能力者再び その2
「澪はあの二人のこと信じてるの?」
「私は能力とか全然わかってないです。ただ、男性の方は前回は靴下が左右逆でした」
「着眼点が謎すぎる……でも、この間テレビで、靴下が左右違う人は嘘つきって言ってたのよ。だから能力っていうのも嘘だと思うんだけど」
「なら見てみろ、あの二人の目を。あの目が嘘をついている目に見えるか?」
「うん。っていうかここからじゃよく見えないし」
リアリストめ。
だが、疑いの目を向けられるのも今のうちだ。
きっと二人は、今回こそその“力”を見せてくれるだろう。
「……っていうか、なんで二人はまたあんなことになってるんだ?」
「そうですよね。この間は仲良さそうに帰ってた気がします」
だが、見ている感じ、喚いてはいるものの、喧嘩をしているわけではなさそうだ。
むしろ、今にも崩れ落ちそうなタケルを、ミチルが親身に介抱しているという風に見える。
とりあえず今は情報を受け取ることに徹しよう。
「タケルくん、もう一回最初から考えてみましょう?」
「あぁ、そうだな……そうする」
しっかり前回までのあらすじもやってくれるようだ。ありがたい。
「じゃあまず、マイちゃんと最後に会ったのはいつなの?」
「マイと最後に会ったのは……一昨日の昼だ。スーパーの特売のためのウォーミングアップをしようと思って、ランニングしてる時に偶然……」
「すき焼きをした日ね。その時マイちゃんに変わったところは?」
「ないな……」
能力者がスーパーの特売のためにウォーミングアップするなと言いたいところだが、ポイントはそこではない。
マイという新キャラクターが登場したことだ。
今までの登場人物は彼氏・タケルと彼女・ミチル……あとはタケルの妹(仮)とミチルの会社の人間くらいだろう。
三人目の名前ありの登場人物が誰か、そこから推測していこう。
だが、この謎は簡単に解決できそうだ。
ミチルは「ちゃん」付けで呼んでいるのにタケルは呼び捨て。
ということは、マイは二人と知り合いで、特にタケルと近しい関係にあるということだ。
一般的に男性が名前で呼び捨てする異性は、恋人か肉親。友達という線ももちろんあるが、それはミチルが許さないだろう。
ならば該当者は一人しかいない。
「マイは――」
「マイさんはきっと、タケルさんの妹さんですね」
「すご! 澪なんでわかるの!?」
まぁ、俺もわかってたけどね?
タッチの差で負けてしまったが、次は俺が解答権を得るぞ。
再びカップルの話に耳を澄ませてみよう。
「ミチルはその日何をしてたんだ? そういえば、マイはその日ミチルに会うって言ってたような……」
「そうそう、私とミチルちゃんはショッピングに行く約束をしてたわ。でも、その予定は中止になってしまったの」
中止? 一体何があったのだろうか。
「ライトさんの靴下を買いに行くことになってしまったのよ」
「靴下? そんなもの、なんでミチルが買いに行くハメに?」
またまた新キャラクター登場だ。
今の情報ではライトさんの正体に迫ることはできそうにない。
「その日ライトさんは、近所に現れた能力者の監視任務に就いていたわ。そして、それが終わった後は総理への報告……。とてもハードな一日を送っていたの」
「あぁ、能力者の監視は相当精神にくるからな」
「でもその最中、彼は気付いてしまったの……自分の靴下の色が、左右で違うということに……」
「な、なんだって!? そんな状態で総理に会うなんて、無礼ッッッ!」
確かにな。本当に総理に会うとするなら、身なりには細心の注意を払う必要があるだろう。
自分の見た目にすら気を遣えない人間が、国の依頼を引き受けられるとは思えない。
「……いや、総理? ヤバくない?」
「これが能力者の存在の証明ってことだよ。なぁ三上?」
「…………ふっ……そ、そうですね……ふふっ……」
あぁ、またツボに入ってる。
三上は靴下の色が左右で違うという部分に笑いを感じるようで、両手で口元を必死に隠していた。
とりあえず俺は話の続きを聞こう。




