼女の求めている弾はそこそこ人気なため、万が一売り切れていた時のことを考え、専門店を選んでおいた。

 上りのボタンを押してしばし待つと、籠が到着した音が鳴り、扉がぎこちなく開く。

 イヤホンをした二人の青年が降りていく。


「……なんか、二人とも真剣な顔でしたね」

 

 乗り込んだエレベーターで、三上が小さくつぶやく。


「まぁ、そうだな」

 

 彼らは先ほどまで、己のデッキの強さ、つまり、プライドをかけて戦っていたのだ。

 自らの血と涙の結晶とも言えるデッキ。

 敗北とはそれすなわち、自分の努力の否定。

 昼過ぎの眠気に打ち勝って、はたまた理論に理論を積み重ねて。

 そうして生み出された戦法が通じなかったときの絶望。

 恐怖にも似たそれと常に隣り合わせで戦う緊張感があれば、顔も強張るというものだ。

 緊張感があるからこそ、人は成長する。

 逆に、ろくに知識もない彼女と店に来るようなプレイヤーは冷たい視線の対象となる。

 彼らを代表して言っておくが、別に羨ましいわけではない……はずだ。

 まぁ、最近は女性プレイヤーも増えてきたし、勝ち負けにこだわらないエルジョイ勢も受け入れられている。

 俺と三上は恋人同士ではないし、仮にそうだとしても顰蹙を買うこともない。

 筋肉痛初日のような足取りの不安定さで俺たちの身体を持ち上げていたエレベーターが止まり、到着を知らせる。

 扉が開き、パチパチとカードを擦る音が聞こえてきた。


「へぇ……ここが…………」


 一番最初に目につくのは、色々なカードパックのダミーが吊るされているスタンドだろう。

 右へ向かえば、ガラスケースの中にレアカードが一枚ずつ並べられている。


「イラストレーターさんとのコラボカードは当たりにくいし、こっちにあるんじゃないか?」


 手招きして三上を呼ぶが、その足は動かない。


「実は、まだどんなイラストか見てないんですよね。初めて見るのは当てた時がいいかなって」


 なるほど。最近は新パックの発売前でも、ネットを見ればどんなカードがあって、どんな効果なのか知ることができてしまう。

 当然その方が早く戦略を練れるのだが、子供の頃の、何が入っているのかすらわからないドキドキ感を忘れてしまっていたらしい。


「……確かにな。三上の探してるカードが入ってるのはこのパックだと思うぞ」


 スタンドの中でも、自分の目線と同じ高さのものを指差す。

 強そうなドラゴンが目を惹く、つい最近出たばかりの弾だ。


「そういえば、こんな感じの表紙だった気がします。いくつくらい買うのがいいと思いますか?」

「うーん、そうだなぁ」


 一パック大体150円。一箱三十パック入りで4500円だ。

 運が良い人は一つ買ってお目当てのものを手に入れることができるかもしれないが……。


「とりあえず一箱くらいがいいんじゃないか?」


 基本的に、カードゲームは一箱で出るレアカードの枚数が決まっている。

 バラで買う場合、予定枚数より多くレアカードが出るフィーバーモードがあるが、逆に何も出ないお通夜モードもある。

 つまり、よっぽどのギャンブラーでない限り、ボックス買いが安定ということだ。

 ちなみに、三上の欲しいコラボカードはおそらく、4〜5箱に一枚。

 しかもそのコラボカードも何種類かあるため、自分の力で狙って引き当てるのはかなり難しいだろう。

 一通り説明すると、彼女は勇ましげに親指を立てて口を開く。


「それじゃあ、一箱買います」

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