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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第一章 三上さんとメモ帳

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ショッピングモールに行きませんか? その3


「よ、よし。メモ帳も本も買ったことだし、この階でやることはもうないよな?」

「そうですね。大大大満足です」

 

 会計を済ませた俺たちは、エスカレーターで三階へ上がる。

 だが、特に特に目ぼしい店もなかったため、適当に一周ぶらついた後、四階のアパレルショップエリアに向かうことにした。

 当初の目的を忘れかけていたが、今日は三上の夏服を探しに来たのだ。


「おー、すごい店の数だな」

「そうですね。全部ゆっくり見てたら日が暮れちゃいそうです」


 それまでの階層と違い、一店一店の面積が小さく、その分多くのブランドがひしめき合っている。

 女性のブランドにあまり詳しくないため、半分くらい同じような店に見えるが、恥ずかしいので口に出さないでおこう。


「見たい店は決まってるのか?」

「はい。三店舗くらいあるはずなんですけど……ちょっと待っててくださいね」


 小走りで、エスカレーターを登り切ったところにあるフロアガイドへ向かう三上。

 二巡程視線が左右に揺れたあと、こちらへ小走りで戻ってきた。


「お待たせしました。まずは右側から行きましょうか」


 ゆっくりと歩き出す三上に遅れない様に歩を進める。

 やはり同じ店ばかり並んでいるように感じてしまう中、最初に入ったのは、綺麗目な服が並ぶ店だった。

 挨拶をしてくれる店員さんも、クリアネイビーのデニムパンツにライトベージュのピッタリとしたシャツという、少し年上のお姉さんという概念の擬人化の様な姿をしていた。

 夏が近いこともあり、店内に並べられている服もラフな物が多く、三上はノースリーブの白いシャツを手に取った。

 そのまま全身が写るウォールミラーの前にいき、自らの身体に服を重ねて考えているようだ。

 どうやら一次審査は通過したようで、彼女はシャツと一体化したままこちらへと振り向く。


「これとかどうですか? 普段はあんまり着ないタイプの服なんですけど、私的にはアリかもしれないなって」

「あ、あぁ……とっても似合うと思う」


 ……思わず着ている姿を想像してしまった。

 顔もスタイルも、誰の目から見ようが整っているのだ。

 そのため、どんな系統の服も当然似合うのだが――。


『おはよう三上!』

『わー黒木くん! おはようございます!』


 脳内三上は、俺の挨拶に対して、大きく手を振って応えてくれる。

 そして、ノースリーブからばっちり見える腋は、暴力的なまでの威力を秘めている……だろう。

 あくまでシミュレーションの産物だが、清楚の塊のような三上が着ることによってギャップが生まれ、もはや言葉で言い表すことのできない破壊力を生み出す。

 俺が考えていることではないが、そのギャップはある意味、興奮をそそるものだ。いや、俺の意見じゃないぞ?

 町ですれ違う男たちが、その魅力から目を離すことができないということだ。うん。

 え? 三上が俺に対してこんなに楽しそうに手を振ることがあるかって?

 流石の俺も、そういう無礼なことを言うやつには六法全書・鈍器モードを開放せざるを得ない。

 通常形態が鈍器モードだが。派生形態は枕モードである。

 ともかく、世の男性に対する彼女の影響力を考えると、素直に縦に首を振ってしまっていいのだろうか、と悩んでしまう。

 そんな気持ちを知るよしもなく「そうですか?」と三上はご機嫌な様子で、もう一度全身鏡の前で服を広げている。

 まぁ、似合っているのは真実だしな。仮に彼女の身に何かあったら、俺が命を賭けて三上を守るとしよう。

 それが、この服を勧めた俺の責任という奴だ。

 大いなる力には……とは何の作品の話だったか。どうやら、大いなる決断にもまた、大いなる責任が伴うようだ。


「買うことにしました」

「……そうか。似合ってるしいいと思うぞ」

「嬉しいです。シアーのシャツと合わせたら可愛いかなって」

「あぁ! 今季のナンバーワンお洒落大学生の座は確定的だと思うぞ!」

「……ナンバーワンお洒落大学生ってワードがお洒落じゃなくないです……?」


 もっともなツッコミをされてしまったが、そんなことはどうでもいい。

 なぜ俺がこんなに元気になっているか。

 シアーとは、要はスケスケ素材ということだ。

 スケスケのシャツは、一枚では「え、ちょっとえっちじゃない?」なんて言われてしまうこと間違いなしだが、あら不思議。ノースリーブと合わせることで、腕の露出を適度に守ってくれ、清楚感をアップさせるアイテムに早変わりする。

 これなら世の中に蔓延る毒牙から狙われる確率も軽減されるだろうな。

 ノースリーブのシャツを購入し、双方ハッピーな気持ちで次に向かったのは、反対側に位置する店だ。

 こちらも先程の店と同系統のデザインが多いが、少々フォーマルな雰囲気が漂っている。

 店員さんの見た目は、黒いワイドパンツに白いシャツだった。


「ちょっとかっこいい系の服が多いな。あんまり着ないタイプの服だよな?」

「そうですね。ちょっと怖くなっちゃうかなって、普段はあんまり着ないんですけど……」


 確かに、三上は女子にしては身長が高い方だし、顔立ちもクールだ。

 ただでさえ神秘的な美しさで近寄り難いのに、服装を辛めにしてしまうことで、周りの人間はさらに遠巻きから眺めるしかなくなってしまう。

 具体的にいうと、NICEのタイミングからバリバリBADというところだ。

 個人的には、いわゆる「強い女性」感というのか、そういうのも好きなのだが。


「でも、何事も試してみようかなって。食わず嫌いしてるだけで、本当はそこから見える景色が一番綺麗かもしれないじゃないですか」


 思えば彼女は、公園で行われていた肉フェスも、渋谷から勧められたドラマも、俺がやっていたスマホゲームも……よく分からない味の水だって、最初から合わないと決めつけずに興味を持っていた。

 ……いや、水に関しては元々の趣向だったか。

 そうだとしても、偏見で物事を見るというのは愚かなことだと、彼女の言葉で感じた。


「……確かにな。俺も心がけることにする」

「ふふっ。かっこいいこと言っちゃって、なんだか照れ臭いですね」


  三上ははにかんだまま、ハンガーにかけられた新作であろう服を2〜3着傾けて見ていたが、「あっ」と声を漏らすと、何か良いことを思いついたかのような表情で口を開く。


「それじゃあまずは、私の服を選んでみませんか?」

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